サードプレイスは会社員にこそ必要? コクヨのコワーキングスペースで考えてみた

ビジネス

更新日:2018/2/23

異なる職業に就く人たちが、共有スペースでともに働く「コワーキング」。欧米で広がったこの新しい仕事スタイルは、2010年頃から日本でも広まり、現在では多くの「コワーキングスペース」が生まれています。
東京・渋谷の渋谷ヒカリエにあるCreative Lounge MOV(クリエイティブラウンジ モヴ)もそうしたスペースのひとつ。広いオープンスペースに“集う”利用者は、この空間に何を求めているのか。コワーキングはわたしたちの仕事をどう変えるのか。そんな疑問を胸に、MOVの運営を担当しているコクヨ株式会社BPOソリューション事業部の鬼塚愛さんにお話をうかがいました。
フリーランスの人も、会社に勤めている人も必読、です!

■コワーキングスペースって何をするところ? 何ができるところ?

――今日はコワーキングという新しい働き方を軸にして、これからの働き方のヒントを探ることができればと思います。まず、今わたしがお邪魔しているMOVとは一体どんな空間なのでしょうか?

お話をうかがった鬼塚愛さん

鬼塚愛さん(以下、鬼塚): 2012年4月、渋谷ヒカリエの開業時にオープンしたコクヨ株式会社(以下、コクヨ)が運営する会員制のコワーキングスペースです。
 渋谷駅周辺は大規模な再開発工事が進められていて、完了予定の2027年までに新たなオフィススペースも計画されています。これからの渋谷というまちに様々なスキルや経験を持った人が集まり、交流し、新しいアイデアや価値が発信できる場所があったらおもしろいのでは、という想いから、MOVをスタートさせました。
 施設はヒカリエの8階にあり、会員であるメンバーが自由に利用できるラウンジ、予約制の会議室、シェアオフィスとして利用できるレジデンス、ショーケースaiiima(アイーーーマ)からなっています。

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――最近、都市部ではこうしたスペースをよく見かけるようになりました。日本でコワーキングが流行している背景には、何があると思いますか?

鬼塚: 日本でコワーキングが話題になり始めたのは、2010年・11年頃からだと思います。その背景には、働き方の多様化があると考えています。フリーランスや小規模事業者など、比較的オフィスに縛られない柔軟な働き方を取り入れやすい人をはじめとして、多くのワーカーがコワーキングスペースを積極的に活用するようになりました。
 会社勤めの人にとっても、「従来の働き方と環境」に縛られた進め方では、社会の変化のスピードに対応した、効率的かつ高い生産性を達成できないと感じる局面が増えてきた。そこで社外に新たな気づきと創造性を求める場として、コワーキングが注目されてきたという事情もあります。

 また、2011年の東日本大震災により、普段通りオフィスに通えない事態に直面したことで、これまで以上にオフィスのあり方(人が集う意味)について考えさせられました。

――ちょうどMOVがオープンした頃から、レンタルオフィスや有料の自習室なども街中でよく見かけるようになりました。それらのスペースとの違いはどこにありますか?

鬼塚: レンタルオフィスとは似ているようで、目的が異なります。コワーキングスペースは「ともに(co)働く(working)」場というのが前提。各々がただ仕事をして帰るのでなく、他のメンバーと交流することでコミュニティが生まれ、そこから新たなビジネスやコラボレーションに結びつく。それがコワーキングの一つの大きな強みであり、特色なんです。そのためには運営側にも、メンバー間の交流を促すさまざまな仕掛けが必要になってきます。

■コワーキングスペースに仕掛けられた“新しい仕事を生む秘密”とは?

――なるほど、ただデスクとイスがある空間を貸し出すのとは違うわけですね。仕掛けというとたとえば?

鬼塚: 具体的なところでは、2か月に1度のペースで、MOV members’partyというメンバー限定のイベントを開催しています。そこに参加すると「あ、いつも見かけるあの人は、こんなスキルを持っているんだ」とお互いについて知る機会になる。お酒を飲みながら打ち解けて、気軽にコミュニケーションを取れる場としてこれまで30回以上実施しています。
 普段からスタッフはメンバーと積極的に交流するようにしていて、どんな仕事をしているか、どんな人を探しているかというアンテナを常に高く張っている。
 共有スペースの一画にはハンドドリップコーヒーを淹れるコーナーもあって、コーヒーを淹れるほんのつかの間の立ち話から交流のきっかけも生まれるような工夫をしています。

――さまざまなコミュニケーションのきっかけをを用意しているんですね。利用しているのはどんな人が多いですか?

鬼塚: 年齢でいうと20代から70代まで、職業もIT関係からライター、デザイナー、弁護士、語学の先生などさまざまで幅広いです。業種に特化した機能をもつコワーキングスペースも生まれているなかで、この幅広さはMOVのひとつの特色かなと思います。
 仕事のスタイルにしても、決まった時間に出勤してこられる方から、会社帰りに短時間立ち寄られる方までさまざま。近くの企業の方が、ブレストや打ち合わせに会議室を利用されることも多いですね。

――フリーランスの人はどこにいても仕事ができます。利用者はなぜコワーキングスペースに通ってくるのでしょう?

鬼塚: MOVを選んでいただいた理由としてよく聞くのは、「家だと集中できないから」「生活と仕事のメリハリをつけたいから」という声です。「MOVに来ると士気が上がる」という方もいますね。長く利用していただいている方ほど、MOVで生まれるコミュニティに愛着を持ってくださっているようです。
 メンバーさん同士が親しくなって、飲み仲間が増えたり、新しいお仕事が生まれたり、というのはスタッフとしても見ていて嬉しいですね。

――すると利用者の交流が仕事にもつながっている?

鬼塚: ええ、大小様々なコラボレーションが生まれています。連載を持つことになった方がMOVにいるイラストレーターに挿絵をお願いしたり、ウェブサイトをMOVで知り合ったデザイナーに依頼したり、弁護士の方に新規事業について相談したり、プロフェッショナル同士が結びつくことでいろんなお仕事が生まれているようです。