膝に乗ってくれなくても、理不尽にキレられても愛おしい…「ナガラ飯」のT氏が漫画で綴った「猫愛記録」

マンガ

公開日:2022/4/3

ウチの猫はひざに乗らない』
『コミックエッセイ ウチの猫はひざに乗らない』(伊藤丈尋、ナガラ飯/講談社)

 2021年12月3日。ひとりの猫好きが、突然天国へ旅立った。「ナガラ飯」というユニットを組んでいた伊藤丈尋氏だ。伊藤氏は「ナガラ飯」のTとして、相方のK氏と共に、インスタグラムにて日常で起きた出来事を漫画化し発表していた。

 その中で、世の猫好きから絶大な支持を得ていたのが、愛猫ハラミちゃんとの日常を描いた猫漫画。『コミックエッセイ ウチの猫はひざに乗らない』(伊藤丈尋、ナガラ飯/講談社)は、そんな公開作を思う存分楽しめる1作だ。

 伊藤氏の急逝による未完成部分は、K氏が補足。ここでしか読めない描き下ろし作品も加えられており、往年のファンの心を満たす1冊となっている。

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人に媚びない自由奔放な三毛猫ハラミに翻弄される日常

 9年前、一人暮らしの寂しさから猫と暮らしたいと思うようになったT氏は、里親募集のチラシを見て熟考した後、連絡。1匹の三毛猫と出会うこととなった。

 三毛は、家に幸福を運んでくれる。仲良くしてあげて――。そう言われ、家族となった三毛猫にT氏は「ハラミ」という名前を贈った。

 おうちに迎えた直後のハラミちゃんは、まさに天使。寝ている時にT氏がそっと前足を曲げてもされるがまま。しかし、共に過ごす時間が長くなるにつれ、人に媚びない自己主張強めなにゃんこに。

 幼少期と同じく、寝ている時に優しく触れると、気配を素早く察知し、T氏の指をガブリ。友人の膝には乗るのにT氏の膝には一度も乗らず、ご飯を手にしていないと、どんなに呼んでも近くへ来てくれない。

 さらに、T氏が履いている靴下に自ら爪を引っ掻けた際は、なぜか逆ギレし、威嚇。うっかり尻尾を踏んでしまうと、爪とぎ器で一心不乱に爪を研ぎ、見えない圧をかけてくるようにもなった。

 そんな愛猫を、T氏は溺愛。どれだけ振り回されても尽くし続けるその姿に、つい親近感が湧いてしまう“猫様の下僕”は、きっと筆者だけではないはずだ。

 そんな猫愛溢れるエピソードには自由奔放なハラミちゃんの姿がしっかりと描かれており、ページをめくるたびに頬が緩む。

 中でも、爆笑させられたのが、T氏が2回目のコロナワクチンを接種した時の話。副反応により発熱し寝込んでしまったT氏は、迷惑をかけている分、体調が戻ったらハラミちゃんに高級なフードを買ってあげようと決意。しかし、その直後、目に飛び込んできたのは、まるで見せつけるかのように、盛大にゲロを吐くハラミちゃんの姿だった。

 ハラミちゃんが、こんな風に空気を読まず、自由奔放でいられるのは、ありのままの自分でいてもT氏が愛してくれることを、一緒に暮らす中で知ったからなのだろう。

 作中には他にも、なかなか起きないT氏を目覚めさせるハラミちゃんの必殺技やちょっぴりドジな一面など、知れば知るほどハラミちゃんが愛しくなるエピソードが多数。それらの物語はどれも、日頃から愛猫の一挙一動を注意深く見ていないと描けないものであるからこそ、生前のT氏が、どれだけハラミちゃんを愛していたのかがうかがい知れ、涙腺が緩みもする。

 ちなみに、現在、ハラミちゃんは知り合いの家で暮らしているのだとか。T氏と暮らしていた時のように、新しい家でも自分を偽ることなくハラミちゃんが過ごせることを願いつつ、書籍という形で永遠に残り続けるふたりの日常に思いを馳せてみてほしい。

文=古川諭香