30周年記念47都道府県ツアーそして新曲に込める思い――エレファントカシマシ宮本浩次インタビュー【前編】

エンタメ

2017/7/20


 現在“30周年イヤー”真っただ中のエレファントカシマシ。1988年のデビュー以来変わらぬ4人で活動を続ける孤高のロックバンドが、メンバー全員50代となった今、充実の時を迎えている。3月に発売した4レーベルをまたぐベスト盤は、バンドのキャリア史上初のオリコンデイリー1位を獲得。7月26日(水)には30周年記念シングル第1弾として『風と共に』が発売される。この曲はNHK『みんなのうた』6月~7月の新曲としてテレビ・ラジオで連日放送中だ。

 今春からは、これもバンド史上初の47都道府県ツアーを敢行。4月から12月までほぼ毎週土日に日本のどこかでコンサートを開くこと自体が、全力集中型のライブを厳選して行なってきたエレカシにとって異例中の異例だ。「47都道府県ツアーは悲願だった」と言うVo&G宮本浩次に、まずはツアー前半戦の近況から聞いた。

 「身体には充分気を付けながらツアーに臨んでいますが、おかげさまでコンサートが非常に調子がいいので、本当に充実した時間を過ごしています。コンサートのために、絶対に健康でいたいと思っているし、全てのサイクルがコンサートに向かっている。週に1回は必ず、例えばコンサートの前日にリハーサルをして、土日にコンサートをして。平日はプロモーションとかビデオの撮影とか“バンドの顔”としての仕事をしています。もう何年も前にタバコをやめたので当然吸わないし、喉に影響するからお酒も飲まない。ただテンションが高すぎて寝られない時があるので、自分でその辺をセーブするようにはしています」

 ハイテンションの状態から“自分を元に戻す”には。

 「毎日、腹筋背筋をすることと……それから車に乗るのもいい。例えばツアーへ出かける時に羽田空港に車をとめて、東京に戻ってきて車を運転しながら帰る道がすごく楽しい。もちろん飛ばすわけじゃないし、のんびり走るんですけど。久しぶりに、車に乗るのが至福の時間。本当は読書がいいんだろうけど」

 実は筋金入りの読書家でもある宮本は、ツアーにも必ず本を3冊持っていく。

 「例えば新書本と、哲学の本と、それから軽い読み物、という感じで3冊持っていきます。5月に島根県の松江でコンサートがあったので小泉八雲記念館に行って、それをきっかけに小泉八雲の本を読んだり。20代前半の頃、小泉八雲がすごく好きで、怪談から日本のことを書いた随筆までほぼ全部読んだけど、1冊だけ読んでいない文庫本があったんです。代表作が収められたものなんだけど、昔買ったその文庫本を20年ぶりくらいに引っ張り出してきて読みました。すごく面白かった」

 

自分の凄みを他人に叩きつけるというやり方じゃなくて

『論語』を長年読み続けてきたことでも知られるが、本の読み方は年齢に従って変わってきた。

 「以前は毎朝『論語』を読んでいたけど、今は1冊を全部読みとおすエネルギーがないんですよ。だから常時3冊持っていく。『飛行機の中』用とか、『寝る前』用とか考えながら。それで、1章終わったらとか、短編1本とか、区切りのいいところで次の本へ行く。哲学の本を持っていくのは、僕は本当に本腰入れて勉強したかったんです。だから『論語』を全部漢文で読み通そうとしたり……漢文どころか最後は俺、江戸の儒学者・荻生徂徠の真似をして中国語の音韻で読んじゃってたから。もともと漢文でも進まなかったのが、中国語の音韻で読みだしてますます進まなくなって、しかも暗記しようとしたりして……。そういう読み方はやめました」

 それはコンサートのやり方にも通じるという。

 「150%の力を出し切るのがコンサートだと思っていたけど、今は歌だけに全神経を集中させて、無駄な体力を使わないようにしている。日常も平坦にして、コンサートに向けて気分や体力を維持することに集中する。その場だけ150%出すというやり方じゃなくて、常日頃から60%~70%の緊張感をずっと維持して、コンサートもそのままの体調で歌うという風に変わってきた。これまでのエレファントカシマシの音楽やコンサートが、“全力”の作り方だったとすると、今の作り方は無理をしないで、自分の現状のレベルを超えない、体調も超えない。自分をいたわって壊さないペースでやっていくことで、魅力を伝えたいと思うようになった」

 自身が考える、現在のエレファントカシマシの魅力とは。

 「少なくとも今回のベスト盤における魅力は、やっぱり『歌』と『メロデイー』だと思うんですね。それと、30年以上にわたってこのバンドを維持してきた4人の、まあわざとそういう言葉を使うと、『絆』。これがエレファントカシマシの最大の特徴だと思うんです。この4人で在ること。宮本が歌うということ。それがちゃんと出るコンサートにしよう。それ以上でもそれ以下でもないものにしよう。何か傑出した、自分の凄みを他人に叩きつけるというやり方じゃなくて、こけおどしじゃなくて、自分の身の丈に合ったやり方でいいんじゃないかって考えるようになりました。でも一方で、憧れはあります。エレファントカシマシが、世界一のビッグヒットを飛ばすバンドでありたいって僕はやっぱり思ってる。例えばビートルズと並べて、1500万枚のシングルヒットを出そうぜって話したら、みんなはおそらく『またまたまた』って言うわけですけど……」


 

1曲目から手拍子が起きて、嬉しくてたまらなかった

 エレファントカシマシのコンサートといえばかつては「MCなし」「アンコールなし」「手拍子禁止」。「立ち上がると怒られる」「正座して見る客もいた」など逸話に事欠かない。特に20代の頃のステージは観客を緊張させ、それがヒリヒリするような魅力でもあった。一転、今ツアーでは前半で宮本が丁寧に曲を解説し、会場は最後まで温かな雰囲気に包まれる。時には爆笑が起きることも。もちろん、ますます“伝わる力”の増した全身全霊の歌唱そして熱いバンドサウンドで、約3時間の長丁場を全く飽きさせず圧倒するのだが、ステージと観客の距離の近さは明らかな変化だ。

 「毎回、前半で1曲1曲の説明をしているんですが……自分としては必死にやってます。受けようなんて全然、思ってもいない。でも、僕の話はきっともともと面白いんだと思うんです(笑)。要するに『一生懸命話す』ということ、自分の曲を解説するということを、単に今までやらなかったけど、今回は特に衒わずにやってるだけなんです。それと今回、1曲目から手拍子が起きた会場が何か所かあって、これにはメンバーも度肝を抜かれたと思う。コンサートスタッフも……ツアーは14人くらいで日本中を回っているんですが、ほとんどが20年以上の付き合いなんです。誰一人欠けていない。彼らもこの30周年のエレファントカシマシのツアーにものすごく意気込みを持ってると思うんですけど、1曲目から手拍子が起こったのには驚いたと思う。僕ももちろん驚いたけれど、もう、それだけで嬉しくてたまらなかった。まあ、手拍子をしようがしまいがお任せしますけど、自然発生で手拍子が起きたことがとっても嬉しかった。なぜなら、みんなが待ち焦がれてそこにいてくれていること、少なくとも楽しもうと思って来てくれていること、しかも自然に身をゆだねていることが、あの手拍子でわかるわけです。ああ、これからもみんな安心して、何も考えないで、してもしなくてもなんでもいいんだから、遊びに来て、って本当に思います。コンサートに、歌を楽しみに、自然体でおいでよ、って。スタッフも含めて、そういうことに一緒に感激しています」

 

僕らがやりたかったコンサートはこれなんじゃないか

 ツアーは行く先々でソールドアウトが続出。初めて訪れる土地でも、観客との一体感に気づかされている。

 「会場のお客さんも含めて、エレファントカシマシって4人じゃないんです。これ変な言い方じゃなくてね。きっと僕が、僕らがやりたかったコンサートって、これなんじゃないかな。今までは怒鳴りつけたりとかしてきたし、例えば佐久間(正英)さんと出会って97年に『今宵の月のように』がドラマ主題歌になった時も、当時の奇跡的なチームプレイでヒット曲が生まれたけど、今はそういう突発的なことじゃなくて、『積み重ね』であのコンサートの空間が作られていると思う。スタッフもファンの人も含めてね。もしかしたらこれまでも、みんな、エレファントカシマシに突発的でエキセントリックなものじゃなくて、もっと健康で、明るくて、夢や希望を一生懸命歌う姿を求めていたんじゃないか。それがどうしてもうまく表現できなかっただけで、今ようやくその第一歩が踏み出せたんじゃないか。自分でも想像だにしなかったけど、30周年とベスト盤があいまって、ようやく明るくて健康で、希望と夢と自由を歌うエレファントカシマシの姿……その全貌の一端があらわれたんじゃないかと思います。お客さんもそういうシーンを楽しんでるんじゃないかなぁ。みんなもそうあってほしいって思ってたのかもしれないし……わからないけど。すごくすてきな時間が生まれてる。これがエレファントカシマシなんじゃないか。よかったな、って思います」

取材・文=滝本志野 写真=下林彩子


みやもと・ひろじ
●1966年、東京都生まれ。エレファントカシマシは中学時代の同級生だった宮本浩次(Vo&G)、石森敏行(G)、冨永義之(D)に、冨永の高校時代の同級生・高緑成治(B)が加わり、’88年デビュー。2017年夏は全国ツアーの合間に、7月28日(金)Reborn-Art Festival 2017 × ap bank fes 、8月5日(土)オハラ☆ブレイク’17夏、8月6日(日)ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017、8月19日(土)・20日(日)SUMMER SONIC 2017、8月25日(金)SWEET LOVE SHOWER 2017などの夏フェスに出演。9月23日(土・祝)愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホールから47都道府県ツアーが再開、後半戦は12月9日(土)富山・オーバード・ホールまで計20公演。http://www.elephantkashimashi.com/