『ヲタ恋』を加速させる、「純度100%」で紡がれた音楽の源泉とは――sumikaインタビュー

アニメ

更新日:2020/5/14

定住しすぎずに移住して、でもその空間はsumikaだよねっていうところもsumikaらしさのひとつ(片岡)

 TVアニメ『ヲタクに恋は難しい』のオープニング映像は、インパクトが絶大だ。特に中盤、成海と宏嵩、樺倉と小柳が楽曲に合わせて踊る場面は、とにかく秀逸。何度観ても、テンションが上がる。『ヲタ恋』という作品が内包したハピネスを象徴する、名シーンである。その映像とともに観る者を浮き立たせてくれるのが、4人組バンド・sumikaによる主題歌“フィクション”だ。2013年の結成以来、数多くのライブを重ねて着実に支持を広げてきたsumikaの楽曲には、“フィクション”に限らず――陳腐な形容で恐縮だが――独特のキラキラ感が宿っている。『ヲタ恋』を音楽で盛り立てるsumikaの楽曲の「キラキラ感」とは何であるのか。それが、このインタビューのテーマだ。9月公開の劇場版アニメ『君の膵臓をたべたい』の主題歌&劇中歌を担当することも発表され、まずます躍進するsumikaの4人に話を聞いた。

──『Fiction e.p』、聴かせてもらいました。表題曲はじめ、とても充実した作品ですね。

advertisement

片岡健太: 4曲全部、なかなか似てない楽曲が出揃ったなと思ってます。今回、sumikaが結成5周年ということもあって、この1枚で「sumikaというバンドはこうである」ということをちゃんと伝え切ろう、という気持ちで制作に臨んだんですけども、全然似てないのをいいことに、「どれもがsumikaです」、全曲リード曲という気持ちで4曲を作らせていただきました。

荒井智之:5周年ということで、新たにみんなでスタートしていこう、という気持ちもこもってます。「この曲がsumikaだよね」ではなくて、「すべてをひっくるめて、それぞれにsumikaらしさがあるよね」っていうことを、このタイミングで改めて自分たちも肯定したかったし、聴いている人にもそうやってアプローチしたいという思いがあったので、このバランスで4曲を作れたとのは嬉しいです。

黒田隼之介:今回の4曲をひとつの作品にパッケージすることで、どういうバンドかわかりづらくなってしまうという面もあると思うんですけど、全部自分たちのやりたいことで、いろいろわがままも言いつつ作らせてもらって。本当に作りたいものが作れた感覚はあります。

──実際、聴き応えがものすごくて、アルバムを聴いた後くらいの充実感があるというか。

荒井:確かに(笑)。

小川貴之:バラエティ豊かだよね。

片岡:どれもsumikaだし、特定のところに定住しない感じはあります。sumikaというバンド名なんですけど、同じところに家を建てて、そこにずーっと住んでるというよりも、移動式住居、ゲル的なものというか(笑)。定住しすぎずに移住して、でもその空間はsumikaだよねっていうところもsumikaらしさのひとつなのかなあ、と思ったので。これくらいバランスがばらけてても、自信を持って発表できてます。

──sumikaというバンドは、楽曲の方向性が幅広いけれども、一方で、どういう音楽を鳴らしても必ずそこにはキラキラ感があるなあ、と思うんです。で、それは一体何であるのか、という。

片岡:まず5年間で一、二を争うほどの大事件だったのが、2015年に7ヵ月間活動休止していて。僕の声が出なくて活動できなくなった時期があって。そのときに、「このチームで何かをやることってなんだろうね」っていう話し合いをしたんですけど、メンバーが、「声が戻らなくてもいいから一緒に何かやろう」って言ってくれて。そこに真理というか、このチームでやることが見えた気がして。人間的に魅力を感じて、「この人たちと何かやりたい」という思いがまず根底にあって、その上で自分たちの一番の武器はなんだろうって考えたら全員音楽だったから、今も音楽をやっている、という順番でつながってるんですよね。休養後は、それぞれが放つ空気感がアイデンティティであり、それを認め合って、ちゃんと理解した上で発信できているから、変な迷いがなくなったんです。だからキラキラしているものって、みんなが迷いなく純度100%で制作に取り組んでいるから出ているものなのかなっていう気がします。

──……いやあ~。強烈にエモい話でしたね(笑)。

全員:ははは!

片岡:昼の12時にする話じゃない(笑)。

──聴いていてとにかく感じるのは、「この人たちは無理してないな」っていうことで。

片岡:無理してないですね。

小川:無理すると、たぶん顔に出ちゃうと思います。音にも出ると思う。

黒田:すぐバレちゃうね(笑)。

片岡:バンドのスローガンが「健康第一」なので。

荒井:それ、毎年言ってるから(笑)。

片岡:(笑)身体的な健康もそうだし、精神的なところも健康第一だから。結局、やらされてるわけじゃなくて、自主的にやっている、無機質ではなく有機的に、っていうことをずーっと言い続けていて。そこは大きいと思いますね。

──ちなみに、それほど人間的に魅力を感じるそれぞれの人物像も気になるところですけど。

黒田:片岡さんはすごくしっかりしてるし、真面目だし、ちゃんとしてるイメージがあるんですけど、たまにめっちゃかわいいところがあるんですよ(笑)。

片岡:なんだろう? 自分では自覚がないんですよね。昨日、お風呂のお湯を溜めた気になってたけど、栓が抜けてて、すごく悔しかったりはしたんですけど(笑)。

荒井:(笑)すごく考える人なんですよね。機材車を自分たちで運転して各地を回っていたときに、ふと健太に「運転してるときにどういうこと考えてるの?」って聞いたら、「目の前を走っている道路をどんな人が作って、この道路ができるまでにどんなストーリーがあったのか考えてると、全然楽しく走れるんだよね」って言ってて。「マジか! そんなこと一度も考えたことなかった!」と思って(笑)。

片岡:(笑)それを考えてたら、気づいたら広島だったことありますからね。

小川:一切考えたことないよ!(笑)。

黒田:おがりん(小川)の面白さを伝えるのは――もう、一生かかるんじゃないかっていうくらい、底が深いんですよ。見えないくらい深くて。

小川:「天井が高い」のほうがいいな(笑)。

片岡:天井知らずだね。小川くんは、メンバーに加入したのは最後なんですけど。小川くんが入ったことによって、sumikaのバランスがすごくよくなったと思ってます。音もそうですけど、人間性的にも、バンドが進んでいくときに迷わないような、羅針盤的な役割ですね。すごく大事です。

黒田:おがりんが入ってくれてsumikaになった感は、めっちゃある。

片岡:隼ちゃん(黒田)は、バンド内でたぶん音楽に対して一番ピュアかな。音楽に正しく向き合って、正しく傷ついている。ゴミ箱フォルダを空にしない人なんですよね。アイディアをゴミ箱に入れても、いつでも取り出せる状態で復元できるというか。隼ちゃんの発言からハッとすることがあるし、高校生のときの初期衝動みたいなものを持っていて、隼ちゃんのプレイを見て「俺もそういうこと思いながらギター弾いてたなあ」みたいな感じで、引き戻してくれる存在ですね。

荒井:人に対してもすごいピュアですね。自分で言うのも変な話ですけど、あたたかい感じ、ほんわかした空気はsumikaの大きな魅力のひとつだな、と思っていて、その空気感の源泉は間違いなく隼ちゃんだろうな、と。いいときも悪いときも変わらずにいられる隼ちゃんの優しさや強さは、尊敬してます。

──今、源泉って言われたところ、「黒田:(静かに微笑む)」って文字にしたい(笑)。

全員:ははは!

片岡荒井:源泉!

黒田:荒井さんは、圧倒的な安心感かなあ。バンド全体のことをいつもちゃんと見てくれていて。

小川:守るべきものをちゃんと守れる人だと思うんですよね。僕らは、長く続けられたらいいよね、おじいさんになっても一緒に音楽だったり好きなことをやれたらいいねっていう目標があるんですけど、その上で大切なものって、大切なものをしっかり守る力だと思うんですよ。それは、荒井さんがいないと実現できないことなのかなって、よく思います。

片岡:sumikaの家の形のロゴは一番初期から使っているんですけど、たとえば隼之介が生み出してくれてるものは、ロゴの中で言うと煙突の煙のようなもので、人の気配、あたたかさをこの煙が出してくれてるなあ、と思っていて。僕なんかは、さっき移動式住居という話もしましたけど、移動するスピードがものすごく速くなっちゃうときがあっ、とりあえず全速力で走るんですけど、そのときに屋根をよく忘れるんですよ(笑)。「屋根、ないぞ!」みたいなことがあるんですけど。荒井くんはちゃんと忘れず屋根を持ってきてくれる。付き合いで言うと、僕と荒井くんが一番長いんですけど、僕が突っ走ってるときも、「こいつ突っ走るだろうな」みたいなことも客観的に見ていてくれてるし、「彼が屋根を持ってきてくれるから大丈夫だろう」という信頼感のもとで、全力でゲル作りに励めてます(笑)。

──(笑)なるほど、よくわかりました。

荒井:お疲れ様でしたっ!

小川:第1章、完(笑)!

TVアニメ『ヲタクに恋は難しい』 フジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24時55分から放送中 (C)ふじた・一迅社/「ヲタ恋」製作委員会 http://wotakoi-anime.com/

いつもの自分たちらしく音楽を作って、作品と一緒になれるのは、すごく嬉しいこと(黒田)

──『Fiction e.p』の表題曲“フィクション”は、TVアニメ『ヲタクに恋は難しい』のオープニング曲ですけど、まずはアニメのタイアップ曲を書くことについてどう思ったか、話を聞きたいです。

片岡:さっき小川くんが言ってましたけど、sumikaって顔に出ちゃうんですよ、できることとできないこと、本当か嘘かが出ちゃうので。ご依頼をいただいたら、今回で言えば原作をちゃんと読んでから、sumikaとして何かできることがあるのかを一度咀嚼するんですね。それで、自分たちが生み出すものが、『ヲタクに恋は難しい』という作品に対して力になれるかもしれないという希望をつかめたので、原作へのリスペクトを持って制作に臨みました。「僕らにぜひやらせてほしい」という気持ちになれたし、自信を持ってやれました。

小川:自分も、無理なく自然体なまま、作品に寄り添えるかな、と思いました。

片岡:タイトルの「ヲタク」というワードから察すると、専門的な用語がすごくいっぱい出てくるのかな、というイメージも抱いたんですけど、原作を読んでみたら、半径2メートル以内にある幸せ、日常の中にある些細な幸せのいっさいがっさいに対して感動していくキャラクターがいて。手に取れる場所にある幸せを描いている作品で、sumikaも幸せに対して同じような距離感を持っているバンドなので。そこは共通しているところかな、と思います。

──それこそ、『ヲタ恋』の登場人物たちも、無理してないというか、自分のあるがままに生きている感じがしますよね。そこはsumikaのあり方ともかなりシンクロするんだろうなあ、と思います。

荒井:バンドとしても、好きなものは好き、嫌なものにはちゃんと嫌、という判断はしっかりしていこうという話は、昔からしていて。このマンガの登場人物たちも、自分の好きなものに対する一途さ、ピュアさがすごく魅力的ですよね。恥じることなく好きと言えて。同じように自分が好きなものを大事にしている人と一緒に笑い合ったり、いろいろ行動を起こしたりしていくさまは、まさしくバンドにも通じるところがあるのかなあ、と思います。無関係な話ではなく、とても身近なことがテーマになっている作品だな、と感じたので、すごく共感できましたね。

小川:キャラクター4人の喜怒哀楽を、あたかも自分がそばで見ているかのような感じで読んでいて。sumikaも、自分たちの場所にいろんな人をオープンな状態で招き入れて、「自分たちはこれが好きなんだよ」っていうことを発信しているので、ほんとに近い存在なのかな、と思います。

片岡:原作の中に、お互いのことを知ろうとして、努力して、結ばれてる関係性があるんですよね。みんなが全力ダッシュしていった先で、横を見たらこのメンバーがいた、みたいなところもあって、それが「ヲタク」というワードにもつながるのかもしれないですけど、何かに対して一途に突っ走ってるというか。「この人、全速力で走ってるよな」ってお互い認め合えたら、きっとみんな仲間になれるんですよ。

──さあ、アニメ好きだという黒田さんのターンですよ。

黒田:ははは。これはもう、自分の私生活とキャラクターが送ってる日常が、だいぶ近いものがあるので(笑)。好きなものを知ってる人同士だと話が止まらなくなって一気に距離が近くなる感じは、まさに身近に感じるので、それだけでも読んでいて面白いな、と思いました。そこに、自分たちが音楽家として寄り添える機会をいただけるのはすごく幸せなことだし、いつもの自分たちらしく音楽を作って、作品と一緒になれるのは、すごく嬉しいことだな、と思います。

片岡:それこそ、小川くんのおがりんっていうあだ名をつけたのは僕らなんですけど、それは『STEINS;GATE』のオカリン(主人公の岡部倫太郎)からきていて。

──へえ~。ということは、アニメもsumikaが好きなものの中に普通に存在しているんですね。

片岡:そうですね。だから、まったく無理はしてないというか。

小川:うん、ほんとに自然体。

片岡:「『ヲタ恋』チームからバトンを受け取ったから、俺たちが次までつながなきゃ!」という気持ちよりも、「『ヲタ恋』チームが走っているのを見ながら隣で一緒に走ろう」みたいな感じで、原作だったりアニメ制作チームと一緒に突っ走りたい気持ちはありましたね。

──絵に乗ってる自分たちの曲の様子を見てどう思ったか──と聞こうとしたら、すでに黒田さんが満面の笑みになってる(笑)。

黒田:ははは。

荒井:満面の笑み!(笑)。

黒田:それこそサビの部分でキャラクターが踊ってる絵をつけてもらってるんですけど、自分たちの曲で踊ってくれてるのは、すごく嬉しかったですね。単純に「うおー!」ってなりました。

片岡:『ヲタ恋』の登場人物の気持ちって、誰しもがわかる感情なんじゃないかなと思うんですね。「毎日ラーメン食べたい!」とか(笑)、なんでもいいと思うんですけど、人類みなにちゃんと伝わる作品だと思います。自分の中でも、「ヲタク」という言葉の概念が変わりましたし。すごくポジティブに何かを好きになれることってほんとに素晴らしいなあ、と思うし。自分の価値観を変えてくれた作品でもあるので、「新しい発見をくれてありがとう」という気持ちが強いですね。

──今、sumikaの音楽を求める人がどんどん増えてきてますけど、sumikaにとって彼らはどういう存在であると認識しているんでしょうか。

片岡:まず、音楽は自分のために作ってるんですよね。自分が救われたいから曲を書いてるし、自分のためにやっていることで、人のためじゃないんですよ。そう思うようになったのは、人の為と書いて「偽」になるんだな、と気づいたときなんですけど。

──なるほど。

片岡:それは嘘になるな、と。人の顔色を窺いながらやっていくと、「sumikaのよさは純度100%だ」みたいな部分も、どんどん嘘になっていくから。でも、自分たちのために作ってる音楽が、誰かの生活の中で「こういう機会に聴いて、こういう気持ちになりました」とか「ライブに来て人生が変わりました」と言ってもらえたりする。もし、人のためにやってたら、そのために作ったんだから、そういう気持ちになるのもある意味当たり前だと思うんです。でも、もともとそうなるって思っていないから、僕らの気持ちは「ありがとう」になるんですよね。素直に「ありがとう」と思う気持ちが生まれていて。その順番で音楽を作れているから、感謝という感情も、純度100%の気持ちで返せるなあ、と思ってます。

──『Fiction e.p』は、sumikaの音楽がより広く聴かれるきっかけにもなるでしょうし、何も無理することなくsumikaらしさをちゃんと発揮できたという点においても、すごく大事な1枚だと思うんですけど、バンドにとってどんな存在になっていくと思いますか。

黒田:作ってるときはうわーって作ってたんですけど、終わってみると「次はあれやりたい、これもやりたい」っていうアイディアがまた出てきて。それが出てくるのもいいものを作れたっていうことだなって思うので。5周年のはじめの一歩というか、ここから次に行く一歩だな、と思います。

小川:過去を肯定しつつ、今のsumikaを見せたいというイメージで『Fiction e.p』を作っていったんですけど、未来の1枚を作るためにも絶対必要な1枚を作ることができたかな、と思ってます。今のsumikaを100%表現できた1枚だと思います。

荒井:もちろん、今のsumikaの魅力を詰め込めたと思っているし、納得できる内容ではありますけれども、まだ詰め切れてないものもあるのかな、とも思っていて。ひとつここで楔を打ち込んで、ここから先、どう進んでいくかは、自分たちもほんとに楽しみですね。今後、過去を振り返ったときに、この作品からまた正しく新しいsumikaを構築できたね、と言えるようにしたいし、この先もしっかりと歩んでいかないとな、という兜の緒を引き締めるような思いがある1枚です。

片岡:作ってるときは、毎回「これが最後の作品になってもいい」って思えるくらい、そのとき、今のことを考えてやってるので、完成したときは「伝えたいこと、もう何ひとつないな」って感じだったんですけど、やっぱりアウトした分スペースって空くんだな、と思っていて。いい意味で、今は全部空っぽになってるので、そうなると逆に日々インプットが生まれてくる、というか、何を見ても楽しいモードになっているし、そうやって正しく循環していくんだな、と思うし5年経っても変わらず、バンド始めたときと同じような気持ちで「バンドやりたいな」「曲作りたいな」という気持ちに戻れてるというのは、『Fiction e.p』で全部出し切れたからこそだと思います。空いたスペースに何を埋めてやろうか、という気持ちになれてるから、清々しいし、次が楽しみですね。

取材・文=清水大輔