新日本プロレスの内藤哲也選手を主人公としたバトル漫画『HIGHER AND HIGHER! 新日学園物語』が連載スタート! 『プ女子百景』の広く。が描く、現実とフィクションのあわい。(インタビュー前編)

アニメ・マンガ

2018/6/16

 プロレス人気が再燃するなか、プロレスを題材にしたまったく新しい漫画がここに誕生した。現実のプロレスラーをモデルに実際の出来事や人間関係も踏まえながら、「学園漫画」として彼らの生き様を描くというスタイル。著者は、制服姿の女子高生がプロレス技をかけあうイラスト集『プ女子百景』で人気を博した広く。さん。なぜ、彼女はこうした表現方法をとり、そこにはどんな思いがあるのか。連載スタートにあたってインタビューした。

■「プロレスを知らない人にも少年が主人公の〈バトル漫画〉として楽しんでほしい」

――『HIGHER AND HIGHER! 新日学園物語』は新日本プロレスの内藤哲也選手を主人公にした「学園漫画」です。現実のプロレスの人間関係や試合などを踏まえたうえで脚色をして漫画にする……というスタイルをとっていますね。

広く。:私の感覚的にはドキュメントではなく、史実をもとにしたフィクションといいますか……『三国志演義』みたいな感じと思っていただければと(笑)。

――大変わかりやすい喩えですね。内藤選手の「歴史」の、どこから始めるか悩んだそうですね。

広く。:内藤選手の軌跡を描くにあたって、過去から始めるか、現在から過去を振り返るかを悩んだのですが……まずは今の“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”(※内藤選手が所属するユニット)や新日本プロレスの雰囲気をバーンと見てもらいたいなと。ロスインゴを全然知らない人も、検索したら「漫画の人たちがこんなふうにやっているんだ!」というのがすぐにわかるのではないかと思いました。

――ファンには「そう、これ!」とわかりますし、初めて見る人にもロスインゴのチーム感が伝わりますね。

■「こんな、少年漫画から抜け出たような人がいるんだ!」と思った

――広く。さんといえば『プ女子百景』のイメージをお持ちの方も多いと思います。

広く。:『プ女子百景』と今回の漫画と、実は発想的にはそれほど違っていないんですよ。プロレスにネガティブなイメージを持っている人が思い浮かべそうな要素――「汗だくの裸」のようなものを抜いて、プロレスのおもしろいところだけを見せたいと思いました。『プ女子百景』だったら技のおもしろさを見せて、今回の漫画だったら選手の関係性を見せるということですね。

――なるほど。今回も登場人物たちが制服を着たまま試合をしているのには、そういった意図があったのですね。内藤選手の風貌は、デフォルメされたかわいらしいものになっていますが、前身となる作品『HIGHER AND HIGHER』では、リアルな風貌でしたね。なぜそのように変えたのでしょう。

広く。:長く内藤選手を見て描いてきたことで、やっとデフォルメの感覚がつかめてきたというのはあると思います(笑)。それにデフォルメすることで、少年漫画の主人公のように愛着を持てるキャラクターにしたいなと思ったんですよ。

――確かに、少年漫画の主人公感がありますね!

広く。:元ネタがわからなくても、一人の少年が主人公のバトル漫画としておもしろいと思ってもらえればいいなと。そもそも私が内藤選手の試合を見て「こんな少年漫画から抜け出たような人がいるんだ!」と思ったので、自分のファーストインプレッションを生かそうと。

――どういった部分が「少年漫画から抜け出たよう」だったのでしょう。

広く。:内藤選手の置かれた状況ですね。内藤選手は高校生の時に、棚橋弘至選手のデビュー戦を現地で見ていて。すごい選手だ、この人を倒すんだ、と思って新日本プロレスに入った。そこからたどり着いた初めてのチャンピオンベルト挑戦の相手が棚橋選手で、しかもそれが棚橋選手のデビュー日と同じ10月10日だった……。

――かつて自分をその道に導いた、憧れ続けた先輩に戦いを挑む……しかも最初に出会った日に!という展開は、まさに少年漫画ですね。

広く。:はい。その試合を実際に観て、衝撃を受けました。

■現実とフィクションをあえてごちゃごちゃにしたい

――棚橋選手とオカダ・カズチカ選手が主要人物として出てきますが、彼らの表情などにもかなりライバルキャラ感がありますね。特にオカダ選手はいかにも強敵な感じが出ています。

広く。:ラスボス感が出るといいなと思って描いています(笑)。漫画の設定上、主人公の最大の敵というキャラクターになっていますが、ゆくゆくは新日本プロレスを背負っていく立場となるオカダ選手の深みも表現できたらと思います。

――やはりプロレスラーの方は、もともとみなさんすごくキャラ立ちしていらっしゃるので、漫画になってもパッと見ただけで「何この人?」「なんかやばそう!」と思わせる、キャラクターとしてのおもしろさがありますね。

広く。:まず、そこありきです。実物のプロレスラーの方自体のキャラクターがおもしろい。それを借りてきて漫画にしているという感じです。

――髙橋ヒロム選手もかなりデフォルメが効いていますね。

広く。:ヒロム選手は一番極端にデフォルメしています。ロスインゴのメンバー5人の中でも、実物に近い人と、中間くらいの人と、すごくデフォルメする人といろいろ分けて描いているんですよ。

――なぜそういったグラデーションをつけているのですか?

広く。:「ちぐはぐ感」を出したかったんです。現実とフィクションをあえてごちゃごちゃにするというか……どこまでがリアルでどこまでが創作か、わからない感じにしたかった。現実と非現実の間をいく、というか。いかにも漫画だねというところが実は現実のエピソードだったり、いかにも現実のようなところが私の創作だったり。それを混ぜていくとおもしろいかなと。

――そして一番の見どころはやはり試合シーンですね。大迫力で見ていて気持ちがいいのですが、実際の試合を漫画で再現するのは大変かとも思うのですが。

広く。:大変です(笑)。1コマ描くのにかなり消耗しますね。まだ工夫の余地があると思うのですが、試合シーンがこの漫画の肝だなと思いますし、そこが魅力的じゃないと描く意味もないなと。なるべくプロレスの迫力が伝わるように描きたいです。

――実際の試合の映像や写真では観ることのできない、漫画ならではのアングルで試合が見られるのも嬉しいのですが、そういった構図は想像をめぐらせて描くのですか?

広く。:いろんな角度から撮られた試合写真を何枚か照らし合わせて、「こうなるであろう」という絵を描きます。写真のまんまで描いたら伝わるかというと意外とそうではないんですよね。そこは漫画らしい強調などが必要になってくると思います。

(後編につづく)

HIGHER AND HIGHER! 新日学園物語
内藤哲也選手を主人公に、これまでの軌跡と、これからをリアルタイムで追いかける、新日本プロレス監修の学園漫画。憧れの棚橋弘至選手との出会い、年下のライバル、オカダ・カズチカ選手の登場、現在所属するロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンのメンバーとのユニット結成など、プロレスファンにはおなじみの出来事や試合が圧倒的な画力で描きだされていく。プロレスファン以外も、濃いキャラクターたちが繰り広げるバトル漫画として楽しめる。

広く。
ひろく●鳥取県生まれ。2004年漫画家デビュー。2014年に書籍化された『プ女子百景』(小学館集英社プロダクション)が話題に。2017年には続編『プ女子百景 風林火山』が発売された。現在、新日本プロレススマホサイトで、二階堂綾乃、キタザワとともに待ち受けイラストを、また『有田と週刊プロレスと』(Amazonプライム)オープニングのイラストも担当している。

取材・文=門倉紫麻