料理が大好きな男子高校生と料理が苦手な女性教師が仲良くお弁当作りに励み…? 凸凹なふたりにほのぼのしすぎ注意!?
公開日:2021/5/16

ひょんなことから始まる、身長約180cmの「凸」な女教師と160cm前後の「凹」な男子高校生の“不器用でおいしいレッスン”。
…と書くが『凸凹のワルツ』(森野きこり/マッグガーデン)はインモラルなマンガではない。ウブな2人が、「好きになる」ではなく、「好き」を共有していく物語である。今のところは。
あまりのほのぼのさに、ニヨニヨしてしまうので、ぜひ注意してもらいたい。
“何一つ恥ずかしくなんてない”“好きになるのに資格なんてないよ”
自分の「好き」を他人に否定される恐怖。皆さんには経験があるだろうか。本稿のライターにはある。
主人公は料理が大好きな高校1年生の春海(はるみ)。彼は子どもの頃、作った料理をみせた女の子に「ハルくん変! 男のくせに気持ちわるー」と言われたことがトラウマになっていた。
それから料理は人前でみせるものではなくなり、ひそかな趣味となる。SNSに“ミハル”という匿名で自作の弁当をアップロード。味はもちろんだが「エモく」て「映える」見た目にフォロワーも多く、コメントをもらえたりするだけで気持ちは“あがる”。「自分の好き」を肯定されるのは嬉しい。学校ではまともに趣味を話す友達はいないが、彼にはこれだけでじゅうぶん…なはずだった。
高校で古文を教える教師・水原の忘れ物を届けに国語科準備室を訪れたところから物語は展開する。
そこには水原先生の手作り弁当があった。それは炭と見まがう代物…。思わず話しかけると“ミハル”のレシピ通り作ったという。春海は、思わず自分の弁当を差し出し、「食べるならこっちにしてくれませんか…!」と口にする。
それはファンシーな花柄オムライス。美しく、おいしい。ミハルこと春海は作り方を語る。彼のくるくる変わる表情をみた水原先生に「料理が好きなのね」と気づかれた春海は、「おかしい…ですよね」とつぶやき、走って逃げ出す。が…水原先生に追いかけられ、屋上に追い詰められ、「全然おかしくなんかない!」と言われるのだ。
先生はキュートなキャラクター・メロリンのキーホルダーをみせて告白する。彼女の趣味は「キラキラしてかわいいものを集めること」で、我ながらまったく“らしく”みえないのを自覚していると。
でも私はこの子たちが好きだし何一つ恥ずかしくなんてない
好きになるのに資格なんてないよ
春海くんはちっともおかしくない
春海は水原先生が食べてくれたときの表情を思い出し、急にドギマギする。だが水原先生は春海を呼び止め、手を取って、「また春海くんのお弁当が食べたい」と言う。「おいしくて、かわいくて綺麗で、一瞬で好きになったから」、と。春海にとって、SNS以外で料理を褒められたのは初めてだったから悪い気はしない。
春海は3日ほど考えたが、水原先生の主食が、菓子パンやお菓子と聞き、しかもこの3日それすら食べる気がしなくなったと聞き心配になる。「春海くんのお弁当を食べてから今まで食べていたものが味気なくなって」と言われ、また赤面する春海。彼は、自分が弁当を作るから先生も自分で弁当を作ってきてほしい、と言う。「添削します。自炊はできるようになったほうがいい」。
教師と生徒の“内緒”のドキドキ逆レッスンは、こうしてスタートした。
不器用に料理でワルツを踊る2人。心が通じ合ったその先はどうなる…?
好きなものを好きだと言う。相手が生徒だろうと気にしない。本作のヒロイン・水原先生は、身長約180cm。その上背と、呪術が使えると噂になるほどの雰囲気から「巨神兵」などと呼ばれていた。何もかもが明かされているわけではないが、素直で愛らしい。
おにぎりが作れただけ、卵を割れただけで喜ぶ。メロリンのキャラ弁当がかわいすぎて食べるか悩む。思春期の少年ではコロっといくだろう色気もある(口元のほくろもいいのです)。そして水原先生は春海と一緒に料理をしていくうち、特別な感情を抱きつつあるのに気づく…。
禁断のラブ・ロマンスな雰囲気は、ほんのりとある。けれど本作の魅力は「好きなものは好きでいていい、誰かと好きを共有できるのは幸せ」だと感じられるところだ。
現実に「流行ったり、多くの人に認められて一般化したり」した趣味以外は、特殊なものとされてきた。本作は、「〜オタク」と呼ばれてきた本稿のライターのような人たちの気持ちを穏やかにしてくれる。
スローテンポのワルツのように、手を取り合ってゆっくりと踊り、進む…かもしれない、2人の行く末も期待して見守りたい。
文=古林恭