「この10億円で僕と結婚してください」突然プロポーズする謎のイケメンと弁当屋を手伝う女子高生の初恋『黒崎さんの一途な愛がとまらない』
公開日:2022/3/9

「この10億円で僕と結婚してください」――岡田ピコ先生の『黒崎さんの一途な愛がとまらない』(フレックスコミックス)は、素性をよく知らない常連客の男性に、家業の弁当屋を一生懸命に手伝う女子高生の小春が、いきなりプロポーズされる漫画である。
10億円の預金通帳持参で結婚を迫るなんて、彼は一体どんな仕事をしているのか!? なぜお付き合いや自己紹介すらすっ飛ばしていきなり結婚なのか!? そもそも、なぜまだ女子高生である小春にプロポーズしようと思ったのか!?
…と、主人公の小春同様に、読者も序盤から頭が混乱する。しかし、本作は、誰かを純粋に思うがゆえの、猪突猛進で一途な愛が描かれている、胸キュン必至のピュアなラブコメディなのである――。
本作の主人公は、母親の遺したお弁当屋さんを笑顔で手伝っている女子高生の小春。弟が2人おり、料理が得意で、世話好きで明るい彼女は、皆から好かれている。そんなある日、小春は、黒崎絢人と名乗る、前髪が長くほぼ顔がわからない謎の常連客に、10億円が入金された通帳を見せられ、いきなりプロポーズされるのだ。
呆然とする小春に、黒崎は「…もう一声ですか?」と声をかけ、1年待てば、金額を倍額にして見せると言ってのける。「僕は小春さんに恋をしています」「お金が沢山あればあなたにしてあげられることも増えるはず」「この通帳は好きに使って」と矢継ぎ早に求婚する黒崎。小春は、なぜ黒崎は自分に恋をしているのかわからぬまま、誠心誠意お断りするのだが、彼は、その後も、免許証やパスポートなど身分のわかるものを持って店に現れ、プロポーズを繰り返す。困り果てる小春だが、黒崎の前髪を上げた状態で撮影された免許証の写真を見て、黒崎が予想外に美しく、イケメンであることに気づいて…!?
実は黒崎の正体は、超売れっ子の小説家。仕事でスランプに陥った時、小春の丁寧で優しい接客と、美味しいおにぎりに救われたことがあった。その話を聞いた小春は、プロポーズの前にまずは知人から始めないかと彼に提案する。何かと小春にプレゼントを届けるなど、恋愛に関しては猪突猛進な黒崎だが、いつも敬語で礼儀正しく、子供にも優しく、何事にも一生懸命な側面もある。
小春が5歳の弟と、黒崎の自宅に遊びに行った際「くーちゃんです。23歳です」と弟に挨拶して、全身全霊でヒーローになり、疲れ果てるまで遊ぶ様子には、読者のこちらもキュンとした。また、「私は恋をしたことがない」と言う小春に、僕も同じだったと返し、
「小春さんと一緒に 最初で最後の恋がしたいです」
…と、まっすぐ目を見て、直球で愛の告白をするシーンは、胸が高鳴り、思わず顔が熱くなってしまった。一生懸命で一途、子供のように可愛らしい一面もあり、時には力強く自分と向き合う黒崎に、少しずつ惹かれていく小春。純粋で心優しい2人の初恋は、ちょっとズレてる所もあるけれど、それですらとても尊く、応援せずにはいられない。好きな人を想うまっすぐで温かい気持ちや、抑えられない鼓動が伝わってくる、甘いラブコメディである。
文=さゆ