「たった数日の関係でも子どもが心を開く一瞬を逃したくない」――『漫画家しながらツアーナースしています。』著者・明さんに聞く、ツアーナースという仕事

マンガ

公開日:2021/6/8

たった数日だからこそ、子どもが心を開く一瞬を逃したくない

――「たった2~3日でも自分にできることをしたい」と、病気だけでなく、子どもたちの心に向き合おうとする姿に心打たれました。子どもに向き合う上で大切にされていることは?

:たった数日なのに、子どもたちの問題に首を突っ込んでいくのは無責任かな、と考えることもあります。残された側が困るのではないかと。漫画の中で子どもたちの話を聞いたり、問題に関わる場面を取り上げていますが、それはほんの一部。ほとんどは、ただ見守ったり、保健室で待機したり、救急箱を抱えてみんなの後ろについていくだけです。でも、そのなんでもない部分がツアーナースの第一の役割だということを忘れないようにしています。

――ただ見守る、ということが大事なのですね。

:はい。ただ、看護師の経験を重ねるなかで、一瞬一瞬の大切さが身に染みています。担当看護師の代わりに患者さんの車いすを押していたら、患者さんから心の奥底にしまっていた気持ちを吐露されたことがありました。ママの面会に来た男の子になにげなく声をかけたら、ママに言えずにいた気持ちを泣きながら話してくれたことも。その逆のパターンももちろんあります。たった一瞬の出来事が、誰かにとって大きな出来事になることがあるんだと、何度も思い知らされました。

 きっかけは、どこに落ちているか分かりません。子どもたちも、普段の生活とは違うから、自分の生活に大きく関わる人じゃないから、学校に帰ればもう会わない人だからと、つい口を開いてしまうことってあると思います。もしその一瞬が、私が関わった数日間に起こるものなら見逃したくない。何がいつ起こるか分からないからこそ、アンテナを張り続けています。きっと毎日だったらアンテナを張り続けるのはしんどいと思うんですよ。でも数日ならできる。それは、ツアーナースの強みでもあると思っています。

――本作では後日談の掲載もあります。腎臓の疾患でサッカー選手になる夢を諦めていた男の子が、明さんのサポートで林間学校を楽しみ、そこで新たな夢を見出したとか。

:私は養護教諭の先生のサポートをしていたので、私のサポートといえるかどうかは微妙です(笑)。でも、子どもたちとの出会いは基本的に一度きりで、自分のしたことの答え合わせはめったにできず、正解が分からないまま次の現場に向かいます。だから、その報告を1年越しに聞いたときは、彼がもう一度前を向けたこと、林間学校が楽しいと思ってくれたことだけでもよかったと思えました。親御さんの気持ちを考えたら、お腹の底から「よかったね!」と叫びたくもなりました(おうちに帰って「やったーー!」と叫びました)。

漫画家しながらツアーナースしています。 現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション p.73

漫画家しながらツアーナースしています。 現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション p.74

 正解は人の数だけあるので、たったひとつの答え合わせですが、それでも私の中でとてもとても大きな喜びになり、自信にも繋がりました。

advertisement

人をからかうのはいけないこと。でも「違う」と感じることは悪くない

――「こんなに違うから人って面白い」と感じたことがツアーナース(看護師)になったきっかけだとか。「人と違う」子どもを傷つけないために心がけていらっしゃることはありますか?

:人と違うのは、すべての人に当てはまることだと思います。誰とも同じではないから、ぶつかることもあるし、相互作用で思いもよらない楽しさが生まれることもある。それが面白い! それを、どんな人と接するときにも忘れないようにしていますし、どんな相手でも尊重したいなと思っています。

漫画家しながらツアーナースしています。 現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション p.173

 ただ、子どもが成長発達する過程では、「みんなと同じ」と感じ、安心感を得る経験が、じつはとても大切なんですよね。だから子どもたちは、心の中で自分と周りを比べては葛藤を繰り返しています。「違う」ことが怖いと感じる時期もあるから、違うことに敏感になったり、「同じ」であることに固執しすぎたりします。でもそれは悪いことではなく、成長する上で大切な過程。その経験が、ひとりの人間としてのアイデンティティを育む経験になっていくわけです。

 だから、良いこと悪いことは伝えても、「違う」「同じ」と感じた感情そのものや、その子自身のことは決して否定せず、受け入れるようにしています。ただ、お友だちの「違い」をからかう子がいたら、一度受け入れた上で「からかうこと」はいけないことだと伝えています。

 詳しく知りたい方には、心理学者のE.エリクソンや、C.ロジャーズの著書をおすすめします。

――本書を読んでいると、ツアーナースとは、大変ですが、とてもやりがいがあるお仕事だと感じられます。

:コロナの影響で、ツアーナースに求められることはこれから変わっていくのかな、と思っています。続けられるかどうか、改めて考えなければいけないかなと。でもやっぱり、子どもたちと触れ合って、元気なその姿を見ることは、私の元気や頑張れる力の源にもなっていて。子どもたちの楽しい時間をお手伝いできることは、この上ない幸せ。それがツアーナースを続けるモチベーションになっています。できることなら、一生続けたい仕事です!

――本作を通して読者にどんなことを伝えたいですか?

:この漫画を楽しんでもらえたら嬉しいです。感動したり癒しになったりしたら、最高です。それで時々「勉強になるな」とか「考えてみよう」なんて感じてもらえたら、天にも昇るような心地になります。