結婚適齢期の主人公をめぐり、今カレと元カレの想いが交錯するトライアングル・ラブストーリー『花嫁未満エスケープ』作者・小川まるにさんインタビュー
更新日:2022/7/5

なかなか結婚に踏み切らない同棲中の彼氏と、偶然再会した高校時代の元カレとの間で揺れ動く主人公・ゆう。リアルすぎるトライアングル・ラブストーリーをを描き、電子書籍版が100万ダウンロードを突破した『花嫁未満エスケープ』(小川まるに/ライブコミックス)。フレックスコミックスより単行本も発売されました。2022年4月よりテレビ東京系で実写ドラマ化され放送中です。本作が連載デビュー作にしてドラマ化となった、原作者の小川まるに先生に、作品が生まれた経緯や、ドラマ化への期待などをお聞きしました!
■漫画が大好きで漫画に影響を受けて生きてきた
――漫画家になるまでの経歴を教えてください。
小川まるにさん(以下小川):漫画が大好きで20代に入って描き始めました。就職したこともあったのですが、漫画家になりたいと思ってからはアルバイトをしながら描いていました。
――本作がデビュー作とのことですが、この作品を執筆されるに至った経緯を教えてください。
小川:自主製作漫画展示即売会「コミティア」で、ブックライブの今の担当編集者さんが私の描いた女の子のイラストを見て声をかけていただいたのがきっかけです。
女性読者に読んでもらえるストーリーを考えて、担当編集者さんと一緒につくった最初の作品が『花嫁未満エスケープ』です。実は、おじさんと若いOLの話をキャラデザインまで考えて提案していたんですが、担当編集者さんと女子会みたいにいろいろな話をしていく中で、「アラサー女子と4年も同棲しているのに結婚に踏み切らない彼氏、高校時代の元カレとの三角関係」という設定に行きつきました。
■いろいろな夫婦や恋人のエピソードから生まれた「あるあるシーン」
――同棲カップルの倦怠感やアラサー女性の焦燥感などがリアルに描かれているところが読者の共感を呼んでいますが、これは先生の実体験ですか?
小川:担当編集者さんが同棲していた時の話を聞いて「なんで弁当箱出さないんだ! 作ってあげてるんだから洗うぐらいすればいいじゃん」「それ、洗ってあげるからつけあがるんだよ」みたいな会話をカフェで延々としていて(笑)。私の友人、家族などいろいろな人の体験を「こういうことあるよね~! そうそうそうあるよね~っ」てお互い言ってストーリーを膨らませていきました。
私も担当編集者さんも女性なので、男性に対する愚痴だけにならないように、男性の編集長の意見も取り入れて、実在するカップルの生活を覗き見しているようなエピソードを必ず1話に1つは入れるようにしました。

――主人公のゆう、同棲相手の尚紀、元カレの深見。それぞれのキャラクター設定について教えてください。
小川:主要な登場人物は、生年月日や好きな食べ物、家族構成や読んでいる雑誌なども考えて、キャラクター表を作りました。
尚紀は初め、かわいい系男子という感じだったのですが、4話で尚紀がゆうの話をしたら「お母さんの話?」と同僚の女子に突っ込まれるシーンを描いたところSNSの反響がよかったので、「お子ちゃまキャラ」としてわかりやすく描くようになりました。
深見はファンタジーですね。担当編集者さんも私も深見みたいな男性には出会ったことがないので。ゆうのことを全身で包み込む感じとか、優しくて強いイメージ。
ただ、回を重ねていくうちに、完璧すぎるからこそ自分が足りない部分を見せつけられているようで、居心地が悪くなってくる。じゃあ自然体でいられる尚紀のほうがいいんじゃないか……。身近にいそうな等身大のアラサー女性、ゆうと一緒に、読者さんも揺れ動いてくれるといいなと思いながら描いていました。

■付き合い始めに面倒を見すぎるから彼氏が変わっていってしまう
小川:尚紀を「お子ちゃま彼氏」にしたのはゆうにも責任があると思うんですよね。同棲はその先に必ず結婚があるわけではないから「ここまで言ってしまうと別れ話になってしまうかもしれない」とか、「この一言で嫌われるかもしれない」などの駆け引きが出てきて自分が犠牲になったほうがマシ、と我慢して尽くしすぎてしまう。そういうところが交際相手の男性にありがちな“釣った魚にエサをやらない”状態を経験したことのある読者さんから共感されたんだと思います。

――先生が特に印象深いシーンを教えてください。
小川:ゆうが尚紀にあれこれやってあげたことを「頼んでいない」「何でも俺のせいにしないでよ」と言われたところです。その後のゆうの表情が印象的です。ドラマではどんな演技になるのだろうと気になっています。
後は別れた後に尚紀がゆうに指輪を送るところ。配信後には読者さんからレビューで「熟成指輪がどうした笑 結局そういうところよ」とか「指輪は寝かせても味もコクもでないですよ!」とか尚紀の突拍子もない行動にツッコミが入っていて(笑)。
このシーンは担当さんの「もう一波乱ほしい」の一声から「送っちゃうのはどう?」と冗談半分で提案したところ「やりすぎですって~笑 でも面白いから採用」とOKをもらった、思いつきから生まれたシーンです。本当に女子会のような会話からすべてのシーンが生まれています。
――ドラマ化のお話を聞いた時のお気持ちを教えてください。
小川:単行本になる時は嬉しくて泣いてしまったんですが、ドラマ化については信じられなくて「ウソだ、ウソだ!」って言ってました。今も実感がないので、ソワソワしています。(注:取材はドラマ放送前に実施)
――漫画家を目指している人、読者の方にメッセージをお願いします。
小川:「日常をおもしろく描くことができたら最強」と、どこかで聞いたことがあります。『花嫁未満エスケープ』は私と担当編集さんの会話から生まれた作品です。本当に、普通の人たちの日常のことを描いたことで共感が得られたのかなと思っています。
いま、発表の場はたくさんあると思うので、漫画を描き続けていってほしいなと思います。
私は今回ブックライブで担当編集者さんと作品作りを楽しくやらせていただけただけでなく、電子コミックで初連載だった私に、例えばコマ割りの大きさや背景の描き込みの度合いなど、スマホで読まれることが多いからこその電子ならではのアドバイスも優しく頂きました。
読者の皆さまには、感謝の気持ちしかないです。たくさんの人に読んで頂いて、SNSでも「尚紀派」「深見派」に分かれてつぶやいてくださり、盛り上げてもらっているのがとても嬉しいです。
――本作で一番、先生が伝えたいことは何ですか?
小川:私が一番伝えたいことは【人生が一度きりだということを頭に置いて、「世の中や周りの環境と比較して自分と他者の存在によって確立される自分の価値」ではなく、「純粋に自分を見つめたときに自分を好きでいて欲しい」】という想いが根底にあります。

生きている限り、人は一人では生きられませんが、他人に振り回されて疲れてしまうような「誰かに愛されるわたし」ではなく「わたしが大好きなわたし」こそ何よりも愛おしいものだと思ってほしいです。