【ネタバレあり】『呪術廻戦0』乙骨憂太と怨霊・里香に学ぶ、究極の純愛とは?
公開日:2022/2/18
※本記事にはネタバレが含まれます。ご了承の上、お読みください。

『週刊少年ジャンプ』で連載中の大ヒット漫画『呪術廻戦』(芥見下々/集英社)。TVアニメシリーズは2021年3月に最終回を迎え、2023年の放送が決定した二期を楽しみにしているファンも多いなか、『劇場版 呪術廻戦0』の公開から1カ月以上が経った今も動員は増え続け、興行収入は104億円を突破。快進撃をつづけています。
劇場版の原作は『呪術廻戦0巻 東京都立呪術高等専門学校』。同作は、本編の1年前を描いた前日譚なので、本編を知らない人でも映画から呪術ライフがはじめられる導入的な作品になっています。
世界観は本編の『呪術廻戦』と同じく、人間の負のエネルギーから生まれた“呪い”と、それを“祓う”呪術師が死闘を繰り広げるバトルアクション。そして舞台は、呪術師を育てる教育機関「呪術高専」です。
同作の主人公・乙骨憂太には、幼い頃に出会ったひとりの女の子がいました。少女の名前は祈本里香。彼女は乙骨くんの誕生日に、亡くなった自分の母の指輪を贈り、将来を約束します。
「約束だよ 大人になったら里香と憂太は結婚するの」
「いいよ じゃあぼくらはずーっとずーっといっしょだね」
愛を誓ったふたりでしたが、その直後、里香ちゃんは乙骨くんの目の前で事故死してしまいます。すると、呆然と立ち尽くす乙骨くんの足に、即死したはずの里香ちゃんの両手がまとわりついていました…。以来彼女は、乙骨くんに取り憑く“特級過呪怨霊”となり、彼は里香ちゃんに取り憑かれた“特級被呪者”となったのです。
ちなみに「特級」を冠している呪霊は、呪霊のなかでもっとも危険な存在であり「過呪怨霊(かじゅおんりょう)」は、一個人に執着して、その個人への加害などを条件に顕現するものを呼ぶそうです(『呪術廻戦公式ファンブック』より)。そのため、里香ちゃんは「大好きな憂太」に危害を加える輩に容赦しません。
呪術高専に入る前に、乙骨くんをいじめていた同級生たちをロッカーに“詰める”という荒技で彼を守り、その後も彼女なりの方法で乙骨くんへの愛を表現しつづけます。一方の乙骨くんは、里香が誰かを傷つけるかもしれない、という恐怖に怯え、内気な少年に成長しました。しかし、呪術高専に転入して力の使い方を学び、大切な仲間を得た乙骨くんは「彼女の呪いを解く」という目標を見つけます。それは、自分が解放されたいからではなく、彼女を呪いから解放したいという想いからでした。
このように同作は、乙骨くんと里香ちゃんの“純愛”の物語でもあるのです。長くなりましたが、本記事では『呪術廻戦0』における純愛について考察していきます。まずは、ふたりの関係を読み解くうえで重要な「純愛」という言葉を辞書で引いてみましょう。
「純粋な愛情。利害を考えない、ひたむきな愛。」『精選版 日本国語大辞典』(小学館)
実際、里香ちゃんから彼に向けられるのは、正真正銘の「純粋な愛情」ですが、乙骨くんにとってそれは、恐怖の対象でもあったかもしれません。そしてかつての彼は、里香ちゃんに“守られる存在”でした。ふたりの愛は、不均等だったように見受けられます。
しかし乙骨くんは、呪術高専に入ってすぐに同級生の禪院真希とともに向かった任務で生死に関わるピンチを迎え、初めて自分で里香ちゃんを呼び出しました。これまで受け身だった乙骨くんと里香ちゃんの関係が、大きく変化した出来事のひとつです。
その後彼は、里香ちゃんの呪いを刀に込めて戦う術を身に着けます。どんどん頼もしくなり、物語の後半では、里香ちゃんと意思の疎通も可能に。『呪術廻戦0』におけるラスボス、呪詛師・夏油傑との最終決戦では、阿吽の呼吸で戦うふたりの姿が拝めます。
精神的にも肉体的にも成長した乙骨くんは、ついに里香ちゃんと“共闘”する関係になったのです。
個人的な見解ですが、乙骨憂太と祈本里香にとっての純愛は、守り、守られる関係ではなく、互いにすべてを捧げて共に戦うことを意味しているのではないでしょうか。
そしてクライマックスには乙骨くんが里香ちゃんに愛を囁く、とても重要かつ、美しいラブシーンが…。
呪術師と怨霊の究極の純愛に触れられる『呪術廻戦0』。純愛について真剣に考えたい人に、おすすめの作品です。
文=とみたまゆり