新しい結婚の形? ドラマ『ハレ婚。』原作者・NONが描く、多様な生き方
公開日:2022/2/20

今までつきあった男性は、みんな既婚者だった……。そんな恋愛に疲れ果てた小春は東京から実家のある町に帰省し、不思議な男性・龍之介と知り合いプロポーズされる。しかし、彼には既に二人の妻がいた。なんとそこは、日本で唯一、一夫多妻制(通称・ハレ婚)が認められた町だったのだ。「3人目の妻」となった後も抵抗感が隠せない小春だが、やがて龍之介や「1人目の妻」ゆず、「2人目の妻」まどかと本物の家族になっていく。
これは現在、放送中のドラマ『ハレ婚。』のあらすじだ。
原作である同名タイトルの漫画を手掛けるのは、NONさん。彼女がこれまでに発表してきた作品は、前述の『ハレ婚。』に限らず、常に読者を驚かせてきた。いずれも“固定観念を覆す”内容だったからだ。

NONさんの初連載漫画の『デリバリーシンデレラ』(集英社)は、昼は大学に通い、夜はデリバリーヘルスで働く女性・ミヤビが主人公の物語である。その多くがやむを得ない事情で働いているのと同様に、ミヤビがこの仕事を始めたきっかけも借金返済のためだった。仕事がいやで泣いたことがあったが、彼女はだんだんと仕事のやりがいに気づき、自らの職業に誇りを持つようになる。
周囲に批判される苦しみ、仕事中に味わう辛さ。それは性産業に従事する人だけではなく、たくさんの人が感じたことのあるものではないだろうか。それでも自分の職業に楽しさを見出して働くミヤビの姿は前向きであり、多くの人たちは『デリバリーシンデレラ』を読んで「明日も仕事、頑張ろう」という気持ちになれる。
『デリバリーシンデレラ』完結後、連載が始まったのが、冒頭でも触れた『ハレ婚。』である。「一夫多妻」と聞いてセンセーショナルだと感じる人もいるかもしれないが、本作は登場する人物を血の通った人間として描き、「どうしてそんな考えに至ったのか」までが丁寧に描写される。読者はだんだんと登場人物に感情移入できるようになり、本作のメッセージが自然とわかってくる。
家族にはさまざまな形があり、人生には結婚するかどうかを含めて、たくさんの選択肢がある。一夫多妻という題材を駆使しながら、本作が描いているのは愛情だ。

サスペンス漫画『adabana-徒花-』は2021年に完結したばかりだ。小さな町で女子高生が殺され、自首してきた被害者の親友の供述によって、じょじょに事件の全貌が明らかになるという衝撃的なストーリーで、ハートフルな前2作とはテイストが異なる。だが読み進めるにつれて、『デリバリーシンデレラ』や『ハレ婚。』との共通点が浮かび上がってくる。
『adabana-徒花-』のメインキャラクターとなる二人の少女・ミヅキとマコが、「自分はみんなと違う」と疎外感を抱く理由が、少しずつ浮き彫りになるからだ。ミヅキはおとなしく陰りのある雰囲気を漂わせていて、マコは明るく友達も多い。見た目は正反対の二人だが、それぞれが抱えているものは、外からの印象だけではわからない。
10代でありながら大人のように振る舞わざるを得なかった彼女たちは、知らず知らずのうちに自らを肯定してくれる第三者を求めている。しかし周囲の大人たちは二人を否定し傷つける存在であり、ミヅキはマコ、マコはミヅキだけが救いだった。
他者からの肯定は救いになる。これは『デリバリーシンデレラ』のミヤビ、『ハレ婚。』の小春が感じたことでもある。
社会やコミュニティでは、大勢の人が賛同する意見や考え方が尊重され、時に人は、多数派からあぶれた者を、否定したり偏見に満ちた眼差しで見たりする。だが「多数派」が正しい、「それ以外」はおかしいと見なすのは、単なる固定観念からくるものなのかもしれない。
『デリバリーシンデレラ』は職業、『ハレ婚。』は人生観、『adabana-徒花-』は人間関係の固定観念を打ち破る。
NONさんの漫画は、読み手に気づきを与える。私たちが当たり前だと思っていることは本当に当たり前なのか、ただの決めつけではないのか、そしてその決めつけによって誰かを傷つけていないか、あらためて考えることができるのだ。
文=若林理央