ホストから一流美容師を目指す『クレスト☆シザーズ』が2.5次元化――リアルを追求する舞台の裏側とは!?

エンタメ

公開日:2018/5/18

『テニスの王子様』『弱虫ペダル』『ハイキュー!!』――いずれも舞台(ミュージカル)の原作コミックだ。どの舞台も人気が高く、「テニミュ」などは、15年もの間、新作が次々と上演されている。

 実はわたしは、「イケメンぞろいの2次元キャラクターをリアルな人間が演じることのどこがいいのか」と思っていたクチなのだが、はじめて鑑賞した「ペダステ」にノックアウトされてしまった。完全に2.5次元の世界にハマってしまったのだ。

 イケメンぞろいといえば、コミックスマートが展開しているマンガアプリ「GANMA!」で隔週水曜更新の『クレスト☆シザーズ』は、元ホストの主人公をはじめ、美容室で働くキャラクター(美容師)はみんなイケメン。実在するなら行ってみたい。

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 その夢の一部をかなえてくれそうな情報が飛び込んできた。『クレスト☆シザーズ』が舞台化されるというのだ。GANMA! 初の舞台化で、しかも、演じるのは赤澤遼太郎さん、松田岳さん、小南光司さんなどイケメン俳優たち。

 なぜはじめての舞台化作品として『クレスト☆シザーズ』が選ばれたのか? キャスティングでこだわったことは? テーマは? など、舞台の裏話をGANMA! で『クレスト☆シザーズ』の編集を担当しているコミックスマート株式会社 編集部 滝本愛子氏と製作委員会に名を連ねているエイベックス・エンタテインメント株式会社シアター制作グループで本件を担当する三浦沙奈弓氏に聞いた。

「なりたい自分になる」――作品の根底に流れるテーマ

――GANMA!で連載されている『クレスト☆シザーズ』の概要を教えてもらってもいいですか。

GANMA!『クレスト☆シザーズ』編集担当 コミックスマート株式会社 滝本愛子氏

滝本愛子氏(以下、滝本):『クレスト☆シザーズ』は、ホストをしていた新田勇希が、あることがきっかけで有名人も来店するような競争の激しい有名美容室で働くようになり、自分と向き合いながら「クレスター」と呼ばれるトップスタイリストを目指す、というストーリーです。この作品は、華やかな舞台を描きつつ、その裏側で、足の引っ張り合いや裏切りなど、人間が持つダークサイドも描かれているというのが、ほかの作品とはちょっと違う点かもしれませんね。

――信用できる友だち、と見せかけておいて騙したり。

滝本:華やかな舞台だからこそ、裏では人間の弱さや汚いものがあり、それを作品として表に出していきたい。弱さを見せることで、キャラクターたちに人間味が出て、リアルさが生まれるのではないかな、と思っています。そもそも、元ホストの新田勇希が“逃げている”というどん底状態から物語がスタートしていますしね。

 そんなリアルなキャラクターたちが夢を追いかけているのですが、当然一筋縄ではいきません。この作品では、夢を追うことやその難しさ、大切さが根本的なテーマとなっています。

――作品の中で、「君に似合うスタイルもある」とか「自分の足でちゃんと立つんだ」「なりたい自分に」というセリフがよく出てきます。

滝本:夢を追うには、自分がどうなりたいか、をしっかり見つけている必要がありますよね。それを登場人物たちが主人公やほかのキャラクターたちに問うことで、それぞれが本当になりたい自分や、自分の夢を見つけていくのですが、それらのセリフがそこに向かって進んでいく第一歩、きっかけとなっているのです。

美容室と舞台――似ている二つのステージ

――なぜGANMA! として初の舞台化に踏み切ったのでしょうか。

滝本:作品をもっと広めていく、ということがひとつの狙いでした。これまでアニメ化やグッズ制作はしてきましたが、2.5次元ミュージカルに向けた取り組みをGANMA! でやったことはなかったので、新しいチャレンジをしてみたいと思ったのです。

――イケメンたちが多く登場する作品だから、キャストもイケメンになりますよね。そういう俳優さんたちのファンへもアプローチできそうですね。

滝本:実を言うと作品内のキャラクターにイケメンが多いのは、『クレスト☆シザーズ』が、舞台化を前提として生み出された作品だからなのです。

三浦沙奈弓氏(以下、三浦):エイベックス・エンタテインメントが手がけているミュージカルで、ユーザーから人気の高い『私のホストちゃん』という作品があります。ホスト同士がナンバーワンの座を巡ってしのぎを削るというストーリーです。『クレスト☆シザーズ』のミュージカルは、GANMA! の編集担当の方に、「今回は昼のホストをイメージした作品でご一緒できませんか?」とお話をしたことがきっかけで計画が進んでいきました。

エイベックス・エンタテインメント株式会社 三浦沙奈弓氏

滝本:そこで、「ホストのイメージといえば、指名制、カリスマ性、ナンバーワン争い、イケメン……美容室じゃない?」という話になりました(笑)。こうして作品の舞台を美容室に決定し、原作を担当するhekiyu先生と話し合って、登場人物と大まかなストーリーを決め、『クレスト☆シザーズ』が生まれた、というわけです。

――でも、これだけのオーラや雰囲気を持つ俳優をそろえるのは、大変ではありませんでしたか。

三浦:そうですね。主人公の勇希のような、物語を引っ張れる力を持つ俳優さんをキャスティングするのに苦労しました。人懐こくって、愛されて、常に前向きのパワーを持っている人。純粋で人を疑うことを知らないキャラクター……狙って出せるオーラではないと思います。赤澤遼太郎さんのお芝居を見たとき、「あ、この人には人を惹きつけるパワーがあるな」と感じました。

 この作品は、主人公の周りの人たちが、こじれた性格の人ばかりなので(笑)、主人公はそれを引っ張り上げる力がないといけない。赤澤さんは、ビジュアルが良いだけではなく、明るい空気を作り出してくれる人なので、役にピッタリだ、と感じました。

滝本:そのほかのキャラクターたちについても「各俳優さんたちがそれぞれの役を演じたら、どんな化学反応が起きるかな?」と楽しみになるようなキャスティングになっています。もともとリアルな人間模様を描いた作品が、役者さんが演じることで、よりリアルさを増しています。原作のファンも、俳優さんのファンも、どちらも楽しんでいただけるものに仕上がったのではないかと思います。

三浦:そうですね。そして新田勇希の成長がほかの登場人物のパワーを引き出して、さらなる成長を促すのではないかな、とも感じています。

滝本:稽古を見学していて感じたのは、美容師と舞台俳優の世界って似ているな、ということです。どちらも「成功」という夢を追いかけて、それに向かって必死に努力しているのです。

三浦:確かに、重なるところがありますよね。

よりリアルさを出すため舞台の上で「髪の毛を切る」演出も?

――「なりたい自分になる」「リアル」といったキーワードが出てきましたが、主演の赤澤さんは、美容師という役を体に入れるため、美容室で美容師体験をされていますね。

三浦:そうですね、美容師の“演技”だけだと小手先のものに見えてしまいます。そこで、本当の美容師とはどういうものなのか、というのを体感し、美容師になりきっていただきたいと思い、体験をしてもらいました。

 稽古場にもマネキンヘッド(カット練習用のウィッグを載せる首から上のマネキン)を置いておき、俳優さんたちがいつでも自由に髪の毛に触れるようにしてあります。演技の中のふとした瞬間に、美容師さんらしい振る舞いが出てくるのではないかと期待しています。

――美容師さんになりきるのは大変そうですね。

三浦:そうですね。例えば、美容室でカットしてもらうとき、大抵は美容師さんに話しかけてもらいますよね。でも、美容師を体験した赤澤さんによれば「よくみんな話しながらできますね、ハサミに気持ちが集中してしまって、ついつい無口になっちゃう」と言っていました(笑)。

――やはり、実際に美容師体験をして初めて気が付くことも多そうですね。そしてそれを演技に活かしていくのですね。

三浦:舞台上で身につけるかつらや衣装という外側だけでなく、精神性など中身から作り上げていけたら、自然と役のほうが寄ってきてくれるのではないかと思っています。なので、出演者たち全員に、ハサミの持ち方などを練習してもらっています。

――舞台の見どころのひとつですね。

三浦:見どころはそこだけではありません。この舞台にのみ出てくる「一葉 蘭」(ひとつば らん)というオリジナルキャラクターも見どころのひとつです。この役は元宝塚月組のトップの娘役・蒼乃夕妃さんが演じてくださいます。一葉 蘭は、バリバリのキャリアウーマンで女社長。大企業のトップに君臨し、強い仮面を着けていますが、実はとても人間らしく温かみのある女性です。彼女の心の鎧を、勇希がどうやって取り除いていくのか、というところも楽しみにしていてください。

 それから、観に来てくださるお客さんとコミュニケーションが取れるような演出も考えているところです。

――なんだか、一粒で二度も三度もおいしい舞台になりそうで楽しみですね。

滝本:役者さんとの交流を楽しむもよし、自分自身の夢の実現に向けてキャラクターたちからエールをもらうもよし、原作ファンも俳優さんのファンもみなさんがそれぞれの楽しみ方を見つけられる舞台になると確信しています。

三浦:「なりたい自分になる」「扉を開ける」ということも原作が持つテーマです。これは、「なりたい自分になったあと、その先のステージへと一歩進む」ということです。実際、美容室に行って髪型が変わると、気分が軽くなったり、次の一歩を踏み出す勇気をもらえたりしますよね。

 2.5次元ミュージカルを舞台で観るって、ハードルが高いなぁと感じる人もいるかと思いますが、気軽に足を運んでいただいて、楽しいひとときを過ごしつつ、次に進む勇気も持って帰っていただければうれしいですね。

滝本:また、GANMA! では原作がいつでも全話無料(筆者注:最新話の先読みは有料)で読めますので、観劇の前に予習として読んだり、または観劇後に、「そういえばあの話の裏側ってどんなだっけか」と読み返したりしていただければ、さらに作品を楽しんでいただけるのではないかと思います。

――原作コミックの『クレスト☆シザーズ』では、勇希がお店に戻ってきたという区切りを迎えたばかりで、まだまだこれから話が展開していくところ。続きも気になりますしね。

三浦:舞台『クレスト☆シザーズ』では2時間という時間の中で、俳優さんたちがどのように役を演じ、ストーリーを盛り上げてくれるのか、皆さんの目で確かめていただけたらうれしいです。

――わたしも勇気をもらいに、観に行きたくなってしまいました。どうもありがとうございました。

取材・文=渡辺まりか