理不尽や失敗を笑い飛ばす!「あるある」な日常の中で遭遇する“厄日”な体験を描く『きょうも厄日です』

マンガ

更新日:2021/8/18

『きょうも厄日です』2巻(山本さほ/文藝春秋)

 我が身を振り返ると、自分の不幸話を人に面白おかしく話すことをあまりしたことがない。もし話しているとしたら、たぶん自分でそれを不幸だと思っていないものである。それもそのはず、失敗したり理不尽な目に遭ったとき、たいてい私は笑えないくらい凹んだり、烈火のごとく怒り散らかしたりしているからなのだ。

笑えるながらも絶妙に嫌な厄日体験

 山本さほさんの『きょうも厄日です』(文藝春秋)は理不尽な出来事や失敗談をこれでもかというほどフワッフワに軽い読み応えで漫画にしている作品。誰しも思い当たる「あるある」なシチュエーションの中で遭遇した困惑や失敗を、笑い話に変えている。このたび発売された第2巻を読むと、まあまあ酷い目に遭っているのだが、山本さんの語り口があまりにも軽妙なため、全然そんな感じがしないのがすごい。

 例えば、電車の中で酔っ払ったおじさんになぜかグミをポイポイと投げつけられた話。

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 スーパー銭湯で見ず知らずの子どもが目の前で絆創膏を剥がし、湯舟にポイっと投げ捨てた話。

 歯医者で明らかに治療ミスをかまされたっぽいのに、詳細を説明されず、モヤモヤしたままその日の料金が無料になった話(しかも後日、その歯を抜くことに……)。

 どれも別に死にはしないけれど、実際にそんな目に遭ったらめちゃくちゃ嫌だなぁ……というポイントをついてくる。重くはないが確かに厄日、という山本さんに降りかかるその“厄”のさじ加減が絶妙である。

厄日の中に見え隠れする、大人ならではの楽しみ

 そんな中に時折挟みこまれる、「大人の楽しみ、時々トホホ」なエピソードに癒される。

 ひとつは、山本さんが定期的に行っている「エビフライ祭り」の話。子どもの頃、父親の甲殻類アレルギーゆえにエビフライにほとんどありつけなかった山本さん。大人になった今、それを取り返すかのようにエビフライを大量に食べる日を設けているのだという。誰にも邪魔されず、栄養のことをうるさく言われず、好きなものを好きなだけひとりじめ。これぞ大人になってよかった、と心底思える瞬間である。が、これまでに山本さんは、様々な「エビフライ詐欺」に引っかかってきたのだそう。小さなエビを何個も繋げているものや、エビを細く長く引き伸ばしているもの、エビを細かく刻んだ練り物を使っているエビもどき……。とんかつやコロッケではこんな事態にはならないのに、なぜかエビフライでだけ詐欺が横行していると山本さんは嘆く。

 冷蔵庫の中で生クリームをこぼしたエピソードもいい。コーヒーに入れる小さなミルクが好きで、親の目を盗んでコソコソ飲んでいた山本さん。一人暮らしを始めて以降、何をしても誰にも怒られないのをいいことに、生クリームを牛乳みたいにゴクゴク飲むように。ある日、冷蔵庫の中で生クリームをこぼし、絶望してそのまま冷蔵庫をそっと閉じた結果、1週間たってカピカピに乾燥した生クリームが爆誕。これがカリカリして濃厚な味わいで非常においしく、今では平皿に生クリームを流し込み、乾燥生クリームを量産しているという。

理不尽を笑い飛ばせるようになりたい

 生きていると、納得がいかないこと、理不尽なことのすべてを避けて通るのは難しい。どんなに注意深く警戒していたって理不尽な目に遭うときは遭う。そのたびに私はいちいちプンプンと怒り、ネチネチと根に持ちまくり、この世界に対する憎しみを強め、人生のつらさに思いを馳せるわけだが、これくらい軽く笑い飛ばせるようになれたらいいなぁ、と読んでいて何度も憧れを募らせたのだった。

 でも、山本さんはあとがきで、「笑ってもらえると思って話したことで心配されてしまうというミスをよくしてしまう」「この漫画を読んでいる時は心を悪魔にしてゲヘゲヘ笑ってくれると嬉しいなぁ」と書いている。だから、この本を読んでそんなに生真面目なことを考えるのも野暮なのかもしれない。

 とりあえず、生クリームを冷蔵庫で乾燥させるやつは、めちゃくちゃおいしそうなので私もやってみようと思います。ゲヘゲヘ。

文=朝井麻由美