姉の恋人を奪い結婚した妹…。絶縁状態だった姉妹の8年ぶりの再会で「不倫バトル」が始まり――!? 『けむたい姉とずるい妹』

マンガ

公開日:2022/3/20

けむたい姉とずるい妹
『けむたい姉とずるい妹』(ばったん/講談社)

 姉妹だからといって仲が良いとは限らない。同じ両親から生まれても、性格が正反対なんてことはよくあるし、近い関係性ゆえに、本音を吐露するのが難しく、いつの間にか距離ができていた…なんてことはよくあると思うのだ。だが、性格や生き方が合わないという理由で、長期間顔を合わせずとも、お互いの存在を完全に忘れることは不可能に近い。身内や女性同士という関係性が邪魔をして、心のどこかで相手を気にかける気持ちが消せないからだ。

 そんな複雑な姉妹の生き様を赤裸々に描いたマンガがある。ばったん先生の『けむたい姉とずるい妹』(講談社)だ。物語は、学校の先生をしている独身のじゅんが、実母の葬式で、絶縁状態だった妹のらんと、8年ぶりに再会するところから幕を開ける。じゅんとらんは、性格が真逆の姉妹。姉のじゅんは、幼い頃はおもちゃのステッキを、成長してからは、ダイヤのピアスやべっ甲柄の髪留め、カシミヤのマフラー、すみれ色のカーディガンなど、大切にしていたものを、次々と華やかな容姿の妹に奪われてきた。挙げ句の果てに、妹のらんは、じゅんの大事な恋人であった律と結婚してしまう。

 姉の恋人を妹が奪ったことが原因で、長い間顔を合わせなかった2人。だが、母親が亡くなり、その家に引っ越して住むことを決めたじゅんのもとに、らんと律が現れ、自分たちがここに住むと主張を始める。一旦は、家を去ろうとしたじゅんだが、ここで退いたら妹に一生負けると思い直し、妹夫婦との同居を決意するのだ――。

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 学生時代、塾をサボって煙草をくゆらせる律の姿に真っ逆さまに恋に落ち、彼の穏やかな寝顔が何よりも好きだったじゅん。それほど大切な恋人を妹に奪われたのだ。元彼と妹との同居生活は、予想通り波乱に満ちたものになる。しかも、恐ろしいことに律は、昔と同じように笑い、らんの前ではやめたふりをしている煙草をこっそりじゅんの前で吸って、「おれずっと会いたかったよ じゅんちゃんに」と甘い言葉をささやいてくる。

 また、母親の納骨すら終わっていない時期に、母親の荷物を処分して、仕事仲間を呼び、引っ越しパーティーを勝手に開催するらん。読み始めた当初、らんはどう見ても「嫌な女」にしか思えなかったのだが、読み進めると、らんは律にちゃんと愛されているか、結婚した今でも過剰に気にしていたり、過去の家族関係で思わず同情してしまう心のわだかまりを抱えていることも明かされる。

 元彼と姉妹、誰も彼もが本音を明かさず腹に一物を抱え、物語は不協和音を奏でながらノンストップで突き進む。本作は、姉妹がいる読者が読むと、共感してしまう場面が多くあるように感じた。両親に平等に愛されない寂しさ、姉妹ゆえの競争心や嫉妬、何年にもわたって降り積もったわだかまりが大人になっても溶けない苦しさなどが、心に迫るように描かれている。

 魔性の男・律を取り合う姉妹不倫の行方は一体どうなるのか。手に汗を握りながら、続きを楽しみにしたい。

文=さゆ