杉咲花さんが選んだ1冊は?「生活の隅に転がっている、眩しい欠片を拾い集めていくような日記」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/11/15

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年12月号からの転載になります。

杉咲花さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、杉咲花さん。

(取材・文=野本由起 写真=booro)

advertisement

「私、ブログを読むのが好きなんです。その人がどんな生活をして、何に感動して、どういう時に喜びを感じながら生きているのか。その人だけのまばゆい記憶を、お裾分けしてもらうような喜びがあって」

 文筆家・中村暁野さんの5年分のブログを収めたこの本は、家族の日常をギュッと詰め込んだ一冊。夫の俵太さん、娘の花種さん、生まれたばかりの樹根くんとの生活が、普段着の言葉で綴られている。

「一日一日を飾らずに生きていらっしゃる姿が浮かんできて、読んでいると涙が出てくるんです。樹根くんが生まれた当時の日記なんて、もう本当にすごくよくて。生活の隅に転がっている、眩しい欠片を拾い集めていくような日記だと思います」

 二児の母である中村さんと杉咲さんでは境遇が違うが、共感する場面も多かったそう。家族と衝突したり、何気ない会話にハッとさせられたり、生活に根差した出来事や実感が語られているからだろう。

「他者から学びつづけることには尊さと煩わしさがあると思います。それは家族に限らず、友達や仕事で出会う人でも。同じ生活者として、とても身近な手触りを感じました」

 その一方で、俳優業では役柄への共感をあまり重視していないという。映画『法廷遊戯』の美鈴も、杉咲さんとは少し遠い人物だったそう。

「それでも、その人物がどんなものに胸をときめかせて、何に寂しさを感じるのかを想像できたら、役に向かっていける気がします。美鈴の行動は奇抜に見えるかもしれませんが、彼女の中では筋が通っている。そこを自分なりに消化して演じました」

 殺人の容疑をかけられた美鈴は、幼なじみの清義に弁護を依頼し、その後は一切口を閉ざしてしまう。彼女は無実なのか。何かを隠しているのか。事件の鍵を握る重要な存在だ。

「ある出来事が美鈴を決定的に変え、それ以降、彼女は清義の存在を原動力に生きています。現場では、清義と対峙した時に湧き上がってくる感情を大切にしていました」

 展開は二転三転し、ミステリーとしての面白さにもあふれている。

「予測できない出来事が続き、わかったと思ったら全然違うところへ連れていかれて、そのたびにゾワゾワしました。でも、それは人が人をまなざすことにも通じるところがあると思って。ある人の知られざる一面を目撃した時、自分は何を思うのか。信じるものについて、もう一度考えたくなる作品だと思います」

ヘア:MAMI(OOO YY) メイク:MASAKO TOYODA(dynamic) スタイリング:中澤咲希 
衣装協力:シャツ6万4900円、パンツ6万9300円(スタジオ ニコルソン 青山/スタジオ ニコルソンTEL03-6450-5773)

すぎさき・はな●1997年、東京都生まれ。2016年、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞ほか、複数の映画賞を受賞。主な出演作にドラマ『おちょやん』『いだてん~東京オリムピック噺~』など。12月に映画『市子』、24年3月に映画『52ヘルツのクジラたち』が公開予定。

あわせて読みたい

映画『法廷遊戯』

映画『法廷遊戯』

原作:五十嵐律人『法廷遊戯』(講談社文庫) 監督:深川栄洋 脚本:松田沙也 出演:永瀬 廉(King & Prince)、杉咲 花、北村匠海ほか 配給:東映 11月10日(金)公開
●久我清義(永瀬 廉)と幼なじみの織本美鈴(杉咲 花)、天才と名高い結城馨(北村匠海)は、法律家を目指して同じロースクールに通っていた。だが、模擬裁判「無辜(むこ)ゲーム」で馨が殺され、美鈴は容疑者、清義は弁護人に。
(c)五十嵐律人/講談社 (c)2023「法廷遊戯」製作委員会