「あさイチ」スーパー主婦の井田典子流片付け術──「だ・わ・へ・し」でモノを見直す

暮らし

更新日:2021/8/30

 NHK総合テレビ「あさイチ」に出演し、人気の“スーパー主婦”、“片付けの達人”として知られる井田典子さん。独自の家事哲学をまとめた初の著書『「引き出し1つ」から始まる! 人生を救う 片づけ』(主婦と生活社)が、新たな主婦のバイブルと話題を呼んでいる。片付けが苦手な主婦はもちろん、その家族の生き方をも変えてきた井田さんが打ち出す整理収納の極意とは?

——“家事を敵に回さないで、「今日の私を支えてくれる味方」と考えてストレスを減らしたい”という部分に共感したのですが、井田さんはどのようにして“家事を味方に”したのですか?

井田典子氏(以下、井田):息子とうまくいかなかった時期があったのですが、最初のうちは「なぜそんな格好をしているの?」「どうして学校に行かないの?」と責めてばかりいました。でも、負の感情は人にうつるんですよね。一方的に責めても息子との距離は開くばかり。

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 そのうち、“息子を変えるのではなく、自分が対応を変えるしかない”と気づいたものの、私が優しい言葉づかいを取り戻すためには、私自身が満たされなければなりません。とはいえ、私にはのめりこめる趣味がありませんでしたから、何をすれば楽しめるのか、どうすれば幸せが見つけられるのかがわからなかったんです。

 仕方なく引き出しの片付けをしていると、当時小学生だった下の息子が「ママ、片付けていると楽しそうだね」というじゃないですか。その瞬間、自分が癒されていることに気づきました。片付けという目に見える作業をこなすことで、心を整理し、落ち着けることができるんだとわかってきてからは、息子との関係も変わってきました。

——片付けることで癒されるというのは、どのような感覚なんでしょうか。

井田:引き出しがひとつ片づくと、心がふっとラクになるんです。モノの整理がつくことで、心の整理もつくというか。人間関係は思い通りにはなりませんが、片付けは自分の好きなようにコントロールできますし、完璧を目指す必要もありません。

 モノの持ち方と時間の使い方、家計、そして心の問題はすべてが繋がっていると私は思うんです。モノが増えすぎて把握しきれなくなると、片付けに時間がかかるだけでなく、無駄にモノを買い込んでしまいます。モノを買い込めばその管理に追われるようになりますし、1日の終わりに家事が完了していなければ、ストレスも蓄積されていく。正体不明のモヤモヤした感情は、大切な家族を傷つける刃となることも。

 逆に持ちモノを精査し、取捨選択していくことで、片付けにかかる手間を減らすことができます。必要なものだけを買うようになれば出費も抑えられるはず。時間的にも家計的にも余裕が出てくれば、いろんなことがうまく回り始めるんです。実際、私が片付けのお手伝いをしたお宅のご家族の方々は、偏頭痛から解放されたり、新しい仕事に出会ったり、目に見えて美しくなられたりと、ご家族みんながいい方向に変化するケースが多いんですよ。

——“人生を救う”というだけあって、井田さんの片付け術には単なる整理収納テクニックにとどまらない哲学があるように感じますが、片付けが苦手な人にもできるのでしょうか。

井田:片付けが苦手な人の中には、片付けを楽しいことの対極に追いやっている方が多いと思うんです。「片付けなきゃ」、「いつかやらなきゃ」と自分に言い聞かせるうちに、片付けそのものが石のように重い負担になってしまう。それはとてももったいないことです。

 片付けに必要なのは、高度な収納技術ではなく取捨選択。必要なモノとそうでないモノを分ける判断をすることです。人生を掘り起こすことにもなるので、「片付けなきゃ」と思うのではなく、これから先の人生に必要なモノを見つける作業だと前向きに考えてはいかがでしょうか。

——モノを減らすところからスタートするわけですね。その際、コツがあれば教えてください。

井田:どの家にも空間、お金、時間…といった“暮らしのサイズ”がありますが、具体的なサイズを測らずに空間やお金を使っていると、身の丈に合わない服を着て過ごしているような不便さが生じてきます。この不便さを解消して快適に暮らすためには、家のサイズに合った家具、収納スペースに見合った衣類や本の量など、“暮らしのサイズ”に合わせてモノをチョイスすることが大切です。

 取捨選択にあたっては、まず必要なモノを収納する「枠」を決めましょう。洋服はタンスに入る分だけ、本は本棚に入る分だけ、といった具合に「枠」ありきで必要なモノを選び取ります。

 その際に役立つのが、「だ・わ・へ・し」のルールです。「だ・わ・へ・し」とは、「出す」「分ける」「減らす」「しまう」の頭文字を並べた造語。まずは中のものを全部取り出し、種類別に分けます。その中で必要なものだけを選んで適量に減らし、あとは枠を決めてしまうだけ。子どもから大人まで、誰もが整え上手になる片付けの基本ルールなので、ぜひ実践してみてください。

——捨てるという作業が大変そうですが、避けては通れない道なんですね。

井田:何かを処分するのはつらいことですが、文具や衣類、書類、本…どれひとつ取っても勝手に消えてはくれません。モノは私たちが死んだあとも残りますから、いつか誰かがやらなくてはならないんですよね。片付けてもまた散らかしてしまうというリバウンドを繰り返さないためにも、その苦しい作業を一度はやっておくべきだと思います。

 モノを減らす際は、不要なラックなども思い切って処分するといいと思います。入れ物があることによってモノが増えていくので、代謝をよくするためには入れ物も最小限にとどめるとよいでしょう。

 私は過去の価値を引きずって生きていくより、これから先の時間をより楽しく幸せに過ごせるよう身軽でいたいと思いますし、なにより、これまで不用品を処分したことで後悔したことは一度もありません。

——「枠」を決め、必要なモノをチョイスしたあとの整理収納法があれば、伝授をお願いします。

井田:単にキレイにすればいいというわけではなく、片付けたその日から生活がうまく回ることが第一です。そこで試していただきたいのが、収納の「キン・コン・カン」という考え方。モノはできるだけ使う場所の近(キン)くに置き、コンパクト(コン)にまとめます。さらに、簡(カン)単に出し入れできるようにまとめることで、しまい忘れや二度手間を防止できるんです。

 たとえば、わが家の書類はすべて食器棚の下段に収納しています。私の居場所はほぼキッチンまわりなので、ファイリングをしたりハンコを押す作業はすべて食卓で行うんですね。書類はポケットファイルに入れたり綴じてしまうと捨てにくくなるので、投げ込むだけの紙の個別フォルダで分類し、キャビネット方式で管理しています。ジャンル別に細かく分けておけば、太ってきたフォルダだけを取り出して整理すればいいので、手間はほとんどかかりません。郵送で届いたものは、外封筒を外して必要なものだけをフォルダへ。また、診察券やショップのカードもカードファイルには入れず、引き出しの小さな空き缶に立てて投げ込むだけです。すべてをワンアクションでしまえるようにまとめているので、置き場所に迷ったり、未整理の山ができることもありません。

——“モノを減らすということは、人生を変えるということ!”と一念発起して、生活をスリム化できれば、日々の片付けはラクになりますか?

井田:片付けはダイエットに似ています。思い切って不要なモノ(脂肪)を減らしてしまえば、あとは代謝のいい状態をキープするだけ。新しいものが入ってきたら古いものを出して日々代謝を促せば、最小限の労力で済むはず。「あとで」ではなく「今すぐ」やるのが一番早いのです。

 もちろん、捨てる作業を怠ってはいけません。私は片付けをヨガの呼吸にたとえることがあるのですが、息を吸ったら倍の時間をかけて吐き切るヨガの呼吸と同じで、4買ったら8捨てるくらいの気持ちで挑むようにしています。といっても、家の中も人間の体と同じで、一度代謝を促してあげれば、モノが滞らなくなるんですね。日々の片付けは格段にラクになります。食品の買いだめをしないわが家では、3日分だけを買ってきて、食べ切ったら買い物に行くようにしているため、冷蔵庫で食材を腐らせることがありません。

 もしも、また収納に余裕がなくなってきたなと感じたら、「だ・わ・へ・し」ルールで持ちモノを再精査。その後は代謝のよい状態を保つべく、ひと仕事ひと片付けを習慣に。これが日々の片付けをラクにするポイントです。

——本好きにとって本棚は、こだわりが詰まった人生の彩りにも通じる空間です。スッキリ片付けるコツをご教示ください。

井田:本棚の場合、並べ替えに終始してしまう可能性がありますよね。サイズ順にしたり、ジャンル分けをすることで、見た目だけを整えようとするんですが、それは「だ・わ・へ・し」の「し」の部分の作業であって、根本的な解決にはならないと思うんです。

 本の整理も、やはり「枠」を決めることから始めるべきでしょう。主人は大の本好きですが、彼のスペースは本棚の1段だけ。スペースに制限があるわけですから、本を読み終わるたびに選択をしなくてはなりません。まず考えるべきことは、読み返す機会があるのかということ。来月も読みたいと思ったら、棚の手前に置いておきます。旅行ガイドなど、また使う可能性がある場合は奥にしまいます。中には“ものすごくおもしろいミステリーだったから誰かにすすめたいけれど、自分はもう読まなくてもいい”という作品もありますよね。そういう本は手元に置いておく必要がないので、スパッと手放すようにしています。

 大きな本棚をお持ちの人は、大きな「枠」を設けてもいいと思いますし、次にいつ読むかわからない本をすべて処分する必要はありません。わが家の本棚にも永久保存版枠はありますし、“このシリーズが本棚に並んでいるだけで癒される”という考え方もあると思います。大切なのは、置いておく価値があるかどうか、じっくり精査すること。読み返す予定がなければ手放したほうがいいかもしれません。あとは、本をギューギューに詰め込まないこと。本棚のゆとりは気持ちのゆとりに通じるので、余白を残した収納を心がけてください。

「だ・わ・へ・し」ルールで取捨選択さえしてしまえば、並べ方は自由です。サイズ別に並べるもよし、ジャンル別に整理するもよし。手前と奥の2列に並べる場合は、背の低い本を手前に、背の高い本を奥に置くとよいでしょう。

——最後に、読者へメッセージを。

井田:どこから手をつければいいのかわからないという人は、スマートフォンなどでビフォー写真を撮るだけでも意識は変わってくると思います。玄関まわりやキッチンなどをありのまま撮影して、生活空間を客観的に見つめ直すことで、きっとやるべきことが見つかるはずです。

取材・文=村岡真理子 写真=伊東祐輔(PEACE MONKEY)

【プロフィール】
井田典子(いだのりこ) 1960年広島市生まれ。整理収納アドバイザー。月刊誌『婦人之友』読者がつくる「相模友の会」会員。NHK総合テレビ「あさイチ」に出演し、“スーパー主婦”、“片付けの達人”として話題に。雑誌や新聞などで執筆活動をするかたわら、「モノ・時間・お金・心の整理」をテーマに各地で講演会を行う。