「このマンガがすごい!」ランクインの山うた氏。最新作のモチーフは「泣いた赤鬼」!?【インタビュー】

アニメ・マンガ

2018/7/3

『角の男(1)』(山うた/新潮社)

「このマンガがすごい!」で『兎が二匹』がトップ10入りを果たした山うた氏。2018年5月、待望の最新作『角の男(1)』(新潮社)が発売された。前作の純愛物語とは打って変わり、角を持たない“人間”、角を持つ“鬼”の種族を超えた「友情」、種族間で生じる「差別」が本作のテーマとなっている。

 本稿では『角の男』の著者である山うた氏にインタビューを敢行。『角の男』の誕生秘話、作品のこだわり、苦労した部分などについて語ってもらった。

◎新作『角の男』は童話の「泣いた赤鬼」がモチーフだった!

――前作は不老不死の女性の純愛を描いた作品。今作は「差別」と「友情」がテーマとなっていますが、なぜこのようなテーマになったのでしょう?

山うた:編集さんから「泣いた赤鬼」をベースに物語を描いてみては、と言っていただいたのがきっかけです。そのお話のテーマが「差別」と「友情」だったので、それを自分なりに深めて、アレンジして『角の男』を作りあげました。

――「泣いた赤鬼」って、童話ですよね!? 人間に怖がられているけど、人間と仲良くなりたい赤鬼。赤鬼の友達の青鬼が人間に悪さしたところを赤鬼が止めに入って、人間とは仲良くなることができたけれど、青鬼は…っていう。

山うた:そうなんですよ。そこで「差別を徹底的にしよう」ってなった結末が、この作品です。

――最初から“鬼”に対する差別の描写が凄まじいですよね。今回の作品を描く際に、参考にした作品はありますか?

山うた:今もちょうど戦争の現場で戦ったり、介護したりする女性たちの話を集めた『戦争は女の顏をしていない』という本を読んでいます。他に、スティーブン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』はすごく参考にしていますね。第二次世界大戦時のナチスによるユダヤ人の迫害が描かれている作品なのですが、構成、描き方が本当にキレイで。

――具体的にはどのようなシーンですか?

山うた:ひたすらユダヤ人収容所の人々が苦しむシーン、ユダヤ人を追い出した人が家でくつろぐシーン、二つのシーンを淡々と繋いで、対比する構成がキレイだなって感じました。鮮やかな対比は絵が作りやすいので、参考にしています。

◎構成・キャラの鍵になるのは“対比”

――なるほど。対比というのは、作品作りの重要な要素なんですね。

山うた:はい。主人公のジャオとユエも対比を明確にしたい、と考えて作ったキャラです。奴隷として扱われ、泥沼のような人生を歩んできたジャオ、お金に関して何も問題がないエリート街道まっしぐらのユエ。

――二人の生きてきた立場だけでなく、性格も対比しているようですが?

山うた:そうですね。ジャオは見るからに怒りっぽい性格で、大体いつも怒ってます(笑)。ユエは垂れ目で、おっとりしたタイプ。

――ユエはおっとりしているけれども、腹の中では色々考えているタイプでもありますよね。

山うた:はい。それに比べてジャオは考えが短絡的です。

――確かに(笑)。身体が勝手に動いてしまうタイプですよね。キャラクターを作りあげるときは、実在する人物や作品を参考にしているのでしょうか。

山うた:作品から影響を受けていることが多いです。自分が色んな作品を見る中で、「このキャラのこういうところがいいな」とか、「このキャラはこうだから引き立ってるんだな」とか、「グッと来るな!」って思ったら取り入れます。pixivの二次創作が参考になることもありますね(笑)。

――本当に色々なものをインプットして作品作りをされているんですね!

山うた:とにかく気になったものはとりあえずEvernoteに書き込んでます。Twitterとかでも面白いなって思ったものはコピペ。適当にまとめるもんだから、どこに何があるかわからない状態です(笑)。ネタが欲しいなと思ったときは、ざっと流し見して、「あ、これだ!」みたいな感じ。

◎ネーム作りの敵はやる気?

――山うたさんはストーリーや構成を考える際、よく付箋を使うそうですね。

山うた:はい、いつも使っています。マンガって時系列が前後したり、タイミングをずらしたりする方が面白かったりする。例えば、読者への引きとして、クライマックスの直前を冒頭に持ってくると、読者への引きになりますよね。なので、最初は時系列ごとに付箋を並べて、後で入れ替えてみるんです。その時、直に書いてしまうとずらせないですから、付箋が便利なんですよ。

――この方法はどうやって編み出したんですか?

山うた:CMプランナーの方の『表現の技術―グッとくる映像にはルールがある』という本から拝借しました。映像は前後関係で面白さが変わるから、付箋で構成を考えるのがいいと書いてあって。マンガでも使えるな、と思って始めました。

付箋を使ったネーム

――他に構成を考える際にやっていることは何ですか?

山うた:ネームは4、5回描いて、ざっくりのものから、段々と精度の高いものを作るようにしています。最初から細かいことを考えてしまうと手が進まないですから。最初の勢いが大切です。

――マンガの骨組みとなるネームを作るときに一番大変なこと、力が必要な作業は何でしょう。

山うた:始めるまでのやる気を出すことですね(笑)。一回集中が始まれば、ざざざっ、できちゃうので。

――ストーリーや構成を考えること自体は大変ではない?

山うた:美術大学の受験のために美術予備校に通っていたんですけど、そこでモチーフが与えられて、それをもとに絵と文字で物語を完成させるという課題があったんです。それが、すごく構成を考える練習になっていて、今もその経験が活きている。それでも手が進まないときは、気分転換に散歩をしながら考えます。

実際に先生が作成したネーム

◎山うた先生はマンガのために空を飛ぶ!?

――前作の『兎が二匹』では広島へ取材に行かれたと伺いましたが、『角の男』はどこか取材に行かれたんですか?

山うた:『角の男』は中華風な舞台となっているので、なかなか取材場所が見つからないのが悩みどころです。それでも横浜の中華街だったり、埼玉の田舎にあるちょっと怪しい道教の神社だったり、もう閉館してしまったのですが、秩父にある埼玉県山西省友好記念館に足を運んだりして、建物の作画の参考にしています。ちなみに台湾にも行ったのですが、台風が直撃して風景どころではありませんでした(笑)。

――なるほど、作中で描かれる建物を描くために、足を使って素材を探しているんですね。

山うた:あとは、空を飛びました。

――え、空を?

山うた:はい(笑)。編集さんに「空を飛んでる感覚をもっとマンガに出してほしい」と言われたんです。でも、空を飛んだことないから、その感覚がわからないじゃないですか。

――確かに……。

山うた:じゃあ、ハンググライダーで飛んでこようと。電車とバスを乗り継ぎ3時間かけて山梨県の富士山の麓まで行ってきました。

――いやぁ、アクティブですね(笑)。実際に飛んでみて参考になりましたか?

山うた:本当に、すごかったです! 写真で見てもせいぜいパノラマですけど、球体の感覚で空と地面を見ることができました。その経験を落とし込むことができたのが、1巻に収録されている第3話のシーン。ハンググライダーから見えた、自分を中心に木が円を描くように広がっている感覚が活きたシーンです。

『角の男』第3話 p16、17

――なるほど、ジャオとユエが空を飛ぶシーンは実際に飛んでみないと表現できなかったシーンということですね。

山うた:もし飛ばないで描いたら、木が同じ方向に向くように描いちゃってましたけど、自分を中心に木が広がっていく感じで描くことができたのは、実際に飛んでみたから。これで、かなり飛んでる感覚が出せたんじゃないかなと思います。

◎『角の男』のこだわりシーンはやっぱり……

――今作でこだわっているのは、やはり空を飛んでいるシーンでしょうか。

山うた:はい。毎回こだわって描いています。大変ですけれど動きがある描写は前作の『兎が二匹』にはなかったので、描いていて、とても楽しいです。他にもジャオが王鷲に乗って狩りをしているシーンも、描いていて本当に楽しい。

――ジャオが乗っている王鷲のシーンも迫力がありますよね!

山うた:実はインコを飼っているんですが、王鷲の仕草はインコの動きを参考にしています。飼っていなかったら、なかなか動く感覚が掴めなかったので、インコ大活躍です。

王鷲のモデルになった愛鳥のインコ

――1巻の中でストーリーや作画で苦労した部分はありましたか?

山うた:人がたくさんいて、遠近があって、陰影があった、最初のコマは色々とごちゃごちゃしていて時間がかかりました。描いても描いても終わらなかったので、印象に残っています。このコマだけで2日もかかりました。

『角の男』第1話 p4

――そんなにかかったんですね!

山うた:あとは、ほとんど毎話ですけど、説明が必要なコマは、それがわかるように描く、というのも苦労します。特に、第1話は単純に残酷さを伝えるだけでは物足りないと思っていたので、だいぶ悩みました。

――マンガ家さんの中には、初めからラストを考えている方と描きながら考えている方がいると聞いたことがありますが、『角の男』のラストはもう考えているのですか?

山うた:ちょうど5月中はラストを考えていました。ざっくりとは決まったのですが、今、煮詰めているところです。是非楽しみにしていてください(笑)。

――最後に読者の方、ファンのみなさんに一言お願いします。

山うた:まずは『角の男』を読んでくださった方、ダ・ヴィンチニュースの記事を読んでくださった方、本当にありがとうございます。これからも人の心を抉り続けるような作品を作り続けていきたいです。『角の男』も、まさにそんな作品にしたいと考えていますので、これからもよろしくお願いします!

 細かな背景や表現方法一つひとつ、こだわり抜いて作りあげている『角の男』。絵はもちろん、“山うた作品”ならではの鮮やかな心理描写、切ないけれども、どこか清々しさを感じさせるストーリーを、是非堪能してほしい。

文=冴島友貴