鈴村健一「河童さんのような天才に打ち勝つこと。それが僕の人生の目標です」【あの人と本の話】
公開日:2021/7/14

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、総合プロデュースを手掛ける即興劇『AD-LIVE2021』の公演を控える声優の鈴村健一さん。本誌では紹介しきれなかった愛読書の話や、『AD-LIVE2021』に初登場するキャストについてたっぷりとうかがいました。
(取材・文=倉田モトキ 撮影=山口宏之)
今回おすすめしてくれた『河童が覗いたヨーロッパ』は、鈴村さんが初めて妹尾河童さんの文章に触れた一冊でもある。以来、すべてのエッセイ、小説を今も読み続けているという。
「最初は知人が貸してくれたんですよね。理由はよく覚えていないのですが、たぶん僕が好きそうだと思ったんでしょう。ドンピシャでした(笑)。その後、自分でも買い直して、それ以外の河童さんの本も全部そろえていきました。いろんなエッセイ本があるのですが、特にこの『ヨーロッパ』と『インド』(『河童が覗いたインド』)は当時の電車のお供でした。電車に揺られながら、いつもいろんな国を旅している気分になっていましたね」
鈴村さんを虜にしたのは、内容の面白さはもとより、河童さんのほかにはない着眼点や発想力だ。
「自分が見たいものだけを見て、興味が生まれれば触れようとする。そうした新鮮な感性を、河童さんはすごく大事にされていると思うんです。特に印象的だったのが『河童の手のうち幕の内』というエッセイに載っていた“ライター丸呑み事件”。飲みの席で『100円ライターを飲み込むことができるか?』という話題になり、みんなの『無理だ』という言葉に対して、河童さんは『やってみないと分からない!』と本当に飲み込むんですよね(笑)。それで、死にかけて病院に行くっていう。それを読みながら、“どうかしてるなぁ”と思ったんです(笑)。僕の人生の目標は“天才に打ち勝つ”なんですが、河童さんはまさしく天才。だからといって、河童さんのようにライターを飲み込むことはできませんが(笑)、ただ、自分なりのやり方で天才に打ち勝つにはどうすればいいかということは常に考えています」
天才たちだって、きっと努力をしている。しかし、必死に頭をひねらなくても規格外のことをさらりと思いついてしまう天才たちに、鈴村さんは嫉妬しているのだという。
「前に一度、天才と呼ばれる方に酔った勢いで言ったことがあるんですよ。『ずるいですよ』って。そしたら、『俺だって努力してるよ!』って怒られました(笑)。そこで、『……そ、そ、そ、そうですよね』と当たり前のことしか言い返せないところが、まさに僕が天才ではない何よりの証拠なんですけどね(笑)」
なお、鈴村さんは今回の『河童が覗いたヨーロッパ』以外に、2冊の本を候補として選んでくれていた。そのひとつが奥野一成の『教養としての投資』。
「少し前まで投資に対してすごい先入観があり、ギャンブルのようなものだから触れないが吉だと思っていました。でも、ふとこの本を手にして、考え方がガラリと変わったんです。ファンダメンタルという言葉すら知らなかったのですが、調べていくと、当然ながら投資はただのギャンブルではなく、社会と大きなつながりがあることが分かった。冷静に考えれば分かりそうなものですが、“投資”という言葉を目にも触れないようにしていたので、世の中の仕組みすら理解できていなかったんです。40代の半ばを過ぎてもなお、自分の中に開いていない扉があった。この本のおかげで、それに気づけたことも嬉しかったですし、人生の向き合い方や価値観が大きく変わりましたね。あ、だからといって、全ての人に投資をすすめているわけではありません(笑)あくまで自己判断で。」
またもう一冊が、『スーパー戦隊(学研の図鑑)』。特撮好きを公言する鈴村さんらしい推薦本といえる。
「ただ、この本はいわゆるファンブック的なものではなく、あくまで図鑑なんです。動物図鑑と同じように、過去のスーパー戦隊たちがあたかも実際に存在していたかのように紹介している。そのセンスが面白くて。僕も以前、架空の特撮作品の主題歌を歌った『思い出のスーパーヒーローソング集』というCDを出し、その中のブックレットで架空の放送年表や、その作品が生まれた背景などをでっち上げたことがあるんですが(笑)、それに近いものを感じましたね」
フィクションは本気で挑めば挑むほど、やがてそこにリアルさが生まれていく。これは鈴村さんが以前からずっと心に留めていることだ。
「お芝居の基本もそれだと思うんです。演じていることをいかに本物に変えられるか。僕たち声優がやっている仕事は基本的にフィクションですが、そこには絶対的なリアリティが必要で。この『スーパー戦隊』の図鑑はまさにそれをやっている。ただ単純に面白いだけじゃなく、すごくクリエイティビティにあふれているなと思いました」
人気声優たちが即興劇で一本の舞台を作り上げる『AD-LIVE』。鈴村さんが総合プロデュースを務めるこの公演も、今年で13回目を迎える。わずかな設定だけを与え、あとはすべて役者任せ。シンプルでありながら、毎回違った感動が生まれるのは、公演ごとに鈴村さんのキラリと光るアイデアが盛り込まれているからだ。
「今回は二幕構成に挑戦します。同じ役者が一幕と二幕で同じ役を演じる。人生はやり直しがききませんが、フィクションではそれが可能なのが面白いところで。生きていると、“あの時、別の選択肢を選んでいたらなぁ……”と思うことが多々ありますよね。それを舞台で見せていけたらなと思っています」
過去にさかのぼって人生をやり直す物語は、さほど珍しいものではない。しかし、“台本のない即興劇”となると、見え方が大きく違ってくるという。
「プロの作家や脚本家が書いたものも素晴らしいのですが、そこにはどこかしらに、“人生をやり直したら、こんないいことがあるかもしれない”、“だから今からでも生き方を変えてみよう”という、書き手のメッセージが加わったりする。中には予定調和すぎる結末もあったりして。でも、即興劇だと物語がどう転ぶのかは誰も分からないんですよね。やり直した結果、より悪い人生が待ち受けているかもしれないですし(笑)。その面白さは確実に感じてもらえると思います」
また、気になるのは参加するメンバーたちだ。先日発表になったキャストには初登場の名前も多く、ファンを沸かせた。そこで総合プロデューサーの鈴村さんに、初参加組の面々の魅力をひと言ずつ語っていただいた。
「杉田智和くんは、以前からファンからの要望が高く、いよいよの参加となります。彼は普段のアフレコでも即興芝居をしているようなところがありまして(笑)。しかも、今回は相手役が木村昴くんですからね。きっととんでもないことになると思います。諏訪部順一さんは初登場ではあるんですが、実をいうと『AD-LIVE』の原点とも言える企画を披露した自主ユニットのメンバーだった方です。ですから、僕の中では満を持してという思いがあります。安元洋貴くんはすごくまじめな人。どれくらいまじめかというと、オファーをしたその日から、どんな役にしようかと考えてくれているみたいです。『AD-LIVE』の出演者史上、もっとも早く役づくりを初めた人ですね(笑)」
こうしたベテラン声優に交じって、若手がどう立ち向かうのかも楽しみなところ。
「畠中祐くんにもずっと出てほしいと思っていました。ライブイベントなどで何度か共演しているのですが、彼の世界に引き込まれる瞬間が何度かあって。集中力がすごいですし、常に役をどう表現するかということを考えている“役者脳”の持ち主なので、本当に楽しみです。そしてもう一人が『呪術廻戦』の虎杖悠仁役でおなじみの榎木淳弥くん。見た目がかっこよく、クールそうに見える彼ですが、ものすごく愛を込めた言葉で彼を表現するなら“バカ”なんです(笑)。独特の世界観を持っていて、人としても面白い。即興劇って、己の体の延長線上に役があるので、人間としての面白さが如実に現れるんですよね。しかも、今回は森久保祥太郎くんが相手役なので、どんな役を演じてくれるのかとても興味深いです。こうしてみると、自分でいうのもなんですが、本当にお客さんが見たいと思えるキャスティングと組み合わせが実現できたなと思います。きっと、想像もつかない展開が待ち受けていると思いますので、その勇姿をぜひ劇場でご覧ください!」
ヘアメイク=大橋美沙子 スタイリング=村田友哉
舞台『AD-LIVE2021』

総合プロデュース:鈴村健一 出演:杉田智和、諏訪部順一、安元洋貴、畠中 祐、榎木淳弥ほか 9月4日(土)・5日(日):東京、9月25日(土)・26日(日):埼玉、10月9日(土)・10日(日):大阪にて上演 ●大まかな世界観とごくわずかな決まりごと以外はすべて役者に委ねられた、人気声優たちによる即興劇。任意に紙を引き、そこに書かれた言葉を必ずセリフとしていわなければいけない“アドリブワード”といった仕掛けも用意され、役者たちを思わぬ方向へと導いていく……。 ライブ・ビューイング、ライブ配信も開催! 9/4(土)木村昴・杉田智和、9/5(日)諏訪部順一・吉野裕行 9/25(土)畠中祐・八代拓、9/26(日)榎木淳弥・森久保祥太郎 10/9(土)下野紘・前野智昭、10/10(日)蒼井翔太・安元洋貴 (c)AD-LIVE Project
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