「悪くない」→「最高!」。大成功の1stライブツアーで見えたものとは――沼倉愛美インタビュー

エンタメ

2018/2/21

 昨年8月に東京・名古屋・大阪の3都市で開催された、声優・沼倉愛美の1stライブツアー、『My LIVE』。そのファイナル、8月20日のZepp DiverCity Tokyo公演の模様を収めたライブBlu-ray、『「My LIVE」at Zepp DiverCity 2017.08.20』が、2月21日にリリースされる。実際に観た当日のライブも素晴らしかったし、終演後に見せていた沼倉本人の充実した表情がとても印象的だったのだが、改めて映像を確認してみて驚いた。半年前のライブなのに、歌唱、ダンスからMCにおける客席とのコミュニケーションまで、会場で受け取った爽やかな感動が、ほぼすべて鮮明によみがえってきたからだ。きっと、ツアー3公演のいずれかを目撃した方は同じ感覚を共有できると思うし、残念ながら会場に足を運べなかった方も、このライブ映像はぜひ観てほしい。沼倉愛美は、真摯に聴き手と向き合い、楽しんでもらうために自分は何をしたらいいか、ものすごく真剣に模索している表現者だ。このツアーをきっかけに、彼女が手にしたものとは何だったのか、話を聞いた。

人への愛情みたいなもの、持てる愛情の深さがより深くなった

――初のツアーから半年経ちますが、どんな記憶として残っていますか。

沼倉:ツアー全体を通して、人として成長できたかな、と思います。人として、役者として、表現者として、大事なものに気づいたところもありますし、改めて実感できたこともあって。そう考えると、すごく得るものが多かったな、と思いますね。ライブの前と後とでは、声優としての活動の中でも、作品への向き合い方が若干変わったのかなって思います。これまでは自分のやるべきことを一生懸命やっていたけど、今までは見えなかったものが見えるようになったことで、自分もより頑張ろうってエネルギーの変換ができるようになった、というか。人への愛情みたいなもの、持てる愛情の深さが、より深くなった気もします。もともとなかったわけではないですけど、それを「いいや、言っちゃえ!」くらいの気軽さで表現していいんだ、みたいなところまでいけた感じがします。

――なるほど。アニメでも、ライブ制作でも、他のセクションの人たちが担ってくれている役割は当然知ってはいたけど、体験として自分の中にちゃんと入ってきた、というか。

沼倉:もともと興味はあって。ライブで言ったら裏方と言われるところ、アニメだったら制作の部分で、どういう人たちがどういうことをしているのかを知りたかったし、一緒にものを作りたい、という気持ちもあって。このツアーではその気持ちが叶って、今までよりも近くで作れたのは大きかったです。ライブの制作に関して、「みんなで作った感覚」はすごく強いですね。

――同時に、ライブを経て、自分の歌が向く方向、届けるべき相手が思っていた以上に多い、ということも実感したんじゃないですか。

沼倉:歌を向ける場所というのは、絶対的にお客さんだと思っています。歌う理由が増えた、深くなった感じかな。ツアー初日の大阪を経験するまでは。「自分のソロライブってなんぞや」って思っていて、「こういうもの」っていう基準が何ひとつないまま始めなきゃいけない不確定さがしんどい部分もあったんですけど、ふたを開けてみたら、「そんなに背負わなくてもみんな楽しんでくれるんだな」って思える場面がたくさんありました。最初のMCで、必ず「近所と仲良く、女子にやさしく」って言ったりしましたけど、それも杞憂に終わってよかったなって思います。

――今回のツアーの場合、いいライブになったのはお客さんの力が大きいですよね。でももっと大きいのは、沼倉愛美という表現者の人柄だと思います。たとえば、MCに象徴的なシーンがあって。「高いところから失礼します」って、二回言ってるんですね。

沼倉:言いました、言いました。

――あまり二回言う人はいないでしょう(笑)。

沼倉:そうですか(笑)。

――お客さんのことを大事に思っていることが伝わるシーンでしたよ。

沼倉:そう映ってたら、嬉しいですね、そう、何が一番心配だったかというと、MCだったんですよ。何をしゃべったらいいかほんとにわからなくて、MCのことを考え始めると眠れなかったり。曲に関しては「ありのままで勝負したらどうなるか」が見たくて、逆に考えないようにしてたんですけど、MCはずっと考えてましたね。もしかしたら、「高いところから~」は場つなぎ的に出てきた言葉かも(笑)。

――(笑)それって、本質的な言葉がポロっと出てきた、ということでもあるのでは?

沼倉:確かに(笑)。

――すっごい細かいけど、客席で「お水おいしい?」「おいしい!」っていうくだりが起きたときに、それに対して「何よりだよ」って言ってたのも、とてもいいなあ、と。

沼倉:それは、わたしも覚えてない(笑)。

――(笑)要は、「お客さんが気持ちいいんだったらそれが何よりだよ」っていう話ですよね。で、それは用意されたMCではなく、偶発的に出た言葉である。それって人柄だと思うんですよ。

沼倉:声を上げてくれるのは、すごくありがたいことですよね。自分はしゃべるのが苦手だし、その苦手意識はたぶん一生抜けないので、全部を拾うことは難しくても、会話みたいな感じでできるのはわたしも楽しいし――そうか、「何よりだよ」を定番にしようかな(笑)。でも、名古屋は会場が小さめで、その分距離も近くて、お客さんとのやりとりも多かったんですよ。それを経て、皆さんが「ぬーさんのライブの楽しみ方」みたいなものを自分の中にそれぞれ作ってきてくれたのかなって思いますね。

――観ていて感じたのは、「楽しむために会場に行って、楽しもうとすれば自然と楽しくなれる」のが「ぬーさんのライブの楽しみ方」になってた印象はありますけども。

沼倉:ルールがありすぎると、あとから入っていけなくなっちゃうので、ペンライトを振ってもいいし、振らなくてもいいし、色も決めないし、声を出すも出さないも自由。ただし仲良くしてね、って。ルールを作らないっていうのは、わりと前から考えてました。

――人に迷惑をかけなければ、自由に楽しんでいいんだよっていう。

沼倉:そうですね、やっぱりそれが一番です。大きな意味合いを作らなくても、「疲れたけど今日楽しかった~」「いいお酒飲めそう」「気持ちよく寝られそう」「明日頑張れそう」っていう気分で帰ってもらえるだけで大成功だと思ってます。

――東京公演を現地で観て、映像でも改めて観て、ダンスパート、特に“Anti-Gravity”のカッコよさはとにかく圧巻だなあ、と思いました。

沼倉:あれは自分でもよくやったな、と思います。映像になると、鋭角な感じのよさがぎゅっと出てくるので、照明ともあいまって、すごく雰囲気がありますよね。ダンサー陣も、キレどころじゃなく……「キレてる」よりすごい言葉はないんだろうか、って思うくらい仕上げてきてくれたので。

――そして単純に、ドヤ顔がすごかった(笑)。

沼倉:いやあ、あそこはドヤってなんぼですよ(笑)。ダンサーさんがいるのは心強かったですし、大阪、名古屋を経て、ダンスに関しては「自分たち、イケてる」と思えてたので。

――あれだけサポートメンバーが楽しそうにしてるライブもなかなかないと思いますよ。“HEY!”のときなんて、伊賀さん(キーボード・バンマスの伊賀拓郎)がまったく楽器弾いてなかったし(笑)。

沼倉:たぶんあのときは、みんなわたしじゃなくて伊賀さん見てた(笑)。伊賀さんは空気を感じてフレーズをつけるのが天才的にすごくて、弾くたびに聴こえてくるものが違うんですよ。そうやって、演奏するのが仕事のバンドメンバーが、仕事の範疇を超えたところまでやってくれてるのがすごくありがたくて。前に出ていい、もっと楽しんでいいんだって思ってもらえてよかったなって思います。なんていうか、お客さんはもちろん、バンドや裏のスタッフも含めてみんなが粛々としてたらイヤだなって思ってたんですよね。関わってくれる人全員が「このライブに関われてよかった、楽しかった」って言わせられたらいいなっていう裏の目標があったので。そうしたら、名古屋の会場に両脇に大きなスピーカーがあったんですけど、“HEY!”のときにそのスピーカーの後ろでスタッフがはしゃいでる手が定点カメラの映像に映っていて(笑)。そのとき、「あっ、このツアーもういけたな」って思いました。すごく嬉しかったし、「裏方さんがそんな風にしてくれるライブを自分もできるんだ!」っていう自信にもなって。ひとつの目標が達成できたなって思いました。

今の自分、悪くないです

――ここで、一番の名シーンを挙げたいんですけども。本編ラストの“暁”を歌い終わって、アウトロではけるときに、マイクオフで「ありがとうございました」って言って頭を深々と下げていて。あのシーンは最高ですね。ここを観るだけでも、映像化する価値があるライブだなって思いました。

沼倉:あはは。あ~、なるほど。それはもう、毎回のようにやってるかも。そういえば、“暁”を歌う前のMCで、ぶっちゃけすぎてしまった気がしていて。「自分のライブってなんだろう?」っていう話ですけど、見世物としてふさわしくなかったかもって。

――でも、あのとき話してたのって、このライブが作れた喜びを表現した言葉だったじゃないですか。「終わりたくない」「またやりたい」「こんな気持ちになると思わなかった」っていう。

沼倉:最初は本当にそう思ってなかったので。自分も、「始まっちゃったら楽しくなるだろう、きっと楽しめるだろう」というのはわかっていたんです。だから純粋に「楽しかった~」で終わるだろうと思ってました。だけど、最初に話した愛情だったり、感謝もそうだし、その後の自分にすごく大きな影響をおよぼすことになる、というのは、まったく想定してなかったことだったので。いい化学変化が起きたらいいな、と期待はしてましたけど、まさかこんなふうに変化するなんて。

――ツアーの前にはなかった、「ぬーさんのライブの形」が見えたからでしょうか。

沼倉:そうですね、まずそういう気持ちになれたのはわたしにとっても大きな収穫であり、変化でした。プロデューサーやスタッフも「次どうする?」みたいな気持ちになってくれて。わたしは、人を巻き込めるタイプの人間じゃないんですけど、みんなが巻き込まれに来てくれて、そんな人がこんなにいることが、すごく嬉しいなあ、と思います。

――今後、「自分がうまくやりとげたい」っていうモチベーションも高まっていくんでしょうけど、それ以上に大事なものがある感じになっていくんじゃないですか。

沼倉:まあ、カッコはつけたいですよね(笑)。やるからにはカッコいいって言われたいし。最終的には、自分のためですよ。誰かが喜ぶ顔をみて、「やっててよかった」って自分が思いたいし、みんなに盛り上がってほしくて頑張って練習して、映像化したときに「カッコいいな、自分」って思いたいし(笑)。

――(笑)自分のためであり、誰かのためでもありますよね。実際、楽しんでもらえてるのを感じたからだと思うけど、ライブ観ていて「この人、こういう顔するんだ」って思いましたよ。

沼倉:あ~~、そうですか(笑)。

――“Climber’s High”の時期に話をした印象とは、まったく真逆の人がステージにいましたね。

沼倉:当時は、自分の中で何もまとまってなかったですからね。そのときに話したかもしれないですけど、まとまってない感じを出すことで、ハードルを下げてたというか。

――逃げ道を作っていた?

沼倉:そうです、そういう感じだったと思います。

――今はどうなんですか。

沼倉:いやあ、ハードルは下げたいですよ。下げられるものなら、下げて下げて(笑)、「飛べたー」ってなりたいです。やっぱり、本質は変わらないですよ。トークも苦手だし。今度、初めてファンクラブのライブをやるけど、直前になったらまた不安になるでしょうし、MCのことで寝れなくなるかもしれないし。でもそれも、自分も含めたみんなが楽しいためだから、「やるしかないな」みたいな。

――今の言葉、すごくいいいですね。「自分も含めたみんなが楽しいため」。

沼倉:自分のため、みんなのために、やるしかないですね。「ええい!」って。そうしたら楽しくなることはね、知ってるんです。でも、そこまでに「できることやってるか?」って思う瞬間があって。それはもう自分の性格的に、何年続けたとしても考えてしまうんだと思います。

――”Climber’s High!”の頃、「自分のことが好きじゃない」って話してましたよね。ツアーを経て、少しは好きになれましたか。

沼倉:難しいなあ。でも、好きになれそうなところまではきたかもしれないです。嫌いな部分はなくならないけど、「自分は幸せだなあ」って思う瞬間は、確実に増えた気がします。

――なるほど。ではラストです。1stアルバムの表題曲“My LIVE”の歌詞で言おうとしたことは、「悪くない」だっていう話を前にしてたじゃないですか。「My LIVE」のツアーで、ステージ上からの景色を見て、どんな言葉が頭に浮かびましたか。「悪くない」でしたか?

沼倉:ステージ上? 最高でした! あれだけお客さんが盛り上がってくれて、呼びかけにも100%で返してくれるのは、「悪くない」って斜に構える余裕もないくらい楽しかったです――そうですね、嫌いじゃないです、自分。今の自分、悪くないですね(笑)。

取材・文=清水大輔