古川琴音さんが選んだ1冊は?「自分の中に溜まっているものを、ふわっと手放させてくれる」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/1/14

古川琴音さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、古川琴音さん。

(取材・文=松井美緒 写真=TOWA)

「ベッドサイドに置いて、寝る前に必ず読むんです」

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 古川さんは、六本木の「文喫」で『ヒーシーイット』に一目惚れ。すぐに買い揃えたという。

「読むと安心するんです。お風呂に入った瞬間のほっとするような感覚です。何かに悩んでいても、『今日一日、家族も私も無事に過ごせたし、それだけでハッピーだよね』みたいな気持ちになります。絵もかわいくて癒やされます」

 このマンガが特徴的なのは……。

「言葉が少ないんです。例えば、男の子と女の子が山に登る話で、頂上に着いて男の子が『何もないね…』と言うと、女の子が『いろいろなことは、ここに来るまでにあったのよ』と返すんです。たったそれだけで何も説明しない。でも本当にそうだなって思うんです」

 哲学的な言葉が心に刺さる?

「そうですね、哲学的、でも〝刺さる〟みたいに重くない。むしろ、自分の中に溜まっているものを、ふわっと手放させてくれる感じ。この作家さんは、漠然とした感覚を形にして、見せてくれていると思います。丸ごと、そこにあるそのままを、ただ捉えていてほんと天才です」

 先ほどの山の話に加えて、大好きなエピソードは、鬼嫁(?)が太ってしまった夫をヨガに通わせる話。秀逸なオチは、ぜひマンガを手に取って確認していただきたい。

「『ヒーシーイット』に似て、多くを語らない。そこが大好きです」

 古川さんは、自身が出演する映画『スクロール』についてそう語る。古川さんの役どころ〈私〉は、北村さん演じる〈僕〉の会社の同僚。上司にパワハラを受け、死にたいと思う〈僕〉。〈私〉は、〈僕〉がSNSに投稿する文章に共鳴している。作中、〈私〉は、なぜ固有名詞のない〈私〉なのか?

「〈私〉は、自分の生き方を知っている人なんじゃないかと思うんです。つまり、自分がどう生きたいか、どうありたいか、自分の本当の心を知っている。そういう存在って、誰の心の中にもあると思います。〈私〉はみんなの中にいる。だから、〈私〉には名前がないんだと思います」

『スクロール』は、〈僕〉とユウスケ、菜穂と〈私〉、4人の葛藤する若者の人生の物語だ。〈僕〉の、ユウスケの、菜穂の中にも〈私〉はいる。そして、その人生を導いてくれる。

「4人にはいろいろなことがあって、でも最後にはみんなの人生が肯定される……。そんな優しい物語だと思います」

ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER) スタイリング:藤井牧子
衣装協力:ニット2万7500円、パンツ1万9800円(CAST:/ハルミショールーム) お問い合わせ先/SANYO SHOKAI カスタマーサポート(CAST:)(TEL0120-340-460)

ふるかわ・ことね●1996年、神奈川県生まれ。2021年、濱口竜介監督のベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作『偶然と想像』では、一編で主演を務める。主な出演作に、映画『街の上で』『今夜、世界からこの恋が消えても』『メタモルフォーゼの縁側』など。23年は大河ドラマ『どうする家康』に出演、映画『みなに幸あれ』で主演を務める。

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映画『スクロール』

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原作:橋⽖駿輝「スクロール」(講談社⽂庫) 監督・脚本・編集:清⽔康彦 脚本:⾦沢知樹、⽊乃江祐希 出演:北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴⾳ほか 配給:ショウゲート 2⽉3⽇(⾦)TOHOシネマズ ⽇⽐⾕ほか全国公開
●学⽣時代の友人・森が自殺した。上司からパワハラを受ける〈僕〉、毎⽇を刹那的に⽣きるユウスケ、〈僕〉のSNSの書き込みに共鳴する〈私〉、結婚願望の強い菜穂。4人の時間と人生が、森の死をきっかけに交錯し動き出す。
(c)橋⽖駿輝/講談社 (c)2023映画「スクロール」製作委員会