「東大入って自分だけ幸せになろうだなんて、ママ許さないからね!」東大卒作家が半自伝的漫画として毒親を描く
公開日:2021/6/3

「毒親」の定義は難しい。幼少期、当たり前だと思っていたことが虐待であったり、ひどいことをされても親を見捨てられないと自らを追い詰めたりする人は後を絶たない。
『汚部屋そだちの東大生』(ハミ山クリニカ/ぶんか社)の主人公・ユウもそうだった。
自宅は虫の這いまわる汚部屋で、トイレは7年間壊れている。母に行動を制限されながら、共依存に陥っていることを自覚できないまま彼女は育つ。
本作は東大卒の作家・ハミ山クリニカさんの半自伝的漫画で、すべてが事実ではない。とはいえ、ハミ山さんが自分の生まれ育った家庭以外の家族像を知ったのは、家を出てから何年も経ち、結婚してからだとあとがきで明かす。
主人公の母は美しく、いつもやさしい笑顔を振りまく女性だ。
しかしいったん家に入ると足を踏む場もないほどの汚部屋に暮らし、娘が東京大学に入った直後には、微笑みながらこう言い放つ。
“自分だけ幸せになろうなんて ママ許さないからね!”
ユウにとって母の言いなりになることは当然のことだった。
理想どおりに娘が動かず、少しでも反抗すると暴力をふるう母。なぜか父とはほとんど会えない。成長してその理由を知ってからは、ユウは父に大切にされていなかったことを実感させられる。彼女の中で育まれてきた「家族像」は、そんな両親、特に母の姿だった。
だが、ユウは大学で山上さんという友人と知り合ったことで、初めて自分から動き、母から離れることを考え始める。しかし母は、東大を卒業した後、自分を幸せにしてくれる娘との未来を夢見ている。
一緒に家から出ることを提案するユウだが、母は拒否する。彼女にとって汚部屋には、たくさんの思い出が詰まっているからだ。
本作はすべてが事実ではないからこそ、母の心情を描写する場面もあり興味深い。
昔、恋人が他の女性と結婚したことに傷つきながらも、「がんばって生きてかないと」「だって私にはユウちゃんがいるから」「パパの分まで守ってあげないと」と彼女は立ち直ったのだ。二人で幸せになりたい。その強い思いが、娘を苦しめることに繋がると想像しないまま日々を過ごしてきたのが、ユウの母だった。
東大を卒業した後、ユウがどのような行動をとるのかに注目してほしい。
本作はひとつの結末を迎えるが、それは終わりではない。母の人生もユウの人生も、これからも続き、どこかでまた交わる可能性がある。
毒親を持った子どもには、何かのタイミングで自分のために親と離れなければならないときが訪れる。
しかしそれは、周囲の支えや自分自身の強い決意があってこそ実現する。現実の社会では、共依存関係に陥ったままの親子の話もあふれている。
「毒親」とは「親子の共依存」とは何なのか。
それを知りたくなったとき、本作は大きなヒントをくれるはずだ。
文=若林理央
