『クジラ』の絶望と希望は、音楽でどう描かれたのか――主題歌アーティストインタビュー

エンタメ

2017/12/17

TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』は、監督のイシグロキョウヘイが「どちらかというと映像以上に、音楽のほうに自分の意図みたいなものをぶち込みたい」と認めているように、物語が紡がれていく過程で、実に効果的に音楽が使われている。イシグロの意図が反映されているのは、オープニング/エンディングの主題歌も同様だ。OP曲『その未来(さき)へ』を担当したRIRIKOは、音大に在学中。ED曲『ハシタイロ』を手掛けるrionosは、作家としての活動を続けてきたもののメジャーで自身名義の楽曲を発表するのは初めて。
ともに新人アーティストであるふたりは、『クジラ』の世界を覆う絶望と、生きるために人々が見出していく希望をどのように解釈し、楽曲に投影していったのだろうか。

オープニング主題歌『その未来へ』RIRIKOインタビュー

神様の視点で見ることで、泥クジラの人々の芯の強さや、生き生きしてるところが見えてきた

――リリースから少し時間が経ちましたけど、デビュー曲の『その未来へ』を振り返ってもらえますか。

RIRIKO:アニメの制作の方々が気に入ってくださったのが、もともとわたしが高校生のときに書いてた曲で。それが『その未来へ』の原曲になったので、『こんなに明るくていいんだ』っていうことと、まだ音大にも行ってない、独学でやってきたまっさらな自分を受け入れてもらえたことがすごく嬉しかったし、印象的でした。歌詞は「クジ砂」に合わせて書き直したんですけど、曲の構成はそのままで。原曲のタイトルは『ベートーべン』っていって、ベートーベンの生涯を歌詞にしたもので――。

――えっ、この曲調で?(笑)。

RIRIKO:はい! 高校生のときに音楽の授業でベートーベンの生涯について習って、『テストに出るから覚えてきましょう』ってなって、でも『覚えられないから歌にしよう』と思って。そのときにちょうど作ってた曲があったので、『じゃあこの歌詞でベートーベンにしよう』って書いたのが『その未来へ』の原曲になった『ベートーベン』なんです。

――アニメサイドに提出した歌詞は、「ベートーベンの生涯」のまま?

RIRIKO:そうです! ベートーベンのアーティスティックなところがマッチしたのかな(笑)。

――(笑)この曲はオープニングなので、作品の空気を作る役割を必然的に担うことになるじゃないですか。その上で、まず『クジ砂』という作品から何を受け取ったのかを聞いてみたいです。

RIRIKO:すごく絵がきれいで。異世界ファンタジーなので内容はちょっと難しいのかな、と思いながら読み進めていたんですけど、絵のおかげですっと心に入ってきました。あとは、人の感情をテーマにしている作品で、それはわたしたち人間がみんな持っているものなので、それも含めて共感ができる、というのがあって。「その気持ちを書くのかな?」と思っていたら、イシグロ監督から『この作品を俯瞰的に見た、神目線で歌詞を書いてほしい』『主観的な言葉、僕とかわたしは使わないでほしい』っていう依頼があって。もちろん今までに作ったことがない歌詞の世界観だったし、シンガーソングライターはやっぱり“わたし”とか“僕”を使って自分の目線で書いてしまいがちなので、最初は『できるかしら?』って思いました。だから原作を何回も何回も読み返したんですけど、神様の視点で見ることによって、悲しい作品だけど泥クジラの人々の芯の強さや、生き生きしてるところが見えてきたんですね。何人も死んでしまってたくさん泣いたり怒りを表したりもしているけど、そこには笑顔もあって、明るく生きていることが伝わってきて。それはなぜかというと、感情があるからなんだっていうことが感じ取れたので、その力強さを歌いたいなって、彼らを俯瞰的に見ているので、包み込むというよりは引っ張っていきたい、というか。歌い方もあまり感情的にならず、でも力強くいこうって思いました。

――神目線で歌詞が書かれているとはいえ、『その未来へ』という曲には推進力みたいなものが感じられるなあ、と思うんですけど、歌自体にRIRIKOさん自身のパーソナルが乗った感じはありますか。

RIRIKO:この曲がデビュー曲ということで、新しいスタートラインなので、ちょっと勝手ですけど、わたしに待っている未来も重ねちゃった部分はあります。自分の曲がこれからいろんな景色を見せてくれるっていうことも含めて、頑張っていく、と言うと軽くなっちゃうんですけど、前に進んでいくという気持ちが歌い方や歌詞の中にも入っていると思います。神目線の歌詞を書く貴重な体験もさせていただきましたし(笑)、初めての経験で自分に対する可能性も同時に感じています。

――これからいろんな作品に音楽を提供していくことになると思うんですけど、どんなことを大事にしていきたいと思いますか。

RIRIKO:わたし、曲を書き下ろしたら、作品に対して自然と寄り添ってしまうと思うんです。ほんとに漫画とか物語がすごく好きだし、影響されやすいというか。でも、寄り添いすぎると自分がなくなる気もするので、その中でも自分を出していきたいなって思います。

――出していきたい自分ってどんな姿をしてるんでしょうね。

RIRIKO:わたし自身は、自分の曲にどこか影があるメロディが多いのかなって思っていて。ヘラヘラ笑っちゃう人なんですが、曲の中では影を出していきたいです(笑)。

――(笑)それはなぜ?

RIRIKO:感情移入しやすいからですかね。作品や主人公の、起承転結の転の部分に感情移入しやすいのかもしれなくて。悔しい悲しい、っていう部分ですね。それを自然に、自分の中に取り込んじゃってるのかなって思います。ほんとは、わたし自身は起承転結の転って嫌いで、「起承結」でいいと思ってるんですよ。物語は、ハッピーなまま終わってほしいんですよね。でも転があると、自分の経験と重ねちゃうところがあって。だから、ある意味その転の部分を出していきたいのかもしれないです。で、RIRIKOっていう人生の影の部分が曲の中で出せるのかなっていう。根っこと外側は明るいし、ヘラヘラしていると思うんですけど、惹かれるのは転の部分なんだと思います。

――そこに、自分の中にあまりないものを感じるんでしょうね。だからこそ、それを表現してみたい、というか。人間としては、本来的に前向きでポジティブな人なんだけれども、一方では悔しい、悲しいっていう感情が、表現の原動力になりやすいというか。

RIRIKO:そうかもです。なんか今、自分のことを知れた感じがしました。

――音楽を作っていくことで、今後何を実現してみたいと思いますか。

RIRIKO:いろいろな場所に行って、自分の音楽を通していろいろな人と出会いたいです。だから海外も行きたいし、大きな舞台で歌いたい。そしてわたしを知ってくれた人たちから憧れてもらえる、目標にされる存在になりたいです。わたしを見て音楽をやってほしいっていうわけじゃなく、たとえば「RIRIKOの曲があるから仕事を頑張れる」とか、そういうことでも全然いいんですけど、いろんな人と出会って、いろんな人の道しるべになりたいなって思います。

――すでにものすごい大志を抱いている(笑)。

RIRIKO:少年なのかも(笑)。少年っぽさはあるかもしれないです。

――RIRIKOさんにとって、『その未来へ』という曲はどんな意味を持つ存在になっていくと思いますか。

RIRIKO:これからいろんな経験をして、大人になってみても、『よく書けたなこれ』って感じると思います(笑)。歌詞に関しても自分の新しい扉を開けることができたので、『こういうこともできるんだ』っていう自信につながった曲でもあるし、これから先の活動でひとつの自信になる曲です。将来、「この曲があったから今の自分がいる」「この曲があるからこの世界に入れたんだ」って感謝をする曲になると思います。

エンディング主題歌『ハシタイロ』rionosインタビュー

ヒロインの気持ちを表すと同時に、自分の中にある本当の気持ちも表現として出たから、力強くなったのかな

――rionosさんは作家としても活動しているんですよね。アーティストとして、自身の名義で楽曲をリリースしたい、という希望は持ってたんですか?

rionos:その気持ちは少しありましたが、「もうないんだろうな」とずっと思っていました。自分の音楽性に迷っていた時期がけっこう長かったので――迷っていると何が自分なのかがわからないから、自分から発信ができないじゃないですか。迷い始めてからは、ほんとに何をしたらいいかわからない、みたいな状態になっていたので、自分がデビューすることはないだろうなとなんとなく思っていたし、作家としてやっていくのかなと思っていたのですが、今回 『クジラの子らは砂上に歌う』というテーマをいただいたことで、作ることができたというか。何をしたらいいかわからないという感覚はなくて、作品のテーマを考えつつ、自分の好きな要素を入れてみた結果、出来上がった曲はすごく自分らしいなという実感があります。

 だから、「テーマをもらえるとできるんだな」という感じで、ひとつ壁を乗り越えたような気持ちがあります。カップリングの曲は自由に作っていいということだったので、『クジラ』の世界とも共通するように意識はしつつ、『ハシタイロ』以上に自分らしい曲ができたかなという感覚があって。「こういうことがやりたかったんだ」ということが、作ってみてわかった、というか。ずっと作れないでいた間に、自分はどういうことを考えていて、どういう曲を歌いたかったのかが、作ってみてようやくわかったというか。自然と自分の中から出てきたものだな、という感覚があります。

――冒頭からいきなりシリアスな話になってきた(笑)。

rionos:(笑)基本シリアスタイプで、闇属性なので――明るい話しましょうか!

――(笑)なんだろうな。こう言ったら申し訳ないですけど、『ハシタイロ』を聴いた瞬間から、「この人は闇属性だろうな」という想像はどうしてもしちゃうわけですよ。

rionos:そう、ですよね、きっと。でも、むしろそれをさらけ出してくことが大事なのかな、と思っていて。芸術って、そういう部分をさらけ出せる人がすごいと思うので。

――自分が『ハシタイロ』を聴かせてもらって感じたのは、実際ひとつは闇属性なんですけど、もうひとつは飢餓感、渇望感的なものなんですよね。闇的な場所から発せられてるのかもしれないけど、同時に、「この歌はすごく聴かれたがっている歌だ」って思ったんです。

rionos:ほんとですか。でも確かに、「アレンジがめっちゃ攻めてる」「弦が攻めすぎ」みたいなことは言われたりしますね。

――第三者から見て「攻めてる曲」に映るのはなんでだと思います?

rionos:やっぱり、ずっと曲を作れなかった間に、溜まりに溜まっていたエネルギーがあったわけですから、それがドンッと出た、ということですよね。あと、『クジラ』のお話的にも、ヒロインのリコスが無感情なところから感情を取り戻していったり、感情をひとつのテーマにしているお話でもあるから、人間らしくなっていくさまを描こうとしたことで、どうしてもエモーショナルで強めな感じになっちゃったのかな? 闇を通ってきたからこそエモい、というか(笑)。

――(笑)。

rionos:溜め込んでたものが、出しどころを得たというか。人間的な部分が露出したからだと思うんですよね。お話に沿っている部分ももちろんあるし、リコスの無感情な気持ちも、自分はすごくわかるんです。感情的になるとつらく感じることが多いから何も感じないようにする、みたいな部分は、わりと自分にもあるから。だけど、人間らしく生きていきたい、という気持ちと、ふたつの感情の間で戦っている自分の中の葛藤が、曲にも出ていると思うんですよね。ヒロインの気持ちを表すと同時に、自分の中にある本当の気持ちも表現として出たから、力強くなったのかなと思います。ヒロインが感情を取り戻していくさまと、自分の中の「無感情でいないとつらい」「でも人間らしく生きていきたい」という気持ちが両方乗ることで、単に作品をイメージしてできたことだけじゃなくて、自分の中にあるものが出ているから、それだけエネルギーのこもった曲になったんだと思います。

――最初に、自分の音楽性に迷っていた時期が長かった、という話があったじゃないですか。つまり、自分自身をアウトプットできたのは久しぶりなんじゃないかと思うんですけど、久々に自分の中にあるものをドワーッと出してみて、どんな感覚がありましたか。

rionos:出してみて、自分のことがちょっとわかったというか。今までは何に悩んでいて、どういうことがしたかったのか、曲を作ってみてわかった気がします。それも、曲を書いてるうちに自然にそうなったという感覚があって。でき上がってみて、曲の全体を眺めて、「自分はずっとこういうことを考えてたんだな」と、自分のことがちょっと理解できましたね。

 わたしは、芸術には人間の影の部分が大事だと思っていて――音楽そのものが好きというよりも、音楽に込められているものが何かということのほうが大事なんだと思っていて。芸大に通っていたんですけれど、「アートとは」みたいな授業があるんですよ。1が作る、2が発表するだとすると、一番大事なのは0の部分で、自分について問うとか、1になる前のエネルギーの部分こそが大事なんだ、という。それを聞いたときに、わたしは「まったくその通りだな」と思って。家が音楽一家だったから音楽が身近すぎる場所にあって、昔から音楽をやってきて、当たり前にあるものだから、音楽そのものには単純には感動しない体質というか。どういう感情があってその音楽になったのか、というほうに興味がいくんですね。

「この人はこういう人なんだな」とか「こういう思いがあって、ものすごいエネルギーがあって、こんな作品になったんだな」というような、元になるもののほうが大事というか。人間的な部分の方が大事だと感じるんですね。

――『クジラの子らは砂上に歌う』の設定って、わりとシャレにならない世界じゃないですか。まわりには一面砂の海が広がっていて、落ちたら絶対に浮上できないっていう。ある意味、デフォルトの状態で絶望が周囲を覆っているんだけど、その中で泥クジラの人々が力強く生きていこうとするところが面白さであり、魅力でもあり、読み手が惹かれる点でもある。まわりの状況が絶望的すぎるからこそ泥クジラのコミュニティに共感したり応援できる部分は、rionosさんの中にもあるんじゃないですか。

rionos:そうですね、デフォルトが厳しい世界という意味では、今の現実も厳しい世界で生きている、という気持ちがあるから、そんな絶望的な状況で、でもなんとか生きていく方法を探そうとする、強い心をもって生きていこうとする人たちに、自分もすごく惹かれるんだと思いますね。強い心を持ち続けて生きていくって、すごく難しいことだから。自分にも無感情の部分があるからこそ、人間らしく生きていくことがすごく大事なんだなって思うし、泥クジラの人たちは人間らしく生きていくことを諦めないから、そこは自分が今葛藤していることと共通する部分でもあって。そういうふうに、自分も強い心を持って生きていきたい、という見方もできるのかなって思います。

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取材・文=清水大輔