「人生を懸けてでもアンタの友達になりたい」ぼっちギャルが友達の作り方と友情の育み方を教えてくれる物語

マンガ

公開日:2021/8/14

友達として大好き
『友達として大好き』(ゆうち巳くみ/講談社)

 友達ってどう作るんだっけ? そんな悩みをもつ人は『友達として大好き』(ゆうち巳くみ/講談社)を読んでほしい。

 私は今までどうやって友達を作ってきただろうか。これがしっかり言語化できない。若い頃から20年以上の付き合いがある友人は複数いる。でも彼らとある日突然友達になったわけではない……。そして自分の子どもは小学校に上がったばかりだが、彼に具体的な友達作りの方法を説明できないのにも気づいた。そんな不安な中で見つけたのが本作である。

『友達として大好き』は“誤った”友達作りの知識しかないゆるゆるギャルが、ガチガチ優等生の少年と「本当の友達」になるために努力する物語だ。言い古した言葉で恐縮だが、描かれているのは高校生の甘酸っぱい青春であり、学園ドラマである。たとえそうであっても、大人のあなたが友達の作り方を知る手がかりになる作品だ。

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規則がほしいギャルと出会ってしまったカタブツ生徒会長

 ある日の生徒会室。会長の高敷結糸(たかしきゆいと)の前にびしょぬれのギャル、櫨沙愛子(はせ さなこ)が現れる。彼女はルックスは抜群だが学校中に“セクシー女生徒”と認識され、よく言えば息を吸うように恋をする、悪く言うと誰とでも仲良くなれば色々とシてしまうのだ。

「いつものように」ある女生徒の彼氏にちょっかいを出してしまった沙愛子は、水をかけられた挙句、追いかけられて逃げ込んできたのだ。彼女はかくまってくれた結糸に初対面で告白をする。彼女は男の子が喜ぶことを何でもやりたいのである。

 しかし彼はハッキリと断る。「エッチができるのに?」と沙愛子。「生徒規則には男女交際禁止、不純異性交遊禁止とあり、そんな貞操観念の人を好きにならない」と結糸。あきらめない沙愛子は必死にお誘いをかける。照れることもなく真面目に断っていく結糸。二人は平行線だ。

 ふと沙愛子は男女が友達になるのは校則違反なのか、と問う。結糸は違反ではないと答える。

人生を懸けてでもアンタの友達になりたいな

これが恋愛じゃないなら
すごく仲良しの友達にならなきゃ
そうよ
友達として大好きなの

 彼女はそう言うとキスをする(しかも深めの)。「二度と僕に近づくなよ」ついにキレる生徒会長。

 そう、彼女にとって友達になるよりもキスの方が簡単なのだ。

 いや、異性にいきなりこのようなことを行うのは現実では犯罪行為にもなりえる。ただ友達作りは誰でも簡単にできるわけではないのは理解できる。

 その後もしつこく生徒会室に来る沙愛子に、結糸が出て行ってくれと言うと彼女は服を脱ごうとする……。一応書いておくと、物語はこのままエッチなラブコメルートには進まない。

 友達は校則違反ではないと言ったものの、男女交際を疑われたくない結糸は沙愛子と距離をおきたい。彼は規則を盾に、「友達は触らない」「まさぐらない」などと彼女を正す。ついには「1000個はある規則を全部守れるなら友達になってやるよ」と言う。

 それは結糸の適当な嘘だった。だが「繋がった人とずっと繋がる為の規則がほしい」沙愛子は規則を言われるたび心から喜ぶ。

あたしゆい君が泣いてる時
一番に涙を拭う友達になる

友達作りに悩むあなたを救う? 現実でも生かせる「ゆい君式友達の規則」

 沙愛子は直情的で感覚派だ。だが実は賢く勘がいい。知り合って間もなく結糸が家に問題を抱えているのに気づく。

 実は結糸も人付き合いは不得意で、過去も現在もそこに辛さを抱えていた。そんな彼は「明るく生きて、前を向いている」彼女に影響を受けて、周囲との関係を徐々に変えていくのだ。

 もちろん沙愛子も規則を守り成長していく。彼女は気づけるようになるのだ。人に直接触れなくても、言葉を掛け合い、心が通じ合うと感情がブチ上がることに。ときおりあるこの描写は、本作の見せ場のひとつだ。

 徐々に距離が縮まる二人。しかししつこいようだが恋は生まれない。

・触らない
・下ネタを振らない
・行動する前に10秒考える
・その10秒間で相手がどんな気持ちか想像する
・問題が起きたら正直に助けを求める

 これらは結糸が沙愛子に、本当の友達になるために課した規則の抜粋だ。ここでいい大人の私は、こんな風に人付き合いができているのか、真剣に考えてしまった。転職や学校関係などで、今後も初めての出会いはある。また子どもが友達関係で悩むことがあるかもしれない。その時きっと参考にできると感じた。

 本作は沙愛子が結糸といるために副会長に立候補し、これまでの自分のイメージを覆して見事に当選。生徒会のみんなと、役割上の仲から友達になっていく様子が描かれていく。もちろんその中には結糸もいるのだ。

「ちょっとエッチな友情譚」という印象で始まった本作。が、途中からは「元・ぼっちギャルと生徒会長の友情物語」になる。

 物語の途中から沙愛子と結糸はとっくに友達だ。それでも彼女は規則が聞きたい。3巻のラスト近くで描かれる、学校を卒業してからの二人の会話は、クライマックスを見事に盛り上げるので要注目である。

 彼らは「友達として大好き」なままなのか。ぜひ全3巻を一気に読んで確かめてみてほしい。

「友達作りはベリーハード」「恋より友情の方が長く続く」言われてみれば誰でも知っているようでそうでないことを、改めて突きつけてくる作品だ。

文=古林恭