ズボラ女子と家庭的すぎるオカン系男子が両片想い? もどかしさ120%のハイテンション同居ラブコメ!

マンガ

公開日:2021/9/3

わたしのお嫁くん
『わたしのお嫁くん』(柴なつみ/講談社)

 デキる女が会社の後輩男子を“嫁”にした? 同居ラブコメ『わたしのお嫁くん』(柴なつみ/講談社)が話題だ。

 恋仲ではなかった男女がルームシェア、つまり同居を始める物語。いっしょに住めば一気に仲は深まり、あっという間にくっつきそうなもの。だが速見穂香(はやみほのか)と山本知博(やまもとちひろ)は非常に“モタモタ”している。

 26歳&22歳と、2人は若いとはいえイイ大人だ。それにしてはじれったい恋模様が続く。もどかしさ、そして速見のキャラクターに山本と私たち読者の心は翻弄される。それが本作の魅力なのだ。

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惚れている先輩女性から「嫁に欲しい」と言われた男の決断

 26歳の“はやみん”こと速見は、仕事はデキて性格も良く、男女問わず誰からも好かれる社内のアイドル的存在で、人望も厚い。ビジネスパーソンとしては完璧と言える。そんな彼女が指導係をしている後輩の山本は、速見に尊敬の念を抱きつつ、ひっそり片想い中である。

 あるとき山本は飲み会の後、速見が仕事で使う忘れ物を届けに、アポなしで彼女の家を訪れる。もちろん「酔って夜にいきなり来た」ということもあり、すぐ帰ろうとする山本。だがそこで速見宅のカビ臭さに気付く。酔った勢いもあり強引に家に上がると、そこは腐海のような汚部屋……。

 実はオフの速見はズボラモンスターだったのだ。

 山本は酔ったまま、ものすごい勢いで部屋を片付け始める。彼は“家庭的すぎる男子”で、かいがいしい“オカン力”と高い“家事スキル”を持っていた。速見は恥ずかしさよりも、後輩の意外な一面と、その手際の良さに見惚れ、真顔でこう言ってしまう。

お嫁さんに欲しい…!!

 山本は酔ってもいたため「あんたはル○バと結婚しろ」と捨てゼリフをはいて帰宅する。翌日、彼は前夜の非礼を詫びまくったが、彼女のプライベートを知り、秘密にすることで、速見と先輩後輩以上の仲良しになる。

 それからの山本は週3くらい彼女の家に通い、社内アイドルのズボラさを叱りながら家事をするように。先輩はお礼として仕事を手伝い、後輩はそのまたお礼で食事を作りに行く……これが繰り返された。

 そのうち速見は「彼といることが」好きになっていく。そして毎日こうやって会えたらいいな、と“無自覚に”思い、また口にしてしまう。

一緒に住まない?
嫁として

 2度目のプロポーズ? に山本は凹む。「最近イイ感じだったのに、これは意識してない奴に言うやつだ……」と考えつつ、開き直って「下心を隠して嫁になる」から始めようと決意する。

 もちろん速見は本気だ。「山本くんはお嫁さんだよ」「わたし大黒柱になる! 家賃持つから部屋を借りよう」と張り切る。かくして通い婚(?)状態から、ルームシェア生活がスタートした。

 ここまで読んだ方はわかると思うが、速見は少々独特な人生観をもち、鈍感で天然だ。

 同居後に山本の兄へ「安心してください、絶対に手は出しません」と言い、山本の心をエグる。ただ彼に好きな人がいると聞くと、めちゃめちゃ気にもする。「旦那として見限られたらどうしよう」という思いからだけだが……。はたして山本の想いは伝わるのか。

速見は気持ちを秘密にしたい

 家事は完璧にこなしてくれ、うまい“愛妻(?)弁当”に舌鼓をうつ速見は、新婚ボケのような状態だ。山本は面倒見がよく家事が本気で好きだが、しっかり進展もあきらめておらず、たまに仕掛けていく。

「こぼさないように」と料理を箸で速見の口まで運び、風呂上がりの彼女の髪の毛をやさしく乾かし、新婚ごっこのように“いってらっしゃいのキス”まで(頬に)してしまう。

 風呂上がりの山本に「男子」を感じてしまうこともある速見は「ちょいちょいドキッとさせて! 次は何を仕掛けてくるの」と落ち着かない。

 逆に山本の誕生日祝いの帰り道、速見は酔っている彼の手を思わず握ってしまう。だが翌朝、山本は二日酔いでそのことを覚えておらず、しばらく「なんなの!」となる。彼女は確実に変わってきていた。

 速見は友人の高橋君子(たかはしきみこ)に「同居する男嫁とうまくやるにはどうしたら」と相談する。君子は「それって気になる人ができたってことだよね」とズバリ。これは全読者がツッコミを入れていたことだ。

 だが「気になったら好きな人になるってことでしょ? 恋愛って終わるものでしょう…?」と速見は力説する。

 彼女は恋愛に対してもズボラなのを自覚していたのだ。君子は目を点にし、一切共感できず最後に「もうよくわからん、最初のほうから」と言う。正直、読者の私たちもそうなのだ……。

 ただ速見の考えは明確だった。「大事な嫁と別れたくない、2人で作ってきた楽しい生活を壊したくない」である。しかし“流れ”は止まらない。速見は山本がいない日は寂しくなり、体調不良のときは看病され、ちょっとしたスキンシップでテンションが上がるようになる(これは山本も)。

 そして山本の同期・赤嶺麗奈(あかみねれいな)が登場。彼女は2人のルームシェアを解消させるために謀略を巡らすが、結果「彼に同居人以上の感情を抱いていること」を速見に自覚させるのだ。

 意識が変わると見える風景も変わる。日々ニコニコ&プンプンお世話をしてもらっている状況にガチガチになる速見は、これからどうしていきたいのか。

 山本はきっとそれを知りたい。私は知りたくもあり、知りたくない気持ちもある。ハッキリさせずに、このもどかしさをもう少し楽しませてもらいたいからである。

文=古林恭