藤田貴大「戯曲って詩と小説のあいだくらいのものだと思うので、詩とやってる時のほうが、戯曲っぽいんですよね」

あの人と本の話 and more

2018/2/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌巻頭の人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、設立10周年を迎えた『マームとジプシー』を主宰する劇作家の藤田貴大さん。これまでもさまざまな作家やクリエイターたちとコラボレーションしてきたが、記念ツアーの第2弾『みえるわ』では川上未映子の詩を舞台化する。

藤田貴大さん
藤田貴大
ふじた・たかひろ●1985年北海道生まれ。2007年「マームとジプシー」を旗揚げ。11年『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞受賞。16年『cocoon』で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。著書にエッセイ『おんなのこはもりのなか』、詩集『Kと真夜中のほとりで』などがある。

「わからない」ということから始まっている。「わからない」ということから始めてもいいのだ。『マームとジプシー』の軌跡をあらためて振り返ると、そんな感じがしてくる。

 大学在学中に旗揚げした劇団が空中分解した後、恒常的な劇団というかたちではなく、劇作家・藤田貴大を母体=「マーム」として、作品ごとに「ジプシー」=出演者とスタッフを変えながら公演してきた。藤田さんは言う。

「確信のあるもの、もうこれはこういうものだからってわかってるものを作品にする理由が僕にはわからない。作品になってしまうものっていうのは、ある意味、まだ未解決なものだったり、まだわかってないものだったりするはずで、誰かと共作するにしても、戦争と対峙するにしても、わかりたいけど、わからないものがあって、けど、わからないってことで諦めているわけではなくて、わからなくても、どうにか手を伸ばしてみるってことだと思うんですよね」

 これまでも今日マチ子、穂村弘、名久井直子ら異なるジャンルのクリエイターたちとコラボレーションしてきた。川上未映子とは、2014年『まえのひ』でも共作している。独特のグルーヴ感あふれる詩の世界を体現するのは女優の青柳いづみ。同じシーンを繰り返す「リフレイン」の手法や、物語に寄りかからない構成など、もともと『マームとジプシー』の作品には、詩に近いところがある。

「詩を演劇にするってすごく難しくて、今回もその言葉を生み出したリズムとか、筆圧、汗みたいなことを、青柳とどんどん話しながら探っていく作業になる。その作業自体はすごく楽しいけど、ある意味で修行だなと。小説なら起承転結があったり、ストーリーを達者に語ってくれたりするけれど、詩には一切書かれていないんです。言葉で一切説明してくれないものを、その空白とか、口に出してみた時の隙間からどう読み取るのか。詩の言葉って、現実とはちょっと違うパラレルワールド、並行世界の言語みたいなことだと思うんですよ。戯曲も、ある意味で制限された言葉の世界で、頭から最後まで言葉で語り尽くそうとすると失敗する。戯曲って詩と小説のあいだくらいのものだと思うので、詩とやってる時のほうが、戯曲っぽいんですよね。僕が思う面白い戯曲って、構築的というか、どこにどういう言葉が配置されているかを考える感じがもう詩だなと」

 今回は『先端で、さすわさされるわそらええわ』『少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ』『戦争花嫁』『治療、家の名はコスモス』『冬の扉』『水瓶』『夜の目硝子』の7編の詩を6つの作品に仕立て、空間ごとにラインナップを変えながら上演。「いわゆる劇場らしい劇場は2カ所ぐらい」という言葉通り、味園ユニバース、横浜市開港記念会館など個性的な空間を選んだ。衣装もヒグチユウコ、suzukitakayukiらがそれぞれの詩を読み解いて手掛ける。また同時進行で全国10都市をめぐるツアー先から手紙が届く企画も行う。東京公演を観た人は観たあとに、沖縄公演を観る人は観る前に、一通また一通と届く手紙を受け取ることになるわけで、その時差もふくめたドキュメントを丸ごと〈演劇〉にしてしまおうという試み。 (※残念ながら申し込みは1月30日で締め切られています)。

「演劇の良さってその場でなくなることだと思うし、東京公演を観たからといって、たぶん作品の全部は観てないと観客も思っているだろうし、僕らも全部見せてるつもりはないし。それがどういうバランスで届くかはやってみないとわからないけれど、きっと本みたいな読み心地になっていくんだろうなと」

 小説も好きだけれど「たとえばシリアルキラーについて具体的に書かれたドキュメンタリーみたいな本もすごく好きなんですよ」と藤田さんは言う。

「だけど、たまにすごい重くて太くて、なのにつるつるし過ぎて、物として読んでいられない本とかってあって、字も小さくて読みづらいし、なんでこの物をつくろうとしたんだろうって逆に面白くなっちゃうんです。これをつくった人は1回でもこれを読んだことあるのかなって。ダメなホテルに泊まった時の感覚ですよ。ここの従業員は1回でもこの部屋に泊まったことあるのかなって思う時ってありません? なんで電源プラグがこんなにベッドから遠いんだ。ここにある電話のくるくるに充電器の先っぽをくくりつけて充電するみたいな技を身に着けないとダメなんだけど、そんなの1回でも泊まったらわかることじゃんって。それと同じで、面白くない演劇を観たほうが勉強になるし、いい映画ばっかり見てても、いい珈琲ばっかり飲んでても、結局まずさを知らないと、これやっちゃいけないんだってことがわからないじゃないですか」

 だからこそ「いいものに出会えるっていうことは、すごく幸福ですよね」と続ける。

『マームとジプシー』の舞台には、よく海が出てくるのだけれど、それはもしかしたら「わからない」の果てにある、「わかりたい」の景色なのかもしれない。海の向こうに何があるのかはわからないが、シニカルになって斜に構えるのではなく、誰かと交わることでその瞬間に生まれるものを起爆剤に、いいも悪いもない本当の言葉を探して挌闘している感じが魅力的だ。

「『マームとジプシー』の10年は、きっと失敗もいっぱいあったと思うけれど、でもその時その時はベストの状態でやれてるから、続けてこられた。成功作をルーティン化して回していくのなら、もう、『マームとジプシー』である必要はない。前回とは違うところにどうやって手を伸ばせるかってことを考え続けられているから、なんとなくやってこられたんだなと思っています」

(取材・文=瀧 晴巳 写真=下林彩子)

 

舞台 川上未映子×マームとジプシー『みえるわ』

舞台 川上未映子×マームとジプシー『みえるわ』

テキスト:川上未映子 演出:藤田貴大 出演:青柳いづみ 東京、塩釜、松本、沖縄など、全国11カ所にて公演。
●設立10周年を迎えた「マームとジプシー」の記念公演第2弾。川上未映子の2冊の詩集から選んだ複数の詩を女優・青柳いづみというひとつの身体を通して6つの演劇作品に立ち上げる。全国10都市を巡回、会場に合わせて詩のラインナップを変えながら上演。ヒグチユウコ、suzukitakayukiらクリエイターがそれぞれの観点で作品を読み解き、衣装を担当する。