Netflixで実写化決定! 思春期男子2人の恋物語『ハートストッパー』が教えてくれること
公開日:2021/9/11

「俺の好きな子が女って決めつけてない?」
イギリスで話題をさらい、ネットフリックスで実写化が決定した話題作が2021年夏、日本に上陸した。
『HEARTSTOPPER ハートストッパー』(アリス・オズマン:著、牧野琴子:訳/トゥーヴァージンズ)は、ゲイであることをカミングアウトしながら男子校に通う高校生・チャーリーと、ひょんなことから彼と知り合い、惹かれていく1学年上のニックのラブストーリー。
男子同士のラブストーリーですが、それだけにとどまらず、LGBTQ+のさまざまな恋愛、主人公たちが自分のセクシュアリティに悩む姿、家族との関係などが明るく丁寧に描かれています。
2021年9月16日に待望の3巻が刊行! たった3ヶ月で本国の出版ペースにほぼ追いつくという、異例の刊行スピードです。今回は担当編集である小泉宏美さんに、作品の魅力を伺いました。
(取材・文=宇野なおみ)
いろいろなタイミングが奇跡的に重なった、ハイペースでの出版
――6月末に1巻、7月末に2巻、そして9月中旬に3巻を発売、翻訳作品としては驚異的なスピードです。この作品と出会われたのはいつだったのでしょうか。
小泉宏美さん(以下、小泉):実は、2021年の2月ごろでした。
――えっ? 2020年ではなくてですか?
小泉:はい(笑)元々、弊社はコミックの出版経験がなかったのですが、コミックに力をいれていこうというタイミングで、版権エージェントから紹介してもらったのが出会ったきっかけです。読んでみたらとても魅力的なお話で、あっという間に引き込まれました。会社も乗り気になってくれたので、すぐにコンタクトを取りました。
――版権もスムーズに取れましたか。
小泉:著者のアリスさんは、日本のアニメやマンガから影響を受けたと公言されていて、やまもり三香先生(『ひるなかの流星』『うるわしの宵の月』など)がお好きだったそうです。だから、日本で出版されることをとても喜んでくださいましたね。
――翻訳者さんも大変な速さで訳されたのではないでしょうか。
小泉:実は、訳者の牧野さんは映画字幕翻訳家で。翻訳された映画を見て印象に残っていて、ぜひオファーしたいと思っていたんです。とてもいい作品だと気に入ってくださり、こちらが驚くほどのスピードで訳をあげてくださいました。
――眞島秀和さん、山中崇さんがキャスティングされたPVも印象的でした。
小泉:お二人が快くお引き受けくださり、実現した企画です。なにしろ初めてなのですべてが手探りでしたが、奇跡的なタイミングが重なり、出版できた作品です。
日本のマンガからの影響も! キュンとするピュアなラブストーリー
――先程、アリスさんが日本のマンガがお好きだと伺いました。確かに読むと、どことなく日本のマンガからの影響を感じます。
小泉:アメコミや、フランスのバンド・デシネともまた違います。私もどこかなつかしい、少女マンガのように感じましたし、社内でも作品に共感する人がたくさんいたんです。
――2人が恋人になるまで、1巻から2巻まで、300ページほど割かれています。このペースのもどかしさ、ゆっくりした進み方はとてもピュアで、少女マンガの雰囲気を感じました。
小泉:キュンとしますよね。男の子同士の恋愛という点でBLというジャンルに入るかもしれませんが、人を好きになることや、人との関わりの中で、悩んだり喜びを感じたりする心理描写は、誰もが共感できることだと思います。チャーリーが急に大胆になる、1巻のラストが好きなんです。

――殻にこもっていたチャーリーの、一世一代とも言える大胆な行動が印象的でした。同性に恋をし、ストレートだったニックは自分がバイセクシャルなことに気づきます。その葛藤も、読んでいてハラハラしました。
小泉:この作品は根底にLGBTQ+というテーマがあり、さまざまなセクシュアリティを持つキャラクターが登場します。そして、周りの人々との衝突、受け止められる暖かさも描かれている。ニックがお母さんに恋人がチャーリーだと告白し、それを受け止めてもらうシーンは、読んでいて思わず涙してしまいました。


――普段、私達は人の恋愛をジャッジしたり、積極的に首を突っ込んだりしない。なのに、LGBTQ+の方はなんだか、特別なものとして扱いがちです。
小泉:読んでいて、私も無意識の差別をしてしまったこと、傷つけてしまったことがあったかもしれない……と思いました。知らないより、知っていたほうが絶対にいい。面白くてするする読める作品ですが、繰り返し開いてみると、じんわりと伝わってくるものがきっとあるはずです。
――キャラクターの肌の色や髪色もさまざまなのが印象的でした。そういえば、イギリスの学年制など、注釈などはつけられていませんね。
小泉:ストーリーを読みながら、自然と文化の違いに気づいたり、感じたりしてもらえたらと思ったので。そういえば、チャーリーがニックのために作ったカセットテープの絵が掲載されているんですが、実はそこに載っている曲をアリスさんがSpotifyで公開しているんです! 主人公2人が聴いている音楽とともに作品を楽しむこともできます。

――思わぬしかけが!ぜひ、試したいポイントですね。
もっと多くの方に読んでもらいたい!今の時代の必読書
――どのキャラクターも丁寧に描かれ、サブキャラにもそれぞれ物語がある『ハートストッパー』。9/16発売の3巻についてお話をお聞かせください。
小泉:今後は、チャーリーとニックがそれぞれ抱いていた悩みや深刻な問題が少しずつ明るみに出ていきます。恋をして、想いを伝え合い、一緒にいるだけで幸せな時間とともに、そういった困難を2人が互いに想い合い支え合いながら一緒に乗り越えようとしていきます。また、レズビアンカップルや、トランスジェンダーの友人など、サブキャラクターひとりひとりのストーリーについても描かれます。
――大人の恋愛も登場しますね。ちらりと摂食障害の話が出てきて、あとがきでは、相談窓口を載せていましたが……。
小泉:元々、英国版(原作)で作者が紹介しているのですが、悩んでいる、苦しんでいる方の助けになったらという想いでいくつかの相談機関を掲載させていただきました。
――いじめやそれに伴う心の病、深刻な現代病です。『ハートストッパー』は、大人はもちろん、若い世代に読んでほしい作品だと思いました。
小泉:「自分が10代のころにこの作品と出会えていたらよかったのに」という感想をいただいたこともあります。エンターテインメントとしても魅力的な青春ラブストーリーの中に、現実的で深いテーマを絶妙なバランスで織り込んだ作品です。本当に、今の時代の方に広く読んで欲しいです。
――2人の恋がどうなっていくのか。続きを楽しみにしています。
世界23か国以上で翻訳!2人の恋に触れてみて
海外コミックに慣れていなくても、テンポ良く読める『ハートストッパー』。しかしその奥には深いテーマが、感情の揺れが潜んでいます。
とはいえ、部屋でイチャイチャしたり、テキストメッセージで延々やり取りしたり、海に行ったり、2人の青春物語にもキュンとしっぱなし! 既に23カ国以上で翻訳化が決まっているというのも納得です。関わった人々の情熱が詰まった『ハートストッパー』、これからも見逃せません!
『ハートストッパー』公式ウェブページ
https://www.twovirgins.jp/news/heartstopper/