香港を180回旅して知った“ありえない発展スピード”。治安や文化など、日本人が知らない香港の姿をひとりっPが語るインタビュー

暮らし

公開日:2024/1/3

ひとりっPさん

自称「稀代の旅バカ」ひとりっPさんが責任編集する元祖・女子ひとり旅指南本「ひとりっぷ」シリーズ。このほど最新刊『ひとりっぷ6 香港の推し111編』が登場。なんと180回も香港に飛び、香港政府観光局から「超級香港迷(スーパーホンコンマイ)」として認定されているというひとりっPさんが、今、香港で本をつくる理由はなんなのか?お話をうかがった。

●コロナ後に再発見した香港の「推し」を一冊に!

――最新刊の「香港編」が登場する「ひとりっぷ」シリーズですが、どうやってうまれたものなんでしょう?

ひとりっP:2016〜2017年の年末年始に日本雑誌協会主催で「年末年始本屋さんに行こうキャンペーン」というのがあって、いろんな出版社で一斉にムックを出すことになったんですね。もともと「ひとりっぷ」(女子のひとり旅のこと)についてSPURにいたときに編集長コラムで書いていたので、それをベースに本を作りたいって提案したのが始まりなんです。当時は月に1、2回海外に行っていたので。

advertisement

――月2回の海外というのはお仕事ですか?

ひとりっP:仕事とプライベートの両方でしたね。一回は仕事で一回はプライベートみたいな。

――編集長ってお忙しそうですが、それでもプライベートでも行かれたんですね!

ひとりっP:土日に行く超弾丸だったからできたんですよ。当時は羽田からの夜便が増え始めた頃だったので、金曜の夜に「おつかれさま~」ってスーッといなくなってそのまま羽田みたいな。月曜日の早朝に戻ってきてそのまま仕事していたので、休みはとらなくて大丈夫だったんです。弾丸だから香港、タイ、シンガポール、マレーシアとか近場に行っていましたね。

――ずっとそういう生活をされていらしたんですか?

ひとりっP:最初のうちは連休ごとですね。3連休があったら香港や台湾なら行けると気がついて、それが半年に一回になり、4ヶ月、3ヶ月、2ヶ月に一回になり、羽田の夜の便もできて毎月になりました。

――最新刊は「香港」ですが、なんと180回も行かれたとのことで。

ひとりっP:会社に入ってすぐに行った海外旅行が初香港で、そのあとに初めてひとり旅したのも香港で、そんなこんなで180回です。初めて行った時から「面白い! 何これ?!」って感じで、到着初日から「ヤバいな、またこなきゃ」って。半年に1回がだんだん短くなって、深夜便が飛ぶようになってからは毎月行くみたいな感じですね。

――新刊にはそうした香港経験がつまっているわけですね。

ひとりっP:香港はすごく動きが早いので、毎月いかないと追いつかない場所で。もちろん誰も追いつけなんて言ってないんですけど、自分的にはこの変化の速さに追いつきたいと思っていたし、それが香港のすごい魅力だとも思っていました。最新の欧米風なところもあれば、通り一本挟むとトラディショナル、しかもその中にはイギリス文化が微妙に混ざっていていわゆるチャイニーズではない。そういう文化がミルフィーユのようにあるのも面白い。

 そんなところに魅力を感じていたんですが、今回、あらためて香港本をやろうと思ったときに、編集部の同僚から「ひとり旅で世界各地に行っているのに、なぜ香港には180回も行くのか、そのわけが知りたい」って言われて。それで香港を歩きながら「なんでかな?」って考えたんです。コロナ禍で3年間行けなかったことでフラットな目線になったのもあって、「そうそう、こういうところが好きなんだよね」とか「これなんか、すごい好き」とか、そういうのをひとつひとつ確認していったんですね。

――なるほど。再発見されて、より強く「推し」になったと。

ひとりっP:それまでは毎月当たり前のように行っていたので、「これがやっぱり好き!」っていうことまでは自覚がなかったんですよね。3年ぶりで香港度数がマイナスになっていたところからなので、いろいろなことがほんと沁みて、自分でも気がついていなかったいろんなことが再発見できました。

 最初こそ「美味しいものいっぱい、買い物も楽しい」くらいにざっくり考えていたんですが、「いやそうじゃない、それだけじゃない。その先の香港っていうところが一番のキモなんだ」っていうことに、気がつきました。

――その先の香港…たとえばどんなことでしょう?

ひとりっP:うちの広報部が「見る・食べる・買うを越え、脇道の、トラム終点の、トレイルの果ての、誰も知らなかった“体験”する香港を紹介」ってコピーつけてくれたんですが、まさに「体験する香港」なんです。たとえば私は香港独特のタイルづかいとか、英語と漢字の併記とか、そういう部分に「くうぅ」って思うんですが、この本にはそういうことを詰め込んでいるんですね。

 これを読んで旅した方が「これって香港ならではなんだよな」って普通ならスルーしそうなところに反応してくれて、それが「あなただけの香港体験」のきっかけになったらいいなと。体験は人それぞれではあるものの、「私はこういう体験がすごく好きだし、これに魅せられて通っているけれど、あなたはどうですか?」という感じというか。

ひとりっPさん

●多くの日本人は香港を誤解している!?

――香港のサイズ感も探検するのにちょうどいい?

ひとりっP:大きさは沖縄本島と同じくらいなんですけど、その25%くらいのエリアに740万人が住んでいて、それ以外は手付かずの自然です。通いつめるほどに次々と開ける感じというか、サイズ的にも距離的にも「奥の細道」をどんどん追求したくなるし、していける規模感というのは確かにあるとは思います。「ここも香港なの!?」とびっくりしてしまう秘境のような場所にも、街中から30〜1時間ほどで行けちゃうんですよ。ほんとスゴイなと毎回感心しています。

――女性のひとり旅でも入っていける安心感もある?

ひとりっP:香港はほんとに治安がいいですよ。私は日本ですらカフェでトイレに行くときにはパソコンは持っていくのに、香港ではテーブルに置いたままの人が結構いるし、普通に夜中過ぎまでみんな歩いているし、日本の国内と似たような感覚で旅ができると思います。

――香港というと日本から見ていると民主化運動の弾圧とか、政治的に揺れているイメージもありますが、そのあたりは大丈夫なんでしょうか?

ひとりっP:たぶん多くの日本の方は誤解していると思います。本の中で「香港はダイヤモンドなんです。ちょっとやそっとじゃ傷つきません!」って書いたのは、その意味なんですね。

 私はデモが盛んだった時にも普通に毎月香港に行っていました。危険だから渡航をやめようとは一滴も思わなかったですね。実際、ほぼ問題なく街を歩けていました。デモのあとって、たいていはもう夜なんですが、通りがすごいことになっていて。でも翌朝には跡形もなくきれいになっているんですよ。デモが終わった途端にお掃除隊が出てきて片付けるので、翌朝には何事もなかったようにみんな出勤したり観光客が歩いたりしているんです。

――なんと! 日本での報道で知る姿とまるで違うんですね。

ひとりっP:実際に香港の友人たちと話すと、その感触が日本で報道される姿とはだいぶ違ったりするのに驚いたこともありました。そして、その後に来たパンデミックを経て3年ぶりで香港へ出掛けてみたら、香港はすっかり通常モードにリカバリーしているなと思いました。

 日本では「歩いているだけで逮捕されちゃうんでしょ?」とか言われて、ほんとに日本の人は誤解しているって思いますね。たまに警官がパトロールしていますけど、日本のおまわりさんと同じですよ。むしろおかげで治安がいい。少なくとも観光という意味ではまったく問題ないですね。

――なるほど! そういう体験もされた上で今回の本があるというのは「安心」です。

ひとりっP:現在は空港エリアも大規模開発中だし、いろんなところが日本よりすすんでいると思います。海沿いのプロムナードもすごい勢いで整備されて、すごい勢いで新しいショッピングセンターも高層マンションもできて、発展し続けているなーって思いますね。物価は東京よりはるかに高いし、非接触も進んでいるし、もう日本の先を行っているというのを、久しぶりに行ってすごく感じました。ライブな香港を体験していただければ、「香港はダイヤモンド」とわたしが力説するわけを理解していただけると思います。「百聞は一旅にしかず」ですね。

――名言! 自分の目で見るのって大事ですよね!

ひとりっP:「すべてのひとりっぷは世界平和に通ず」とも思っています。そうやって誰かが香港に行って「香港ぜんぜん大丈夫だった」というのを伝えれば、まわりの人に「香港、平気なんだな」って広がっていくじゃないですか。

ひとりっPさん

●弾丸で行ける距離に海外がある幸せ

――ところで、なぜひとり旅、なんでしょう?

ひとりっP:何をするにも自分次第という身軽さですかね。それこそ「明日行っちゃおうかな?」っていうのも、この時代はできるわけですから。すべて自分次第で、気を遣う必要ゼロっていう気軽さがなによりで。

 とはいえ最初は緊張しましたよ。ドキドキしながら香港空港に降り立って、入国審査を通り抜けたら「これからホテルまでの移動どうする?とか相談しなくていいんだ。自分で決めていいんだ!」と。「やった! ひとり旅ってめっちゃ自由」ってことにその瞬間に気がついて、雪野原に駆け出ていく犬のように外に飛び出ていきました。すでに数回来ていたことで勝手知ったる香港だったので、その時点で不安はゼロになりましたね。

――ちょっとだけ勇気を出せば、世界が広がりますよね。

ひとりっP:はい。自分ひとりで電車乗っているんだし、自分ひとりでスタバで注文しているんだし、それとまったく同じことだっていう。「旅は日常の延長、日常もまた旅」で、旅は別に特別なことじゃない。単に日本語がちょっと通じないだけで、普段自分がやっていることとなんら変わらないんですよね。

 だから興味があるならやったほうがいいし、そうしたら人生が何倍も濃くなるって伝えたいですね。たとえばお子さんがいたりすると厳しいとかあるかもしれないけど、夫婦交代で1泊2日の弾丸をやってみるという手もある。というのはフォロワーさんが教えてくれたんですけど。

――「弾丸で行ける距離に海外がある」という事実に気付くと面白いかもです。

ひとりっP:そうなんですよ! パンデミックでは本当にドアクローズして行けなかったですけど、今はまた再オープンしたんですから。私は「ドアがあいていて自由に行ける」ということのありがたみを本当に痛感しました。開いた当初こそ恐る恐るでしたけど、行ってみたらワーッて、「あいているって素晴らしい!」を噛みしめています。それで「世界は広い、人生は短い、迷っている暇はない!」って散々言っています。いつか、って言っていたら、いつまで待ってもそのいつかは来ないですからね。

――昨今の円安の相場を見てひるんだりしないですか?

ひとりっP:ひるみません! 閉じている時のことを思えば、あいているんですから。なぜ旅に出るのかっていうのをよーく考えてみてください。安く買い物するのが最大目的の人は行かないほうがいいかもしれませんけど、わたしは旅先での体験が面白くて出かけるので。円安は確かに痛いですが、そのために旅をやめたりはしないですね。

 3年ぶりの香港はやはりいろいろ変わっていました。そんな中、変わっていない部分もあってホッとしたんですが、この先の再開発などでどうなるかわからない。どの香港も、「今だけ」しか見られない香港なので、ほんとに「香港は一期一会」なんですよ。だから今体験できる香港を体験しなくては、と思っています。

――なんだか行きたくなってきました!

ひとりっP:ぜひ! ちなみに私は旅しているときは「日本代表親善大使」って思っています。帰ってくると勝手にいろんな国の「親善大使」として、良さを言いふらすようにしています。ぜひぜひ、この本をきっかけに旅に行ってほしいですね!

取材・文=荒井理恵、撮影=金澤正平

あわせて読みたい