残されたのはどっち? 瓜二つな双子と、唯一双子を見分けられる少年の切ない物語
公開日:2021/5/19

傍から見ると幸せそうに見えても、どんなに恵まれていても、悩みのない人間なんていない。皆、多かれ少なかれ何かしら抱えながら生きている。しかし、だからこそ人は自分以外の“誰か”に惹かれるのだろう。『僕のジェミニ』(森川侑/KADOKAWA)は、そんな人間の不完全さ、脆さを描いた切ないギムナジウム・ストーリー。
本作品の主人公は、地味でさえない男の子のジョン・アターソン。特にこれといって誇れることなどなかったジョンだが、彼には唯一自慢できることがあった。それは、学園の人気者である双子の兄弟ジキルとハイドの親友であること。そして、親ですらなかなか見分けることのできない瓜二つなジキルとハイドを正確に見分けることができること。

ジキルとハイドは、いつも互いに入れ替わる遊びをしていた。クールで冷静な兄のジキルが弟・ハイドのふりをし、明るく表情豊かな弟ハイドが兄・ジキルのふりをするのだ。2人の〝遊び〟の精度はとても高く、誰にも気づかれることがなかった。その2人だけの秘密の遊びを見抜いたことで、ジョンは共犯者として2人に歓迎され、やがてかけがえのない親友になったのだった。
だが、そんな幸せの最中、双子の兄であるジキルが突然死んでしまう。

ずっと一緒だった双子の片割れに先立たれ、ひとり悲しみに暮れるハイド。しかし片割れの死から3か月後、ジョンはハイドに対しある違和感を覚える。ハイドにジキルの面影が重なるのだ。思わず「きみはジキルなの」と問うジョンに、ハイドは「ジキルはもうどこにもいないよ」と悲しげな表情を浮かべるが――。


果たして残されたのはハイドなのか、それとも本当はジキルなのか―――。
作中、死んだはずのジキルからジョンに宛てた手紙が届いたり、学園にゴーストが出るという噂が立ったりと、少しのミステリアスさが入りつつ、ジキルとハイドが交差する。もはや彼自身、今の自分がジキルなのかハイドなのか曖昧になっているのでは…。そんな感情がよぎる中、物語は「ジキルの秘密」へと繋がっていく。お互いのことをなんでも「わかっている」と思っていたジキルとハイドだが、この秘密のことは知らなかったのだ。

また、物語だけでなく、装丁にも注目したいのがこの作品。カバーデザインにもなっている星空は、作中でもジキルとハイド、そしてジョンを繋げる思い出の景色として度々描かれる。もちろん、星空にはタイトルにもなっている「ジェミニ(ふたご座)」も。
この『僕のジェミニ』の物語の全貌が見えたとき、双子それぞれが抱えてきた思いに誰もが涙することになるだろう。そして終盤で描かれる真実を受け入れたジョンの温かさ、残された片割れの決意に、2人が永遠に幸せであることを星に願いたくなるはずだ。
文=月乃雫