椎名桔平が語る、カネや学歴ではない主人公の魅力。 連続ドラマW『不発弾~ブラックマネーを操る男~』【インタビュー】

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公開日:2018/6/6

 日本経済界のタブーに切り込み話題を呼んだ相場英雄の小説『不発弾』が、WOWOWで連続ドラマ化される。主人公は、バブル終焉を生き延び金融業界で暗躍する謎の男・古賀遼。彼の歩んできた修羅の道と、それを取り巻く人々を描く社会派ヒューマンサスペンス。古賀を演じる椎名桔平さんが、その新たなダークヒーロー像を語る。

椎名桔平さん

椎名桔平
しいな・きっぺい●1964年、三重県出身。93年に映画『ヌードの夜』で注目を集め、映画、ドラマ、舞台などで幅広く活躍。7月27日より出演映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』が公開。また、7月20日より藤原竜也とのW主演舞台『レインマン』が上演される。
ヘアメイク:五十嵐良恵(MARVEE) スタイリング:中川原 寛(CaNN)

 

知識欲と好奇心を刺激するド直球のエンタメシリーズ

『不発弾 ~ブラックマネーを操る男~』はある種の大河ドラマではないかと思う。冒頭は、大手電機メーカー・三田電機産業の記者会見。1500億円もの不適切会計が露呈した一大金融スキャンダル。その背後には、謎の金融コンサルタント・古賀遼がいた。彼は一体何者なのか? どのような道を歩み、日本経済の裏側で暗躍するに至ったのか? 彼の半生とバブル直前から現在までの激動の日本経済がより糸のように絡み合い、40年もの長い歳月にわたるドラマとして濃密に描き出される。

 そしてその中で、古賀のダークヒーローとしての姿がつねに燦然と輝いている。古賀を演じる椎名桔平さんは彼の魅力をこう語る。

「日本の大企業の金融取引を裏で操る。古賀の仕事はかなりグレーゾーンですが、彼の人間像は善悪で簡単にくくれるものではないと思います。彼の一番の魅力は、どんなときもピュアな部分を持ち続けているところではないでしょうか。金融業界でのし上がっていく過程は、サクセスストーリーにも見えます。でもそれは、彼が自分のために望んだものではない。いつも誰かを思ってのことです。かつて炭鉱町に残してきた妹のため。そして原田知世さん演じる村田佐知子と出会ってからは、彼女のNPO活動を支えています」

 さらに、何より興味深いのは、と椎名さんは続ける。

「金融業界の最も先鋭化されたところに身を置きながら、古賀自身はまったくお金に興味がないんです。社会的成功の一つの尺度はお金だと思いますが、彼はそこにまるで頓着しない。そもそも根本的に欲求がないんです。自分を飾らないし、自分の強さをお金で示す必要を感じていない。そうやって生きていける古賀という男のコアにあるたくましさと純粋さを、僕は非常に美しいと思います」
 

古賀の原動力は人間関係

 炭鉱町に残してきた妹、と椎名さんは触れたが、私たち視聴者は古賀の純粋さの根源を、ドラマが進むなかで次第に明らかになる彼の過去に見出すことができる。生まれは九州の大牟田。炭鉱夫だった父は炭鉱の爆発事故で亡くなり、母は身をもち崩す。古賀と妹の睦美は貧しさに苛まれ、母のために周囲からも蔑まれる。妹を幸せにしたい一心で、古賀はバブル直前の中堅証券会社・国民証券に入社したのだ。しかし古賀と睦美にはさらなる悲劇が待ち受けており、これが彼を一層金融の世界へとのめり込ませるきっかけとなる。

「初めて脚本を読んだときに、古賀の悲しい生い立ちに本当にドキッとさせられました。若い頃を三浦貴大さん、僕は29歳からの彼を演じています。ストーリーは現在と過去を行き来しますが、撮影もそうだったんです。朝は青年だったのに、次にはメイクで白髪を入れて。それが一日に、2、3度あったりするんですね。なかなか普通のアプローチでは困難な状況でした。撮影前にまずスタッフさんに年表を作ってもらって、全シーンに年齢を書き込みました。それで自分の今の歳を明確に意識して、佇まいや言葉遣い、相手に対する振る舞い方などをスライドさせる。それが違和感なく自然にできるようになって、初めて役柄に感情を乗せられます。この段階をいかに早くクリアするかが、古賀を演じるうえでの最初のポイントだったと思います」

 また、古賀と彼を取り巻く人々との絆、あるいは因縁も大きな見どころだ。古賀を執拗に追う捜査二課の管理官・小堀弓子、内縁の妻・佐知子、彼を一人前の証券マンに育てた中野哲臣、三田電機産業相談役の東田章三……。彼らとの関係が、ドラマを先鋭的なヒューマンサスペンスに仕上げている。

「古賀の行動の原動力は、人間関係にあるんじゃないでしょうか。古賀は貧しい家庭に育って学歴もないけれど、不思議な人間力があります。だから彼の周りにさまざまな人が集まるんだと思います。彼の過去と特に深い関わりのある中野役の奥田瑛二さん、東田役の宅麻伸さんとは初めて共演させていただきました。若い頃から映画やテレビで拝見していた先輩のお二人です。古賀を支える先輩役を演じてくださるなんて、嬉しい以外の何ものでもありません。中野と東田を慕う古賀の気持ちに、僕も自然に寄り添えました」

 最後に経済ドラマとしての重要性も強調したい。相場英雄の原作小説『不発弾』は日本経済の裏現代史ともいえるような形で、粉飾決済や損失補填、デリバティブなど実際の金融商品や事件をモチーフに、バブルとその崩壊を克明に描いている。ドラマでは、その激動の時代を丁寧に、かつわかりやすく映像化。経済の知識ゼロでもドキドキを体感できる。そしてそこに、古賀が仕掛けた「不発弾」の謎が密やかに埋め込まれている。

「人間と経済のあり方を非常に高度に結びつけたドラマです。現在、日本でも世界でも社会・経済が大きく動いている中で、この作品を放送することはとても意義深いと思っています。ドラマそのものとしても、極めてチャレンジングです。連続ドラマWに出演させていただくのは『メガバンク最終決戦』以来ですが、ここだからできる社会派ドラマというものがあると思います。今は海外ドラマをご覧になっている方も多いと思いますが、クオリティーにおいて決して負けない自信があります。スタッフも僕たち役者も、ドラマを作りたいから作っている。その熱量がこもった作品になっていると強く感じています」

取材・文:松井美緒 写真:山口宏之

 

すべてのキャラクターに生きる理由と正しさがある
脚本家 田中眞一 インタビュー

 原作小説のリアルな状況設定による緊迫感と人物描写の巧みさに引き込まれ、一気に読んでしまいました。まず古賀遼の苛烈な生き様に釘付けになり、日本経済のタブーを恐れずに描いている大胆さに、面白いというより恐ろしいという印象を抱きました。

 脚本では、約40年にも及ぶ時間軸を持つドラマなので、キャラクターの心情を掘り下げ、人物同士がリンクしていくように心がけています。古賀がなぜデリバティブの仲介に深く関与していくのか? 警視庁のキャリアである小堀管理官がなぜ古賀の捜査に執着するのか? それぞれの行動基軸には、人間関係に深く起因する因縁があります。

 一方で、経済小説の醍醐味を損なうことなく脚本にするのは難しくもありましたが、刺激的で面白い作業でした。バブル期から現在までの日本経済の流れを把握し、きちんとドラマに落とし込めるか不安でしたので、準備は多岐にわたりました。経済用語や株式取引の概要を理解することはもちろん、当時の新聞記事や記者会見、大企業の組織表などを参考にしました。

 経済ドラマは通常のドラマより、社会と密接なつながりを持ちます。現実と地続きである世界観の中で、主人公の古賀が証券会社に勤務していることからも、経済状況に大きく影響を受けてしまうサラリーマンの悲哀をわかりやすく描けたのではないかと思います。古賀と同時代を生きてこられた方々にとって、特にこのドラマは響くところがあるのではないでしょうか。

 そして、古賀に血を通わせてくださったのは、椎名桔平さんのお力です。早い段階でご出演が決まったので、脚本は1話から椎名さんを想定して書かせていただきました。いつかご一緒したい俳優さんだったのでとても嬉しかったです。台詞一つ一つの意味を丁寧に吟味し、確実に古賀という人間を生きてくださいました。

 このドラマは、人間と経済の物語です。日本のタブーに切り込むような挑戦的テーマを扱うことで脚本家としての矜持を思い起こし、忖度なく、純粋に面白いエンターテインメントを追求することができたと思います。古賀をはじめ、すべてのキャラクターに生きる理由があり、正しさがあります。ぜひ、彼らの姿を楽しんでご覧いただけたらと思います。

たなか・しんいち●1977年、滋賀県出身。2010年、ドラマ『チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋』で脚本家デビュー。おもな作品に映画『みんな! エスパーだよ!』、『連続ドラマW 社長室の冬-巨大新聞社を獲る男-』など。

『連続ドラマW 不発弾』
『連続ドラマW 不発弾』

『連続ドラマW 不発弾 ~ブラックマネーを操る男~』(全6話)
6月10日(日)より 毎週日曜22:00~ WOWOWにて放送 第1話無料放送
1500億円もの不適切会計が露呈した大手企業・三田電機産業。その裏には、金融コンサルタントの古賀遼がいた。捜査二課の管理官・小堀弓子はこの不適切会計を粉飾と疑い、古賀を追い始める。貧しい炭鉱町で育った古賀は、ある出来事を機に復讐を誓い、それは日本経済の深い地層に「不発弾」として仕掛けられていた。

原作小説

『不発弾』書影

『不発弾』
相場英雄 新潮文庫 750円(税別)
大手企業・三田電機が発表した巨額の不適切会計。捜査二課の小堀秀明は、その背後に金融コンサルタント・古賀遼がいることをつかむ。炭鉱町に育った古賀は、場立ち要員として中堅証券会社に入社し、バブルを経て凄腕の「飛ばし屋」となっていた。日本経済界最大のタブーに切り込む問題作。