猫が人間を飼う? 猫との暮らしの解像度が上がるハートフルストーリー『人間ちゃんと俺』

マンガ

公開日:2022/3/15

人間ちゃんと俺
『人間ちゃんと俺』(まどろみ太郎/竹書房)

 SNSで流れてくる愛くるしい猫の画像や動画やマンガ、あなたが猫好きなら大好物のはずだ。こういうのはなんぼあってもいいのだから……。ということで『人間ちゃんと俺』(まどろみ太郎/竹書房)を紹介したい。

 本作は新感覚のハートフルな猫マンガだ。新しいのは“猫が人間を”飼うところだ。といっても、人と猫の立場が逆転する異世界やファンタジーものではない。あくまで人間と猫との心温まる時間を“猫の目線”で描いているのだ。

 本稿のライターは猫2匹と暮らしており、猫の読み物も好きで、リアルエッセイやフィクションなど色々な作品を読んできたが、この視点はなかった。本作の1話のもとになったショートマンガは、Twitterで3.8万いいねがついているが、それも納得である。では本作のストーリーと、猫好きに刺さるポイントを説明していく。

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無人島に流れ着いた「人間ちゃん」を猫“が”飼う?

人間ちゃんと俺 P005

 ある島に一人の青年が漂流してくるところから物語は始まる。そこは人間が住んでいたが、何かの理由でだれもいなくなった無人島。かつて人間とともに暮らしていた猫たちだけが残っていた。

 そんな「猫島」の住民の一匹、世話好きの猫・ススキは、当然のごとく言葉の通じない、ぼろぼろになったその人間を可哀そうに思い、水をやる。長老と呼ばれる猫にも「面倒を見てやれ、人間は我々に危害を加えたことはほとんどない」と言われ、とても一人では生きていけなそうなその人間を世話してやることにするのだった。

 本作は猫たちのみが猫語(?)でモノローグや会話をし、彼らにとって人間の言葉は一切わからないという設定だ。そんななかで、ススキは雨水を小さな容器で渡したり、雨風を避けられる小屋を教えたり、くっついて寝て暖をとらせたりと世話を焼き続け、「人間ちゃん」と呼ぶようになる。

人間ちゃんと俺 P012

 もちろん猫から人間へ話しかけても、意思の疎通はできない。そこで愉快なすれ違いが発生するのだ。

 ススキは「人間ちゃん」の食事にと、ネズミや虫をとって来る(食べられないが)。また「人間ちゃん」が雨で飲み水を確保しようとポリバケツを設置すると、ススキは「暗いし狭いし寝床にピッタリだ!!」と飛び込んで喜ぶ。また「人間ちゃん」が魚を獲る網をみつけたときは「お布団として寝床に運ぶつもりか、試しに寝てみよう!」と網の上にゴロン。さらに「人間ちゃん」が鍋を発見したところ「ちょうどいい入り心地!!」と、ススキは中に入って丸まるのだ。それははたから見ていると気ままな猫の姿そのもので、「人間ちゃん」も読んでいるこちらもほっこりする。

人間ちゃんと俺 P046

 これらは猫好きや猫を飼っている方ならわかる「おもしろエピソード」で、「これって猫との暮らしの“あるある”!」だと気づくはずだ。猫飼いは行動を邪魔されながらも「しょうがないなァ」と笑顔になって世話をしているわけだが、本作を読むと「ひょっとして猫がお世話しようとしてくれていた……?」となるのだ。

 猫と暮らしている方なら、実際の猫との生活に相通じるところがあると感じるだろうし、とにかく猫との暮らしの解像度が上がる作品といえる。

寂しいのは猫? それとも私たち?

人間ちゃんと俺 P067

 本作を読むと、「ひとりぼっちで無人島にいるシチュエーションでも、猫たちがいたら寂しくないかもなあ」と思わされた。作中でも寝ていると猫たちがスリスリしてくる描写がたくさんあるし、なにくれとなくずっと“かまってくれて”いる。

 私は自分の経験から猫は寂しがりやだと思っていた。猫というのは総じて気分屋だが、1日で寂しがってすり寄って来る時間が必ずあるからだ。だが本作を読み進めながら、冒頭のススキのセリフを思い出し、考えさせられた。

“俺にコイツの言葉はわからない
でもひとつだけわかる
ひとりぼっちはとても寂しいってこと”

人間ちゃんと俺 P118

 猫が寂しがりやなのではなく、寂しがりやなのは人間のほうで、猫はそれを察してくれている可能性を感じてしまった。愛猫たちは私たちの孤独を感じ取って「世話をしてやるか」と考えているかもしれないのだ、ススキのように。

 物語はススキたちと「人間ちゃん」の出会いから、一緒に過ごす時間、そしてあたたかく泣けるラストまでが描かれる。泣けるからといって、けして悲しい展開ではない。猫が人間の世話をする、猫好き歓喜のストーリーを、ぜひ見届けてほしい。

文=古林恭