平和な孤島にサイコキラーがやって来たが――閉鎖的な島で起こる、衝撃のサスペンス

マンガ

公開日:2022/1/30

ノイズ
『ノイズ』(筒井哲也/集英社)

 映画『ノイズ』の公開が話題になっている。その大きな理由のひとつは、藤原竜也と松山ケンイチが『デスノート』(2006年)以来の本格的な共演をすることだ。

 あらすじは平和な孤島に来たサイコキラーを島民が誤って殺してしまい、日常が壊れるというスリリングなものだ。藤原竜也はイチジク農家を営む泉圭太(いずみ・けいた)、松山ケンイチは圭太の親友の田辺純(たなべ・じゅん)を演じる。他にも神木隆之介が鍵を握る存在として登場し、永瀬正敏や黒木華など、豪華な俳優陣が脇を固める。

 映画公開を知って、あることが気になった人もいるのではないだろうか。タイトルの「ノイズ」だ。これは何を指しているのだろうか。

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 原作漫画『ノイズ』(筒井哲也/集英社)を追ってみたい。2018年から2020年まで「グランドジャンプ」で連載された本作は、都会から車で約2時間の架空の町を舞台に織りなされる。舞台となる場所や登場人物の年齢に多少の違いはあるものの、映画と同様にサスペンスタッチで物語は進む。

 本作の特徴は、早い段階で、圭太と純、そして町に赴任したばかりの警察官・守屋真一郎(もりや・しんいちろう)の三人の前で、凶悪犯罪に手を染めているサイコキラー・小御坂睦雄(こみさか・むつお)が死ぬことだ。

 実際に小御坂を殺したのが誰かも注目ポイントだが、それ以上に物語の要となるのが、現場にいた三人が「どうやって殺人事件を隠し通すか」である。

 犯行に計画性はなく、遺体の隠し方もずさんだ。本来ならすぐに明らかになる犯罪である。

 しかし、彼らが住んでいるのが閉鎖的な地域社会だということが警察の真相究明を阻む。長年高齢化と過疎化に苦しんでいた町は、圭太の栽培するイチジクによって好景気が訪れていて、圭太は住民から感謝される存在だったのだ。住民の異常なほどの口の固さと、圭太を守ろうとする態度。それを目にした刑事はつぶやく。

“殺人犯と警察
そして事件を伝えるマスコミ
どれも町の平穏を乱すものだ
この町の住民にとっては我々もまた
排除されるべき異物ということだ”

「ノイズ」とは、地域社会に来た異物がもたらす「波紋」、それによって町に響き渡る「不協和音」のことを指していたのだ。

 私の考える本作の恐ろしさは、読み進めるうちに、ふとこんな気持ちになることだ。

 本当に、この町は以前から「平穏」だったのだろうか。

 よそ者を嫌い、静けさを望む住民の姿が、時に不気味な雰囲気をまとって描かれていることに注目してほしい。住人たちは自分たちの日常を壊す「ノイズ」に耳をふさぎ、やり過ごそうとしている。

 やがて再び衝撃的な事件が起こる。この二つ目の事件は、もしかすると防げたのかもしれない。この町でなければ。

 漫画を読んだ後、映画を見て、もう一度本作を手に取り再読したい。最初に読んだときとは異なる景色が目の前に広がるはずだ。

文=若林理央