どんな逆境も跳ね返す、へこたれないヒロインが人気! 『結界師の一輪華』著者クレハ氏×マンガ家おだやか氏対談

マンガ

公開日:2023/3/11

 術者の家系に生まれ、優秀な双子の姉・葉月と比べられて育った落ちこぼれの華。15歳の誕生日、突如強大な力に目覚めるが、平穏な暮らしを望む華は、その力を隠して毎日を過ごしていた。だが、術者のトップに君臨する一ノ宮朔に華の力がバレてしまい、強引に結婚を迫られるはめに!? 契約結婚に応じれば、静かな暮らしを送るための財産が手に入ると知り、華は朔と期間限定の夫婦になるが……?

 強くてしたたかなヒロイン・華が多くの読者に支持され、人気急上昇中の『結界師の一輪華』(クレハ/角川文庫/KADOKAWA)。シリーズ累計100万部突破、『鬼の花嫁』(スターツ出版)の著者・クレハさんが手がける小説はもちろん、おだやかさんによるコミックも注目を集めている。3月1日からは東京メトロにステッカー広告が掲示されているため、目にした人も多いのではないだろうか。

 そんな話題作の著者クレハさんと、コミカライズを担当するおだやかさんの対談が実現! 作品が生まれた経緯、原作とコミックそれぞれの魅力について迫っていこう。

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結界師の一輪華
結界師の一輪華』(クレハ/角川文庫/KADOKAWA)

結界師の一輪華
結界師の一輪華』(クレハ:原作、おだやか:作/B’s-LOG COMICS/KADOKAWA)

(取材・文=野本由起)

陰陽師のような「結界師」の設定とタイトルから、この物語が生まれました(クレハ)

──はじめに、小説が生まれた背景からお伺いします。『結界師の一輪華』はどのような着想から生まれたのでしょうか。

クレハさん(以下クレハ):今回は、設定とタイトルが最初に思い浮かびました。陰陽師のようなキャラクターが出てくる和風の話を書きたくて、そこから普通の陰陽師ではなく結界で戦う「結界師」という存在を考えつきました。さらに、結界師の最愛の人として、「一輪華」という言葉を思いついたのがこの小説の始まりです。その時点で、主人公を華という名前にすることも決まりました。

──どの段階で、コミック化されることが決まったのでしょうか。

クレハ:小説1巻が発売される時、おだやか先生に4ページの紹介マンガを描いていただいたんです。これだけで終わってしまうのはもったいないなと思っていたら、その後「おだやか先生にコミカライズしていただけることが決まりました」とご報告をいただき、「やった!」と大喜びしました(笑)。

おだやかさん(以下おだやか):ありがたくて涙が出そうです……! コミカライズが決まった時は、足がガタガタ震えるくらいうれしくて。以前からクレハ先生の作品を愛読していたので、自分がマンガを描かせていただけるなんてとても光栄です。

──おだやか先生は、最初に原作小説をお読みになった時、どんな印象を受けましたか?

おだやか:最初に「すごく面白い!」と思い、次に「思ってたのと違う!」といい意味でびっくりしました。小説1巻の第1章は、親に虐げられ、双子のお姉ちゃんとも疎遠になり、周囲から冷たい視線を向けられているという悲しい始まり方だったので、シリアスなお話なのかと思いました。でも、そのまま読み進めていくと、式神や友達の鈴ちゃん、結界師である朔との出会いを経て、パッと明るい話に変わっていったんですね。そこに驚きを感じました。おだやかとしては、読みはじめと読後の印象の違いが『結界師の一輪華』の一番の魅力だなと思っております。いや、もうめちゃくちゃ好きです。

クレハ:ありがとうございます。

おだやか:ガチオタみたいに、べらべら喋っちゃってすみません……。ヤバいと思ったら止めてください(笑)。

華は朔を超えるほどの力強さ。散歩してるつもりが犬に引きずられてるみたい(おだやか)

──おだやか先生がおっしゃるとおり、この作品は主人公・華の人物像がとても魅力的ですよね。いわゆる正統派の健気なヒロインではなく、したたかな一面を持ちあわせているのが新鮮です。華というヒロインを、どのように形作っていったのでしょうか。

クレハ:『鬼の花嫁』などでおとなしめのヒロインを書いていたので、今回は振りきった子を書きたかったんです。虐げられている状況も吹き飛ばしてしまうへこたれないキャラ、どんなに叩かれても這いあがってくるたくましい女性を書きたいと思っていたら、あんな感じになってしまいました(笑)。

おだやか:華ちゃんは、嫌なことをはっきり嫌と言いますし、自分の利益を優先して行動しますよね。見ていて気持ちいいし、共感を誘われて応援したくなるんです。朔も俺様なヒーローですが、華ちゃんにはそれを超えるくらいの力強さがあります。朔が手綱を掴もうと思っても、掴みきれないくらい馬力がある。散歩してるつもりが犬に引きずられてるみたいなイメージです(笑)。そんなふたりがかわいいし、すごくバランスがいいなと思います。

結界師の一輪華

クレハ:華は嫌なことも吹き飛ばしてしまう主人公なので、そんな華に合うのはどういう男性だろうと考えたんです。そういった発想から、俺様系だけど優しくて、時々ツッコミを入れる朔というキャラクターが生まれました。華が18歳、朔が24歳なので少し年齢は離れていますが、それを感じさせない対等な関係として描いています。

──おだやか先生は、コミカライズにあたってどういう作業をするのでしょうか。

おだやか:はじめに小説1冊分のプロットを書き起こして、コミックス2巻分にあたる12話に分割しました。それを担当編集さん経由でクレハ先生に確認いただいてから、ネーム作業に移り、各話に山場を作っていきました。華と朔が出会う前は、華と葉月の姉妹の確執、華と朔が出会ってからはふたりの距離が縮まるシーンをできるだけ山場にしています。ページ数に余裕がある時は、見開きページをなるべく作るようにしていますね。スマホだと1ページずつ読むことが多いと思いますが、そういう方が紙の単行本を読んだ時に印象が変わるかなと思って。スマホと紙の本で、2回楽しんでいただけたらうれしいです。

──コミカライズにあたって、クレハ先生からおだやか先生に要望はお伝えしましたか?

クレハ:いえ、私はマンガのことはまったくわからない素人なので、下手に口を出さないほうがいいという考えなんです。おだやか先生のマンガはシリアスとコミカルのバランスが絶妙で、何も言わなくてよかったです(笑)。

──小説のカバーには、キャラクター原案・ボダックスさんによる華と朔のイラストが描かれています。ですが、それ以外のキャラクターには原案がありませんよね。おだやか先生は、どのようにイメージを膨らませていったのでしょうか。

おだやか:原作を何度も読み返し、容姿に関する記述にはマーカーを引いて、参考書のように読み込んでいきました。そのうえで頭に浮かんだキャラクターを提出したところ、そのままOKをいただいたので驚きました。どのキャラも、すごく自由に描かせていただいています。

 例えば、華の式神である葵は、武を司っているため強くカッコいいイメージでありつつ、少し弟っぽく描きました。もうひとりの式神・雅は、ひたすら美しい天女で理想のお姉ちゃん。朔の式神の椿は、イタズラなところもありますが、嫌味がないし、かわいいからすべて許せる妹のようなイメージで作画しました。

結界師の一輪華
華の式神の葵と雅

クレハ:最初に絵を拝見した時、葵と雅がパッと出てきて「あ、これだ!」と思いました。もう、ひたすら「すごいすごい!」って感激してましたね(笑)。

おだやか:うわ、ありがとうございます! うれしいです!

──おだやか先生のマンガは、ギャグ顔を思いきりデフォルメしていますよね。どこまで崩していいか、迷いはありませんでしたか?

おだやか:最近までめちゃくちゃ迷っていました。原作は、虐げられてきた主人公のシンデレラストーリーが魅力ですよね。心臓がキュッとなるようなシーンも多いのですが、そういう場面のあとに心がゆるっとなるギャグシーンもたくさん書かれているので、原作そのままのイメージで描きました。ギャグ表現はもっと抑えるべきか悩みましたが、原作2巻で雅が巨大なピコピコハンマーを持って戦うシーンがあったんです。それを読んで、「あ、ギャグに振りきっても大丈夫なんだ」という決心がつきました。

 ただ、華はあくまでも少女マンガのヒロインですし、朔はヒーロー。読者さんが恋する対象なので、愛着を持っていただけるくらいの塩梅で調節しています。逆に、シリアスなシーンはビシっと決まるように書き込みを増やしているので、ギャップを感じていただけたらうれしいです。

クレハ:私としては、あれくらい思い切って崩してくださって、とてもうれしかったです。コミカルなシーンはひたすらコミカルにしていただいたので、余計シリアスなシーンとのギャップが強調されていますよね。

──「シリアスなシーンは書き込みを増やしている」とのことですが、そもそも『結界師の一輪華』は和風ファンタジーなので着物姿やバトルシーンが多く、作画が大変ではないかと思います。

おだやか:着物のデザイン・作画の経験が乏しいので、着物の描写は大変でした。実際に着付け教室に通ったり、呉服屋での勤務経験のあるアシスタントにアイデアを出してもらったり添削してもらったりしていました。特に、第3話の葉月の衣装は大変でした。その前に華もかわいい着物姿で登場するのですが、葉月はそれよりもかわいく豪華に見せなければならず、バランスが難しかったです。

結界師の一輪華
新当主の襲名披露式に向かう華の着物姿

結界師の一輪華
新当主の襲名披露式に向かう葉月の着物姿

 また、5月発売のコミックス2巻では、朔と華が祝言をあげるシーンがあります。その衣装も難しかったですね。舞台は現代なので、昔の衣装を忠実に再現するより、画面映えやキャラクターがいかにきれいに見えるかを意識したデザインにしました。

クレハ:私は文章で「着物」と書くだけなので、それを毎回絵にしていただくのが申し訳なくて。先ほど話されていた葉月のシーンで、華に髪飾りを渡すカットがありましたよね。その髪飾りがものすごく細かく描かれていて、本当に申し訳ないやらありがたいやらという感じでした。

結界師の一輪華

おだやか:ありがとうございます。葉月と華の関係を表わす大事なシーンだったので、「描かねば!」と思いました。

──バトルシーンについてはいかがでしょう。どのようにして迫力ある戦闘を描いているのでしょう。

おだやか:まだまだ研鑽が必要だなと思っています。参考にしているのは、ゲームやアニメーションのエフェクトです。他には、バトル描写に慣れてるマンガ家さんのコマ割りを参考にさせていただいたり、どう描写すればいいかを、他のマンガ家さんに相談したりしています。

 華や朔の動きはもちろんですが、次のコマとちゃんとつながっているか何回も確認していますね。あまり複雑すぎると読者さんが混乱してしまうので、できるだけ1コマずつ行動を区切るようにしています。それも、編集さんの添削のおかげです。

クレハ:実は私も、バトルシーンの描写が得意なほうではないんです。あまり長くバトルが続いても読者さんは疲れてしまうだろうと思い、できるだけコンパクトにまとめるようにしています。

おだやか:なるほど。私もバトルシーンはなるべく3、4ページ以内でまとめるように意識していたので、今「あ、同じこと考えてたんだ!」とドキッとしました。

ずっと男性に守られたままではなく、成長していく過程を描きたいと思っています(クレハ)

──やはりおふたりとも、華と朔の関係、彼らを取り巻く人間模様を主軸にしているんですね。先ほどクレハ先生は「華と朔は対等な関係」とお話しされていましたが、ふたりの関係の変化を描くうえで心がけていることはありますか?

クレハ:華と朔は、違う環境で過ごしてきたふたりです。華は落ちこぼれで、朔は次期当主のエリート。つまり華と葉月だったら、朔は葉月寄りなんですよね。そういった違いがありつつも、結界師としての責務を果たす朔の姿を見たり、一緒に戦ったりするうちに、強大な力を持つ朔にもそれなりの苦労があるんだと少しずつ知っていきます。それが華の成長にもつながっていくんですよね。この作品に限らず、ずっと男性に守られたままのヒロインではなくて、自分で解決する力を掴み、成長していく過程を描きたいと思っています。

おだやか:結界を守るための契約結婚なので、最初は朔も華の力を利用しているように見えますよね。でも、朔は華の持つ力だけでなく、彼女自身の芯の強さ、優しさに惹かれていくのが素敵だなと思いました。一ノ宮家のトップとして国を支えてきた朔にとって、華は対等な立場でものを見られて、互いに支え合えるいい相棒。そういう朔からの愛を受けて、華も女性として、術者として不本意ながら開花していくというのも素敵だなと思います。

結界師の一輪華

──おだやか先生が考える、朔の萌えポイント、推しポイントは?

おだやか:小説2巻の時点では、まだ朔のほうが華への思いが強くて、ちょっと空回りしていますよね。これまでどんな女性からもモテてきたのに、華はなかなかなびいてくれなくて落ち込んでいるシーンがかわいかったです(笑)。でも、華も素直じゃないだけで、多分、朔に惹かれていますよね。そこも萌えポイントだなと思います。華ちゃんから朔にラブを伝える日が来るのかなと、すごく楽しみにしてます。

クレハ:私としては、もう焦らせるだけ焦らそうかなと思ってます(笑)。

おだやか:うわ、かわいそう! でもそこがすごくいいです(笑)。

──おだやか先生はオリジナルマンガを描くこともあれば、原作のコミカライズをご担当されることもあります。そのふたつの描き方の違いを教えてください。

おだやか:私はコミカライズをやりたくてマンガ業界に入ったんです。なので、コミカライズできて最高だなという気持ちがありつつ、ストーリー構成の勉強の一環としてオリジナルマンガも描かなきゃという気持ちで取り組んでいます。

 あと、自分は弟萌えの性癖を持っているので、オリジナルだと守らなきゃいけない年下の男子を描くことが多いんです。コミカライズは女の子が男性に守られるという関係を描くことも多くて新鮮だなと思いながら描いています。

──その性癖はどこから来ているのでしょう。

おだやか:子どもの時からずっと、弟系が好きなんです。『結界師の一輪華』だと、朔の弟がかわいいですよね。ツンデレ属性で、朔のことが大好きで。それを華ちゃんだけが知っていて、心の中でニヤニヤしているという華ちゃんの性格の悪さも好きです(笑)。朔の弟は当て馬としても優秀ですし、彼が登場してから一気にコメディ感も増しました。

クレハ:華が生まれた家はギスギスしていたんで、嫁に行った先ではアットホームにしたかったんです。それもあって、朔の弟・望もちょっとコミカルな要素を取り入れました。

強いヒロインが人気。華の強さを知っているのはごく一部というのもドキドキします(おだやか)

──広告やネット上のレビューなど、最近はいろいろなところで『結界師の一輪華』を見かけます。おふたりは、作品の盛り上がりをどう受け止めていますか?

クレハ:ネットで広告を見かけると、とりあえずスクショを撮っています(笑)。ネットでコメントを読んだり、ファンレターをいただいたりすると、実際に読んでくださっている方がいるのだと感じられてうれしいですね。

おだやか:私も、クレハ先生のファンの方からファンレターをいただくことがあります。もともと小説のファンだった方がコミックスを買ってくださるケースが多いようで、「このシーンは大好きだったのでマンガで読めてうれしかったです」というお声をいただいた時は、「もっと頑張ろう」と気持ちが引き締まりました。

──おふたりは、『結界師の一輪華』のどういうところが人気なのだと思いますか?

クレハ:自立した華のへこたれない強さでしょうか。逆境でもそれを跳ね返してずんずん進んでいく、強いヒロイン像がよかったのかなと思います。

おだやか:確かに強いヒロインは、今人気だなと思います。マンガサイトの少女マンガランキングでも、戦う女性、ヒーローが押されるくらい強い女性が主役のマンガが上位を占めています。『結界師の一輪華』の華も、雰囲気はかわいいのに強いじゃないですか。しかも、その強さを知っているのがごく一部の人たちというのがすごくいいなと思います。どれだけ周りが華ちゃんのことを舐め腐っている状況でも、華ちゃんは内心でちょっと小馬鹿にしながら裏で活躍しているというのにドキドキします。華ちゃんの強さを知った時の、周りのリアクションを見るのもスカッとしますよね。これは確かに人気が出るなと思って小説を読んでいます。

──小説3巻、コミックス2巻ともに5月に発売されるそうですね。小説2巻では葉月と華の姉妹関係が改善されましたが、3巻ではどういう展開が待ち受けているのでしょう。

クレハ:2巻では葉月が中心のお話だったので、3巻は華たちの兄・柳や親にスポットを当てています。なぜ華は葉月と比べられてきたのかというところを、深掘りしようと思っています。

──コミックス2巻の見どころはいかがでしょう。

おだやか:結界を強化するシーンは描いていて楽しかったです。ふたりの心が少し通うシーンなので、そこが一番の見どころです。でも、他にもたくさんありますね。原作への思い入れが強いので、結婚式のシーンも、最後の共闘するシーンもすごく好きです。

──まだ『結界師の一輪華』を読んだことがない方に向けて、おすすめするとしたらどうアピールしますか?

クレハ:お子さんからご年配の方まで、幅広く読んでいただける作品ではないかと思っています。ぜひ手に取っていただけたらうれしいです。

おだやか:「娘に頼まれて買いました」「娘と一緒に読みました」というレビューも読んだことがありますし、確かに幅広い方に好まれる作品だと思います。男性読者もいらっしゃいますよね。強いヒロインを見てみたい方に、ぜひおすすめしたいです!