独特の価値観で生きる男女の恋物語。noteで人気を博したコミックエッセイ『ニシハラさんのわかりにくい恋』作者・ニシハラハコさんインタビュー

マンガ

公開日:2023/1/23

ニシハラさんのわかりにくい恋
ニシハラさんのわかりにくい恋』(ニシハラハコ/オーバーラップ)

「cakesクリエイターコンテスト2020」で入賞を果たした『ニシハラさんのこと』が『ニシハラさんのわかりにくい恋』に改題し、描き下ろしを加えて書籍化。恋愛漫画にはおよそ登場しないタイプの男女を主役に、実話をベースに描かれた本作。作者のニシハラハコさんに、作品に込めたメッセージや見どころを伺いました。

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――まずは作品が誕生した経緯を教えてください。

ニシハラハコさん(以下、ハコ):漫画を描く生活がしたくて、noteで勝手に連載を始めました。夫をモデルにすればネタに困らないだろうとは思っていたのですが、最初は産後の日常生活をメインにしようと思っていました。でもそれだと結婚前の面白いエピソードが使えないので、夫と出会った頃から描くことにしました。2話描いたところでcakesクリエイターコンテストがあり応募して、連載が決まりました。

ニシハラさんのわかりにくい恋

――「腕毛を剃るか剃らないか問題」をテーマにした漫画で、注目が集まりました。「腕毛」の回はどんなメッセージが込められているのか、改めて教えていただけますか?

ハコ:この回は、登場人物のそれぞれの物の見方がよく表れているエピソードだなぁ、と思っていて、初回の人物紹介のようなイメージで描きました。美大に通っていた頃は腕毛を気にする人なんて周りにひとりもいなかったんです。特に私がいた油絵科はそれぞれが自分の作品や生き方と戦ってたようなところがあって、常にメルヘンな格好をする人もいれば、スタイリッシュな格好をしている人もいるし、ちょっともさい格好をしている人もいる。それぞれが「それ」を選択している、という暗黙の了解があったような気がします。ところが、ハルコの就職した会社では「腕毛を剃っていない」ということは「そういう選択をしている」のではなく「身だしなみが整っていない」と認識されます。そしてハルコはそのことに感心してしまうんです。戦っているものが違うんだな、と感じます。そんな中、会社の人とも違う物の見方をしているのがニシハラさんでした。ハルコはニシハラさんの戦っているものがなんなのか気になってしまうんです。

ニシハラさんのわかりにくい恋

――漫画のニシハラさんはご主人をモデルにされているそうですが、当時ハコさん以外の社員の方はニシハラさんに対してどんな印象を持たれていたのでしょうか?

ハコ:仕事に集中している時などは、ちょっと話しかけづらい印象だったと思います。無愛想だけど約束した数字は守るので、クライアントからの信頼は厚かったです。また現場スタッフに対するケアが手厚いので、下からも慕われていました。

ニシハラさんのわかりにくい恋

――『ニシハラさんのわかりにくい恋』はニシハラさんの仕事ぶりも見どころのひとつです。現在ハコさんは、育児をテーマにしたエッセイもWEBで発表されていますが、ニシハラさんらしい結婚・出産後のご主人エピソードを教えてください。

ハコ:出かけた先に、娘の喜びそうな場所があることを知っていながら、確実に「行ける」とわかるまで隠していたりします。伝えてしまうと、万が一行けなくなった時にガッカリさせてしまうというリスクを避けるためだそうです。私は、良いことを先に言ってしまうタイプなので、私にも内緒にされています。

 またイベントの仕事で培われたものなのか、物事が滞りなく進むよう先回りして動いてくれます。私と娘が公園で遊んでいる間に晩御飯の買い物を済ませておく、などを無言でやってくれます(笑)。学校や習い事のスケジュールも私より把握しています。家族のマネージメントをしてくれているような感じです。

ニシハラさんのわかりにくい恋

――作中にもある、リスクを冒さない姿勢は、ご家庭でも同じなのですね。またハコさんの作品は、1本1本の線を丁寧に描かれた画風が魅力だと思いますが、作画する上でこだわりのポイントを教えてください。

ハコ:目を「点」で表現しているのですが、点でも、ニシハラさんはなんかカッコよく、ハルコはなんか可愛く見えるようにこだわりました。実際、目はいつも何度も描き直しています。シンプルな中に微妙な表情を見出してもらえると嬉しいです。でもあんまりまじまじとは見ないようにしてください。

――では、ハコさんが考える、『ニシハラさんのわかりにくい恋』の見どころや楽しみ方を教えてください。

ハコ:ニシハラさんとハルコのようなふたりがどんなふうに距離を縮めていくのかが一番の見どころだと思います。人間らしさの薄いニシハラさんと、常に緊張感がないハルコ、ふたりの間合いを楽しんでもらいたいです。またその他の登場人物は、主人公のふたりと対照的な印象だと思います。それぞれに異なる物事の捉え方を味わってもらえると嬉しいです。

ニシハラさんのわかりにくい恋

ニシハラさんのわかりにくい恋

――日常で遭遇した現象について、ハルコがひとりグルグルと思考している様子が面白みのひとつですよね。では今後、挑戦してみたい執筆テーマや目標などがありましたら教えてください。

ハコ:もう少しシリアスなものにも挑戦してみたいです。題材としては、家族というコミュニティがとても不思議だなあと感じていて、関心があります。家族ってそれぞれに独特な距離感や問題があったりしますよね。そういったものをテーマにフィクションとして何かお話を作れたらいいな、と思っています。

――『ニシハラさんのわかりにくい恋』の続編や新作も楽しみです。最後に、応援してくださっている読者の皆様、そしてこれから作品を読まれる方に向けて、メッセージをお願いいたします。

ハコ:いつも作品を読んでくださる皆様、本当にありがとうございます! 皆様のおかげで書籍を出すことができました。これからも作品を描き続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。

 そして初めて作品を読んでくださった方、皆様の貴重なお時間をいただきありがとうございます。自分で言うのもなんですが、最後まで通して読みたくなる本ができたと思っています。読んでよかったと思ってもらえるように頑張りました。よかったら、皆様の本棚に、この本も並べてもらえると嬉しいです!

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