45歳バツイチ女性が中学生男子に恋…。壮絶な恋の決着に多くの反響を呼んだ『たそがれたかこ』入江喜和インタビュー

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更新日:2018/6/1

45歳のバツイチ女性・たかこが、若いミュージシャンに恋をし、さらに歳の差30歳以上になる中学生男子に恋をした。その壮絶ともいえる恋の決着のつけ方が、多くの読者の反響を呼んだ『たそがれたかこ』。「思ってもみなかったことを、たかこが言うようになりました」と著者・入江さんが振り返る、たかこの「恋」。

入江喜和さんイラスト

入江喜和
いりえ・きわ●東京都生まれ。1989年デビュー。主な作品に『のんちゃんのり弁』『おかめ日和』など。現在『BE・LOVE』にて「ゆりあ先生の赤い糸」連載中。「いつも、いい年をした大人の読者を本気にさせる“ファンタジー”を描きたいと思っています」(入江さん)。

 

■恋をして、罰を背負い、すべて引き受け前に進む

たかこ45歳。ウマの合わない老いた母と二人暮らし。離婚し、新たな家庭を持った夫のもとに、中学生の娘が一人。「夜にやられ」て涙が出ることもある。そんな日々の中で出会った二つの「恋」が彼女を鮮やかに変えていく――。

たかこが最初に出会う恋の相手は若手バンド・ナスティインコのボーカル・ヤザイケ。ラジオから聞こえる声に、「恋」をする。

「その人のことを知りたい、考えていることも知りたい、ライブに行きたい=会いに行きたい……。それが恋と同じだと言ってしまうと、理解できないという方もいると思うのですが、『ファンになった』というだけでは弱いなと」

おしゃれすることもなく、家と職場の往復だけだったたかこが、髪を明るく染め、CDを買いに秋葉原へ出かけ、ライブにも参戦するようになる。娘の不登校などシビアな問題と真摯に向き合いながら、自分の「好き」も手放さない姿に胸を打たれる。

「たかこが『バンドやろうかな』って言った時は、そっちに行くんだ!と描いている私も驚いて。すごく嬉しかったですね。そのセリフで気づいたのですが、ヤザイケくんへの気持ちの中には『自分もああなりたかった』っていうものが含まれているんだなと。非常に青臭い気持ちですよね(笑)。たかこは、純粋なものを追い求めたくなってしまったのだと思うんです。同世代の相手だったらすぐ『つきあう? つきあわない?』という話になってしまうし、不倫になったりもするし、純粋なものを求めるのは難しくて。たかこはそれでヤザイケくんを好きになったんですが……“オーミくん”と出会ったことで、遠いところにいた人が現実に現れてしまった、みたいな感じになったのだと思う」

■恋は、愛情と違って自分勝手なものだと思う

オーミは、二つ目の「恋」の相手。同じアパートに住む、ヤザイケに似た風貌の中学生だ。

「最初は同じバンドが好きな“同類”として接していたのが、オーミくん本人のことを知るうちに、自分とは全然違う“男の子”として見るようになって。仲良くなりたいという気持ちが出てきた。それが性欲と結びつくような感情かというと、そうではないと思いますが。たかこの抱えているいろんなことがめぐりめぐって絡まって、一番いけないことですけど、あんな若い子にすがってしまったのかもしれません」

ライブDVDを一緒に観たり、ヤザイケゆかりの地を訪ねたりと、表面上は同類の関係を続けていく。けっしてうっとりすることなく、自分が「キモい」と自覚し、冷静さを失わないたかこ。恋心は〈穴掘ってうめてしまおう〉という言葉通り、封印するのだろう……読者がそう思い始めたころ、たかこは、共に出かけたライブ中に、オーミに告白する。

「言ったら終わりだとわかっていて、言った」と入江さんが言うように、たかこの告白に、オーミは凄まじい嫌悪と拒否と恐怖を示す。それでもたかこは告白したかった。〈キモいと思われても 自分を覚えててほしかったのだ〉

「“いいおばさん”だったら、そのうち忘れられてしまいますよね。そんな自分勝手な理由で、相手を傷つけてまですることか?と言われるかもしれませんが……“愛情”が相手のためのものなのに対して、“恋”は自分勝手なものなんじゃないかなと思うんです。行くところまで行かないと納得できないのが恋なのかなと。告白したことで、たかこは相手を傷つけただけではなく、自分もものすごく深手を負った。でもそれがたかこが受けるべき“罰”なのだと思うし、本人もそれをわかっている。10巻分かけて、たかこは変わった。誰に相談するでもなく、告白することを自分で選べたことは、よかったと思います」

告白から数カ月後、物語のラストで、再びナスティのライブに向かいながら、たかこは言う。

〈私は 今日も 恋の中にいる〉

「オーミくんのことは、深い傷となって、ずっと心の中にあるし、二人は一生会うことはない。でもバンドのことは変わらず好きだし、好きなものを好きでいたい――あのセリフは、たかこの決意表明なのだと思います」

年若い男性に恋をして、告白を決断し、罰を背負ったまま「恋」を続ける―すべてを自分の身に引き受けて前に進むその姿が、シビアな日常を生きる大人たちに勇気をくれる。

取材・文:門倉紫麻