漫画『ホテル・インヒューマンズ』は、殺し屋たちのどんな依頼も引き受けるコンシェルジュの物語

マンガ

公開日:2021/11/6

ホテル・インヒューマンズ
『ホテル・インヒューマンズ』(田島青/小学館)

 まったく新しい殺し屋漫画『ホテル・インヒューマンズ』(田島青/小学館)がいまアツい。

 連載されている「サンデーうぇぶり」では、更新のたびにランキング1位になり、「泣いた今も泣いてる 拍手が10回じゃ、とても足りない」「オチまですべて血液が通っているような、密度の濃い話で毎回胸が締め付けられます…」といったコメントが寄せられている。

 舞台となるホテルの宿泊客は、全員殺し屋。果たして、そこで繰り広げられるドラマとは……?

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 ホテルの名は「ホテル・イン・ヒューマンズ」。直訳すると“人間たちのホテル”。一見怪しいところはないが、ただここにいるコンシェルジュは、宿泊客がいかなる依頼をしようと、どれだけの要望を告げても、「NO」とは言わない。最高のサービスでもてなす一流ホテルである。殺し屋たちにとって、だが。

 今日も最高のサービスを求めてやって来た者がフロントのベルを鳴らす。それは血の匂いをまとった宿泊客だ。

■ホテルのお客様は“殺し屋様”

 この特殊なホテルで待つのは2人のコンシェルジュ。クールビューティの沙羅(さら)と、もうすぐ勤務して1年のひよっこ・生朗(いくろう)がコンビを組み、チェックインしたお客様=殺し屋の依頼を、どんなことでも引き受ける。「生き別れの妹を探す」「表向きの社会生活を送る手助けをする」そして「殺しの手伝いもする」など、なんでもだ。

 情報収集と情報操作に長けた生朗は「慣れない」「辞めたい」「向いていない」が口癖。では辞めますか? と問われれば彼はわけありの表情でこう言う。

辞めないよ。
知ってるくせに。

 また殺し屋を単純に悪人と決めつけることもあれば、感情移入した宿泊客にはサプライズを行い、必要以上に仲良くもなる。

 そんな生朗を「甘い」と言い切る沙羅は、圧倒的な身体能力と体術を駆使し、ナイフ1本で複数の殺し屋と渡り合えるほど強い。そんな正体不明の彼女が、ときには冗談交じりで、ときにはゾッとするような目で彼を見ていた……。ちなみに沙羅が好きなものは、漫才と“砂糖をたっぷり入れたコーヒー”である。1巻のラストでは、常に表情を崩さない彼女が、珍しく笑顔をみせて生朗にこう告げた。

「お客様の声なき声に応える」
そんなコンシェルジュのひとつの答えに、
甘さの果てに至るのが…
おかしくて。
どうぞ、まっとうに終われない日々をこれからも。
ようこそ、「ホテル・イン・ヒューマンズ」へ。

人非ざる者たちのリクエストに応える物語

 本作は冒頭で「インヒューマン」をこう定義している。

・非人間的な、怪物のような
・人間味の無い
・冷酷な、残酷な

 ホテルは「イン・ヒューマンズ」、しかし作品のタイトルは『ホテル・インヒューマンズ』。意味は人非(あら)ざる者たちのホテルである。物語は殺し屋の業(ごう)も、生き様も、すべてを受け止めている。

 なお“人殺しのハートフルストーリー”に、拒否反応を示す方がいるかもしれない。しかし沙羅が生朗をたしなめたように、作中での殺し屋たちは絶対的な悪ではなく、好きで命を奪っていない者もいる。本作は善悪を描いているのではなく、宿泊客のリクエストにコンシェルジュが応える話なのだ。

 そして沙羅と生朗の力を借りても、明るい結末が待っているとは限らない。だがそんなビターな後味も、本作の魅力である。

極上の食事
至高の癒やし、
魅惑の娯楽、
そして…
最新の武器調達、
安心の身元詐称、
完璧な死体処理。
ここは「ホテル・イン・ヒューマンズ」。
お客様は人非ざる者「インヒューマン」、
殺し屋様。

「インヒューマン」たちにとって、最高のホテルで描かれるヒューマンドラマ。ぜひとっぷりと浸ってほしい。

文=古林恭