りんちゃんの独特の視点から繰り出されるユニークな疑問&質問に翻弄される人々を描く『紙一重りんちゃん』が面白い!

マンガ

公開日:2021/10/30

紙一重りんちゃん 第1巻
『紙一重りんちゃん 第1巻』(長崎ライチ/KADOKAWA)

 たとえば幼い子供と会話をしたとき、思いもよらぬ発想に驚いたという人もいるかもしれない。いわゆる「常識」を知らないがゆえに、常識に囚われない考え方ができるのだろうか。そして常識を知った上で、さらにそれを超えていこうとする人もいる。そういう存在を我々は「天才」と呼ぶのだが、彼らがしばしば見せる常識はずれの言動に対し、周囲の「常識人」たちはさぞかし翻弄されることだろう。『紙一重りんちゃん 第1巻』(長崎ライチ/KADOKAWA)は、頭脳明晰な少女の突飛な発想に、混乱しつつも付き合っていく人々の姿を描いたギャグ4コマ漫画である。

 本作の作者は、天然ボケの姉妹が巻き起こすおかしな日常を描いた漫画『ふうらい姉妹』の長崎ライチ氏。中毒性のあるシュールな作風は、最新作である『紙一重りんちゃん』でも健在だ。

 主人公のりんちゃんは小学5年生。先生の質問に対しては聞かれてないことまで答え、見たものは「頭の中に記録」しているというとても賢い女の子だ。だからこそ「魂があるとして、肉体1個につき1個か2個か」とか、「前頭葉って何!? 『葉』ってどういうこと!?」などといった疑問が日々、湧き続けるのである。とはいえ、別に困った子というわけではない。基本的な思考は小学5年生なので、「ない袖は振れぬ」に対し「ある袖は振れる」と振袖を振り回して喜ぶ無邪気な子なのだ。

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 このようなりんちゃんの生活が成り立つのは、彼女を見守る周囲の人々の存在があればこそ。友人のこだまちゃんは、常に最前線でりんちゃんの疑問攻勢に晒されている。しかしイヤな顔ひとつ見せることなくサラリと受け流したり、「鬼畜ごっこ」に付き合ってくれたりする素敵な相方だ。そしてりんちゃんのママも、彼女を理解する大事な存在。りんちゃんがママの意見に対し弁論大会のように反論を述べても、「ほら~ケーキです!!」のひとことで完封することができる。りんちゃんの意見にも、時に肯定し、時に諌めてくれる、こだまちゃん同様に作品の良心的存在だ。

 しかし特筆すべきなのは、やはりりんちゃんのパパだろう。実はパパも、りんちゃんに負けず劣らず強烈な個性の持ち主なのである。たとえばりんちゃんがごはん粒のことをメンバーだというと、パパはそれに「ザ・炭水化物」とグループ名まで付けてしまう。そんなパパはおもちゃ会社に勤めており、自分でおもちゃを開発している。ある日家に持ち帰ったのが「田中・Z・クリーム」。パパいわく「最新AIだと言い張れ型」だとか。見た目は割と可愛いが、さりげなく毒を吐く「スマートスピーカー」のようなおもちゃである。このようなものを開発できるあたり、実はパパも天才なのかもしれない。このパパの娘がりんちゃんであるというのは、かなり納得できる話なのである。

 本作はりんちゃんの不思議な視点から繰り出される疑問や質問が、とにかく面白い。一方で、確かに主人公はりんちゃんだが、彼女はある意味、狂言回しの役割も担っているのだ。りんちゃんの言動に、両親や友人たちがどのような反応を示すのか、その部分も作品の大きな魅力なのである。りんちゃんだけでなくパパやママ、こだまちゃんなど、皆が主要キャラクターだ。それはりんちゃんの大好きな「宇宙」のように、りんちゃんという太陽にパパたちが照らされて輝くような感じではないかと、凡庸な私などは思うのである。

文=木谷誠