エッチなラブコメと思いきや――女の子のボディコンプレックスを丁寧に描き出す『巨尻JKにるがめちゃん』が泣ける!
公開日:2022/1/22

片想い中の彼と接近するため、同じ電車で通学して声を交わす機会を探る……。
可愛らしくいじましい女子高生の恋路に立ちふさがる、けしからん強敵。それは彼女の「巨尻」だった――。
1月20日(木)に発売する『巨尻JKにるがめちゃん』(三可九丸:著/KADOKAWA)は、その名のとおり大きなお尻がチャームポイントの女子高生・にるがめちゃんが主人公のラブコメディ。ツイッターで投稿された第1話から11万を超える「いいね」を獲得し、SNSで圧倒的支持を誇る話題作である。
にるがめちゃんは通学電車で、恋心を寄せる同級生・宇佐美くんの隣に着座を試みるのだが、電車でお馴染み「座れるか微妙な空きスペース」に彼女のお尻が収まらず、「ぎゅむちいいいいいいい!!」と斬新な擬音を立てて着座はことごとく失敗。
車中のみならず、席替えで前後になるとか、二人で雨宿りとか、ラブコメ王道シチュエーションが到来するも、彼女は自らのお尻に恋路の邪魔をされてしまう。

にるがめちゃんのジタバタはただひたすらに可愛らしく微笑ましい。だが、その葛藤はどこか切なくチクリと胸を刺す。思えば、恋愛の邪魔をするのはいつも自分の身体への意識だった。「あの子みたいに痩せていれば」「あの子みたいに目がぱっちりしていれば」「あの子みたいに髪がつやつやさらさらだったら」――。自分の身体の特徴を愛することができず、ボディコンプレックスが、好きな人へ手を伸ばしたい気持ちの邪魔をする。
にるがめちゃんの片想い相手・宇佐美くんのように、相手がまったくそんなことを気にしていなかったとしても……。

思春期には多かれ少なかれ皆が経験するであろう自分の身体をめぐる葛藤。それにしても、ボディコンプレックスというのはどこから生じるのだろうか。「愛されるためには、このような身体であるべき」という規範を、我々はどこでインストールするのだろうか。
もしかして、私たちを楽しませてくれる魅力的なヒーローやヒロイン像が、創り手の意図せぬところで、そのような規範を強化しまうことだって、あり得るのではないか――。
本作は物語の終盤、作品内で問いかける。
ぼくたちの愛が、彼女を追い詰めていたとしたら――?

しかし恋する女の子というのは、ヤワな存在ではない。にるがめちゃんは読者が予期せぬかたちで、苦しみを美しく乗りこえていく。
本書には「にるがめちゃん」のほか、小悪魔系パワー系セレブ天嶺鶴ちゃん、ドヤ顔かわいい伝音ちゃんというもう二人のヒロインのストーリーも収録されているが、二人ともとにかく強い。ゆるぎない個性を愛嬌たっぷりに披露しながら、かわいすぎる笑顔で男性陣を愉快に翻弄する。


さまざまな葛藤を乗りこえながら、めんどくさくもあり、かけがえのなくもある個性を抱きしめて駆け抜けるは彼女たちの姿は、まぶしく切実で、胸を打つ。
ただエッチなラブコメと思っていると火傷しかねない、魅力的でラディカルな女の子の青春物語である。
ツイッター:三可九丸 @sanka_kumaru
文:タヌタヌ
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