趣味の愛犬撮影が、気付けばネコ科写真集を出すまでに。動物園での撮影のコツまで語るインタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/22

ほぼねこ"
ほぼねこ』(辰巳出版)

トラやライオン、ユキヒョウ、ホワイトタイガーなど「ネコ科の大型動物」のペットの猫のような愛らしい写真が満載の写真集『ほぼねこ』(辰巳出版)。SNSで大人気のRIKUさん(SNSフォロワー27万人達成!)の1st写真集となるこの本は、発売前にAmazon和書「猫」「ペット一般」「環境保護」の3部門でベストセラー1位を獲得し、現在第5刷と大きな注目を集めています。デカモフ猛獣たちの可愛さに思わずにやけてしまうこの写真、一体、どんなふうに撮っているの? いろいろRIKUさんにうかがいました。

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RIKU著『ほぼねこ』より
コテンと転がるライオンの子ども(RIKU著『ほぼねこ』より)

きっかけはたまたま行ったズーラシア

――そもそも写真はお家でワンコを飼われたのがきっかけで始められたとか。

RIKUさん(以下、RIKU):一人暮らしと同時にダックスフンドを飼い始めて、一眼カメラを買いました。たまたま横浜にあるズーラシアに行った時にスマトラトラのミンピに出会い、すごく魅力的だと思って。もう少し家から近い所にある多摩動物公園にも行ってみたら、そちらにいたユキヒョウのコボも美しくて。最初は手ぶらでフラッと行ったんですが、多摩動物公園にはいつも犬を撮っているカメラを持って行って撮り始めました。

――どんなところに魅了されたんでしょう?

RIKU:しなやかなフォルムや模様、瞳が「ほんとにキレイだなー」と。あとは何度か通っているうちに、子どもが生まれて親子展示を見る機会に恵まれて、親の愛情が深かったり、子ども同士の仲が良かったり、まるで「人間の親子」のような愛情や姿を見てハマりましたね。

――確かにRIKUさんの写真から、人間みたいな感じわかります!

RIKU:トラのお母さんってほんとに愛情深いんですよ。以前、生後1ヶ月目くらいで親子展示があった時は、まだ目がよく見えていない感じの赤ちゃんが人の見ている方によろよろと歩いていく度に、お母さんが口に咥えては人がいない所に運んで…というのを何度も繰り返していました。子どもが危ないときには守ろうとして駆けつけたり、子どもが甘えてくるとずっと舐めてあげていたり、人間でいうとワンオペ育児で大変だと思うのですが、ほんとに愛情を注いでいるのがよくわかります。

「動物が子どもを大切に育てる」というのは知っていましたが、実際に目の当たりにすると「すごいなあ」って心が動かされましたね。それでいて無邪気なんですよ。子どもをそんなに大切に育てているのに、時々お母さん自身がゴロンとなったり、おもちゃで遊びたがったり、そういうかわいらしいところもあったりするギャップも魅力ですね。

――ちなみに「この子を撮りたい!」って思う子には、何か違いがあるんですか?

RIKU:興味を惹かれる個体というのはもちろんいるんですが、理由は説明しづらいです。突然惹かれてしまう、みたいな。種類で言えば僕はトラやユキヒョウでしたが、それがキリンの方もいればゾウとかパンダの方もいるし、ちょっと恋愛みたいな感じかもしれません。

――本当にたまらん瞬間の写真が本にはたくさんあって。こういう「決定的瞬間」みたいなのを押さえるためには、どんなふうに撮影をしていますか?

RIKU:長く観察していると、なんとなく「もうそろそろ親子でじゃれるかな」とか「こういったことするかな」と予測がつくようになってくるんです。なので「あの辺でやりそう」という場所に先回りして撮影します。

――そういう境地になるためには、どのくらい通うんですか?

RIKU:4、5回くらい通ったらなんとなくできるようになるんじゃないかなぁ。その動物ならではの動きもあるし、動物園の展示室だから見られる動きもあるので、「このあたりに行くと崖を登りやすい」とか「このあとは水を飲みにいく」とかなんとなくわかってくる感じです。

 園には足繁く通いますね。実際、大型ネコ科動物の親子は通常1年から2年くらいで親子別れしてしまうところが多いので、親子一緒に見られる期間は短いんですよ。僕は普段は仕事しているので、週末に何度も通って撮る感じで、旭山動物園へもほぼ毎週、週末にせっせと北海道に行っていました。

――お金も結構かかりそうですね。SNSで発信されていたとのことですが、とはいえ売り上げが発生するわけでもなく…そのへんは「趣味」と割り切って?

RIKU:そうですね。ほんとに趣味の一環でずっとやっているので。SNSにしても、誰かに見てもらいたいとか、見せたいという気持ちでやっているわけではなくて、単に自分の癒しというか、自分のタイムラインを見てニヤニヤしたいって思いで続けているところもあって。実はそんなふうに趣味で撮り続けている方は結構たくさんいて、各動物園でよくお会いします(笑)。

RIKU著『ほぼねこ』より
仲良くお昼寝をする大森山動物園のユキヒョウ親子(RIKU著『ほぼねこ』より)

機材さえ揃えれば誰でも撮れる!?

――動物園で動物をスマホで撮ると全然上手に撮れないんですが、どうしてこんなに美しく撮れるんでしょう? まさか檻の中でもないだろうし…。

RIKU:やはり一眼カメラを使っているからですね。実はレンズにはF値という明るさを表す基本的な指標があるんですが、F値を小さくして明るければ明るいほど、檻の中の動物を写したときに手前の柵が消えやすくなるんですよ。それで檻の中の動物も近くで撮ったような感じに撮ることができるので、ちゃんとしたカメラさえ揃えれば誰でも撮れちゃうとは思います。あとは望遠であればあるほど撮りやすいというのもあるので、僕も200mmから400mmのレンズを使っています。

――機材は揃えられても、動物の撮影特有の難しさもありそうです。

RIKU:相手は動物なのでやっぱり完全に行動を予測するのは難しいですし、見逃したらもう出会えない瞬間も確かにあります。ただ自分は、自分自身が楽しんで癒されるためだけの趣味でやっているのであまり気にしていません。

 前に北海道までユキヒョウのジーマとユーリの親子展示を見にいった時は、お父さんのヤマトが帰宅拒否したため、親子が展示場にこられなくなった、なんてこともありました。期待したけど見られないっていうのはほんとに多々あるので、そういう時は「しかたない。動物だから」で終わります。動物の体調が悪ければ展示そのものがお休みの時もありますし、その辺りはむしろ園の動物ファーストな姿勢に安心します。「今回ダメなら、また来月こよう」とか、そのくらいの感覚がちょうどいいです。

――ちなみに撮影していて一番大変なのは?

RIKU:とにかく寒い、とにかく暑いといった天候ですかね。冬の旭山動物園で撮影した時は、暴風雪で園内にもほぼ人がいなくて、ホワイトアウトみたいな状況になった時は、流石に寒くて辛かったです。真夏に浜松市動物園で撮影した時は熱中症寸前でもうろうとしたりして。とはいえどっちの場所でも親子を見たくてずっと撮っていましたけど。

ほぼねこ
浜松市動物園で撮影した子トラたち(RIKU著『ほぼねこ』より)

欲がない方がいい写真が撮れる

――この本に刺激されて「自分も動物を撮ってみよう」と思う方もいそうです。「私はこの子!」をどう探したらいいでしょう。

RIKU:どの動物に惹かれるかはそれぞれなので、まずは行ってみることですよね。親子展示しているところに出かけるのもいいですよ。ちなみに今(2024年4月)、僕が最初にズーラシアで出会ったスマトラトラのミンピが上野動物園で子どもを産んだので親子展示しています。

――持って行った方がいいものは?

RIKU:カメラはもちろん。でもカメラくらいかな。なるべく身一つでバッグもコンパクトにして行って、人が来たら場所を譲りながら撮る感じがいいと思います。

 よく「欲がない人の方がいい写真が撮れる」ともいいますが、撮りたかったら単純に行く回数を増やすのが一番ですね。この本の中にタイヤを落としてしまうトラの写真があるんですけど、あれは平日に有休を取って朝イチで浜松まで行って撮れたので、行かなかったら単純にそのシーンには出会えませんでした。

――動物園に何度も足を運べば、動物園の収入も上がって動物たちのハッピーにも繋がりますしね。

RIKU:ただ好きな人は動物園の年パス買って通っているので…なのでなるべく園内で飲食したり、グッズを買ったりするようにはしています。ネコ科の大型動物たちは獰猛なイメージも強いと思いますが、動物園で動物を見て「猛獣」といわれる動物にもこんなに感情があるんだ、親子の愛情があるんだと知ることが、自然保護とか動物保護への関心にも繋がると思っています。

RIKU著『ほぼねこ』より
愛情の深さが伝わってくる(RIKU著『ほぼねこ』より)

撮影は自分の癒し。かわいいから撮る!

――今回の写真集には、動物写真家の岩合光昭さんが推薦文を寄せてくださったそうで。

RIKU:そうなんです。雲の上のような方からコメントいただけて、ほんとにただただ嬉しくて。自分の写真集に目を通していただけたかと思うと大変光栄です。

――RIKUさんはそもそも「写真家」になりたかったわけではないですもんね?

RIKU:写真集が出た今も写真家とかカメラマンって名乗るつもりは全然なくて、プロフィールにも入れないように気をつけています。たまたま自分の癒しのためにやっていたSNSに共感してくださる方がたくさんいらっしゃって、編集者さんに声をかけていただいてこうして本にしていただいた感じなので。手に取ってもらえなかったら申し訳ないなと心配していましたが、予想以上に売れているようで…。正直驚いていますし、読者の方にも楽しんでいただけているようで嬉しいです。

――これからも気持ちは前と変わらず撮り続ける?

RIKU:そうですね。自分の癒しのためにやっているものなので、粛々とこれまで通りやりたいと思います。今はペーパードライバーですが、ちゃんと運転できるようになったら、野生動物も撮りたいなって思っています。

――ちなみにファインダーを覗いているときって、どんな気持ちなんですか?

RIKU:単に「かわいい!」と思って撮っていますね。たまに隣で知らない方が「かわいい」ってずっと呟きながら撮っていたりするんですが、自分も心の声はそんな感じです(笑)。

取材・文=荒井理恵

RIKU著『ほぼねこ』より
いしかわ動物園のユキヒョウ・ヒメル(RIKU著『ほぼねこ』より)

RIKU著『ほぼねこ』より
雪にまみれる旭山動物園のアムールトラ(RIKU著『ほぼねこ』より)

RIKU著『ほぼねこ』より
赤ちゃんを運ぶホワイトタイガーのお母さん(RIKU著『ほぼねこ』より)

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