SEKAI NO OWARI・藤崎彩織「“自分みたいだけど自分じゃない”ヒロインと一緒に葛藤して、一緒に考え続けた5年間でした」

新刊著者インタビュー

2017/11/6

NHK紅白歌合戦に3年連続出場を果たしている、4人組バンドSEKAI NO OWARI。紅一点のメンバー、Saori(藤崎彩織)は、ピアノ演奏とライブ演出を担当し作詞作曲も手掛けている。文芸誌でエッセイ「読書間奏文」を連載するなど、文筆活動でも注目を集める彼女が、初小説『ふたご』を発表した。

著者・藤崎彩織さん

藤崎彩織
ふじさき・さおり●幼馴染み4人で結成されたバンドSEKAI NO OWARIのメンバー。同バンドは2011年にメジャーデビューし、14〜16年の3年連続でNHK紅白歌合戦出場を果たす。バンドでは、ピアノ演奏、ライブ演出、作詞作曲を担当。文芸誌『文學界』でエッセイ「読書間奏文」を連載中。まもなく一児の母に。

 

「序章 ふたご」はこんな一文から始まる。〈彼は、私のことを「ふたごのようだと思っている」と言った〉。〈私たちが一緒に生活を始めてから、何年になるだろうか〉という一文を挟んで、「私」からの回答が現れる。〈私たちがふたごのようであったら、絶対に、一緒にいることは出来なかった〉。それは何故か? 時計の針が巻き戻り、「私」が中学2年生だった頃、「彼」との出会いから本編が動き出す──。

執筆のきっかけは、バンドメンバーのFukaseから「小説を書いてみたらどう?」と提案されたことだったと言う。

「Fukaseは私がバンドに入るきっかけをくれた人だし、〝曲を書いてみたらどう?〟と言ってくれたりもした、自分の可能性を引き出してくれた人なんです。お互いをプロデュースし合ってきた仲なので、Fukaseがそう言うならやってみようかな、と。でも、いきなりサスペンス小説とか、自分にまったく関係ないことは書けない。私自身の人生だったり、私たちのバンドのストーリーをベースにしたお話にしたらいいんじゃないかな、と思い『序章』を書き始めたのが2012年の夏でした」

そこからの5年間、彼女はバンド活動をするかたわら、ずっとこの小説を書き続けていたのだ。

「ただひたすらに、書きまくっては捨てまくった5年間でした。昔から本を読むことは好きだったんですが、人とどういう距離感をもって話をしたらいいんだろうとか、どんなふうに自分の心を保っていけばいいんだろうと悩んでいる時に、本の中のふとした一文で〝あっ、これだ!〟となることが何度もあったんですね。友達でもなく恋人でもなく家族でもなく、本が私に教えてくれたことってたくさんある。自分が本を出す立場になるのなら、誰かの心を支えられる言葉を紡げたらいいなって、意識せずにはいられなかったんです」

ひとりの女の子が居場所を見つけていくストーリー

出会いは、学校の階段だった。
中学2年生の「私」は、1学年先輩の月島悠介が「寒空の下にいる動物みたいな目」をしている様子に惹かれ、声をかける。

「こんにちは、西山夏子といいます。何を見ているんですか」。二人は放課後や休日に東急池上線沿線の町を散策しながら、会話を交わす仲となる。

「現実はこんな出会いではなかったし、中学2年生の私がどんな会話をしていたのかは、はっきり覚えていないんです。もちろん実体験で感じたことも、たくさん入ってはいますが……。現実と小説の世界はすごく不思議な距離感ですね。パラレルワールドのような。小説の舞台になっている町は、実際に私が生まれ育ったところなので、いつか絶対に描いてみたいと思っていました。東京にある普通の住宅地ですし、特に何かあるというわけではないのですが、思い出の詰まった大好きな場所なんです」

その町の片隅で、夏子は誰にも言えなかった悩みを告白する。「私、友達の作り方が、全然分からないや」。月島は言う。「お前の居場所は、俺が作るから。泣くな」。二人の関係をずっと見つめたくなる、素晴らしいセリフ、素晴らしい第一章だ。

「夏子がその言葉を月島に言われて何年も経ってから〝これがあの時月島が言っていた私の居場所なのかな〟と気付く、そのシーンを最後に持ってくればひとつのお話になるんじゃないかなって思い浮かんだんです。私が書きたかったのは、唯一ピアノだけが友達の、ひとりの女の子が居場所を見つけていくストーリーでした。中学2年生という一番多感な時期に、夏子が月島にその言葉を言われたという設定にして最初のシーンを作りました」

月島は先に高校生になり、のちに夏子も音楽高校へ進学する。月島は、夏子のことを「恋人」と呼ぶ。そうありたいと夏子も願っているけれど、夏子が胸に抱いている感情と、月島のそれがまるで違うことを知っている。それでも、一緒にいることが大事なんだと思っていた矢先に、二人を引き裂く出来事が起こる。

「〝自分みたいだけど自分じゃない〟夏子という女の子を、葛藤させたり窮地に追いやったりしながら、自分も一緒に考えてきた感じなんです。書きながら涙がボロボロ溢れてきたり、眠れなくなったりしていました。役者さんがされていることに近い感じなのかもしれないです。夏子や月島になり切って書く、という」

再び距離を縮めた頃、月島は幼馴染みとバンドを組むと宣言する。メンバーも揃っていないのに倉庫を借りて、楽器が演奏できるスタジオへと改造。音楽を鳴らすより先にしなければいけないことは、仲間が集まる場所を作ること──。月島に巻き込まれ、夏子もメンバーとなる。

後半は、4人の物語だ。そして、夏子と月島の関係性が決定的に変わる。〈私たちがふたごのようであったら、絶対に、一緒にいることは出来なかった〉。夏子と月島はバンドを組むことで、ずっと一緒にいられるようになった。そのかわり……。

「バンドを始めたこととか、スタジオを作ったりしたことは実際に私の人生に起きたことなんですけど、実際に起きていないことも小説の中にはたくさん入っています。〝この部分は本当にあったこと〟〝この部分はまったく何もないこと〟〝この部分は半分ぐらい脚色してる〟……とかいろいろあるんですけど、なるべくどこがどうとは言わないほうが、みんなの心に届くんじゃないかなって思うんですよね」

5年間の意味が分かるのは

原稿が8割方完成したところで、SEKAI NO OWARIのメンバーに読んでもらう機会があったという。3人それぞれが伝えてくれた感想から力をもらい、ラストスパートをかけた。そんなある日、メンバーからサプライズが届けられた。

「私の誕生日に、メンバーがカセットプレイヤーをプレゼントしてくれたんです。再生してみたら、カセットから初めて聞く曲が流れてきて。〝一番最後に夏子の頭の中で流れてる音楽を書いたよ〟って、『ふたご』の小説をイメージして作ってくれた曲だったんですよ。Fukaseが詞を書いて、Nakajinが曲を書いて、DJLOVEがジャケットの写真を撮ってくれて……。本を出すことで1個だけ残念だなって思うのは、この曲が本からは流れないことですね(笑)」

シンプルな言葉選びで豊かな感情を引き出し、改行や言葉のリフレインでリズムを奏でるセンスは、既に独特の文体を持っている。そして、ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロが語った「小説とは、記憶と想像の奇妙な融合」という真髄にも既にタッチしている。また新しい物語を書いてほしい、と素直に思う。

「CDを出してみて思ったんですけど、自分たちが作った曲の意味が分かるのって1年ぐらいなのかなって。今回の本も、5年間かけてこの小説を書いてきたことの意味だったり、この本がどんなふうに届いたのかなってことが実感できるようになるのって、1年後ぐらいなのかなと思うんです。それを待ちたいですね。その後で? そうですね、またいつか、新しい物語を書いてみたいです」

取材・文:吉田大助 写真:山口宏之