10周年イヤーに突入。日々音楽と向き合う中で続々生まれる、「わたしのやりたいこと」――中島 愛インタビュー

エンタメ

2018/8/1

 2月に発売された中島 愛の4thアルバム『Curiosity』と、その後に行なわれた東名阪のZeppをめぐるツアー「Megumi Nakajima Live Tour 2018 “Curiosity of Love”」は、改めてシンガーとしての彼女のポテンシャルを鮮やかに示す、とても充実した内容だった。前向きに、アグレッシブにアルバム制作に向き合い、そして生まれた幅広く届く普遍性を備えた楽曲たちを、自身も満足するクオリティでオーディエンスに届けられた経験は、中島 愛の歌をさらに輝かせる。それを証明するのが、8月1日にリリースされる、TVアニメ『かくりよの宿飯』のエンディングテーマ“知らない気持ち”、『すのはら荘の管理人さん』のオープニングテーマ“Bitter Sweet Harmony”を収録した、ダブルタイアップシングルだ。10周年イヤーに突入した中島 愛の、「新たなスタンダード」を感じさせる新曲たちは、どのように生まれたのか。自身が「やりたいこと」を見据え、歌への強い想いを携えて進む「まめぐ」の現在に迫った。

自分に対しての期待値が上がっちゃったのかもしれない。「おまえはもっと行けるだろう」みたいな

──今回の“知らない気持ち”と“Bitter Sweet Harmony”というダブルタイアップシングルは、カップリングも含めて「シンガー・中島 愛を全方位的に堪能できるシングル」になってますね。

中島:嬉しいです。一回のリリースで新曲を4曲聴いてもらえる、しかもアルバムをリリースしてからまだ半年くらいしか経ってないタイミングでそれができることが、すごく幸せです。『Curiosity』は、復帰からの一連の流れの中で、「新しいことをやりたい」「今までとは違うと思ってほしい」という、どちらかというとチャレンジに目を向けて制作していたんですけど、その後のツアーをいい状態で終われたことをきっかけに、ちょっとモードが変わって。自分の中にないものを求めるというよりは、ここまで作ってきた「中島 愛らしさ」みたいなものを煮詰めて、抽出する方向に、10周年イヤーはシフトしようかな、という気持ちになったところでの今回の1枚です。

──シフトチェンジするという明確な意志が、自分の中にあった。

中島:ありました。なので、全方位を網羅しているという感想が、すごく嬉しいです。やりたかったことがそのまま出てるシングルになったんだな、よかったなあって。復帰してから、追い立てられるように新しいことにチャレンジして、逆境に自らを立たせてみて「何が出ますか?」みたいな感情があって。自分にできそうなこと、わりと得意なことだけをやっていても、何も出てこないなあ、と思っていて、いい意味で「無理したいな」と思っていたんですけど、今回は「これこれー!」みたいなことをやりたくて。

──聴いていて、「この人は今、とても充実しているんだな」と思ったんですけど、音楽に向き合う今の気持ちのあり方について聞いてみたいんですけども。

中島:そうですねえ……『Curiosity』までの個人的なモードとしては、音楽は鏡でした。自分の心理状態とか、やりたい方向性がそのまま映し出されているイメージがあって。ありきたりな言い方ですけど、自分と向き合うとか、わりと私的な向き合い方をしていたんです。

──それは自分で選び取った手段ではなく、それしか選択肢がなかったわけですよね。

中島:必要に迫られて、っていう部分が大きかったですね。楽曲は、中島 愛とちゃんと鏡になって、お互いの関係性がそうあるべきだと思ってやってきたことに満足できたというか、アルバムとツアーで結果をひとつ出せたな、と思っていて。今は、楽曲は自分を映し出してなくてもいいと思ってるんですよ。なんというか、私的な自分と、ステージに立つ自分はつながってなくてもいいんじゃないかな、って思いながら歌ってます。それはこれからずっとそう、ということではなく、特に今回のシングルでは4曲、性格が違う子たちが集まってくれた分、それを中島 愛個人に落としどころを求めてしまうと、あまり広がりがない気がしたんですよね。「音楽を日記的なものと考えるのはやめよう」みたいな。

「今こういう気持ち」みたいなものも活かせてたとは思うんですけど、そのアップダウンは20代まででいいかなっていう(笑)。次のステップに行くために、音楽と違う向き合い方をしたいなって。たとえば今回のジャケット写真はわかりやすいですよね。「すのはら盤」のジャケット写真では、こうやって口をとがらせたりするのがすごく恥ずかしいんですけど、「わたしじゃないと思ってやってみよう」みたいな(笑)。だから、いくつかある候補写真から「この写真を選んでもらえた!」と思って、ちょっと嬉しかったです。そうやって、自分をキャラ化して楽しんでみるのも面白いですよね。自分に対して興味・関心を失わないために、それが必要だな、というか(笑)。ここへ来てようやく、遊べるようになったのかな。

──“知らない気持ち”は『かくりよの宿飯』のタイアップですが、まずこのアニメ、すごくやさしい作品なんですよね。

中島:ほんとに、やさしい世界ですよね。監督からもやさしい音楽、特に第2クールからはお話の展開も変わってくるので、緩急で言ったら緩やかなほうを出してほしいっていうところで、となるとバラードかな、と。わたしも、復帰後のシングル曲にはバラードをあえて入れてこなかった部分もあり。そろそろ歌いたいな、と内心思っていて。

 それと今回は、単純に自分よりも若い、フレッシュなクリエイターの方とご一緒したくて、シンリズムさんにお願いしたいっていう軸が固まってからは、すごく早く進みました。シンリズムさんって、わたしより8歳下なんですけど、昭和の時代の音楽がお好きだったりして。わたしとちょっと似たマインドを持っていて、なおかつわたしよりもずっと大人っぽい落ち着きを持っている方なんですよね。曲にも人間性が滲み出てるというか。彼と一緒にサビの部分をデュエットすることによって、葵と大旦那の関係性みたいなものが浮かび上がるんじゃないかな、って思いました。

──やさしくて穏やかな曲調のバラードだけど、この曲から自分が思い浮かべたワードって、実は「自由」だったんですよ。今までの曲の中でも、とりわけ歌がのびやかに聞こえたんですよね。

中島:シンリズムさんの曲って、すごく余白があるんですよ。日記にたとえると、筋道立てて「今日はなになにしました」って真面目に書くというよりは、思ったことをノートに自由に書いてる、みたいな。見る人も息が詰まらない感じの真っ白さ、みたいなものが曲の中にあって。たぶんメロディの運び方とか、言葉の詰め方に余裕があるっていうことなんですけど、歌い手からすると、やりたい歌い方を入れられる曲なんですよね。「自由に歌っていい」っていう雰囲気が伝わってくるメロディなんです。

 わたしが80年代の曲が好きなのは、余白があるところなんですね。聴き手に想像させる余地があるとか、誰にでもあてはまるとか、当たり前のようだけどすごく難しいことで。そういう間がある感じが、彼は自然と体に染みついてて、そういう曲を書いてくれるんでしょうね。歌う側としてはすごくのびやかに、やりたいことを全部やらせてもらえる歌だったので、窮屈さは一切なかったです。歌ってる内容として、独り言のような歌詞なんですけど、あまり独り言っぽく歌うとメッセージ性がなくなりすぎてしまうので、のびやかさを出してバランスを取ろうっていう部分はありました。けっこう頑張って歌ってるんですけど、力を抜いてなくても自由さって出るんだなっていうのは、ちょっと嬉しいですね。

──“Bitter Sweet Harmony”はとても華やかで。いわゆる「まめぐ節」を感じさせる曲ですね。『すのはら荘の管理人さん』は原作があって、声優としても出ているということですけど、作品からはどんな印象を受け取ったんでしょうか。

中島:いい意味で、変わらない日常を延々と描くアニメなんですね。大きな事件が起こったり、誰かが深く傷ついたり、追い込まれたりすることなく、当たり前の日常が当たり前に続いていく幸せを中心に描いているアニメなので、その安心感を出したいなって思いました。管理人さんがすのはら荘にいて、みんなをお世話してくれる話がベースにあるので、作品全体の要になってるのはやっぱり安心かなって。それを自分の歌でどの程度出せるのかなっていうところは、難しい課題でした。

 わたしが今まで求めてた大人っぽさって、自分との戦いみたいな感じで、人に対してどうっていう大人っぽさではなかったんですね。誰かを受け止めてあげられる強さを持った女性とか、母性みたいなものを曲に持たせたいという視点で音楽と向き合ったのが初めてだったので、「包容力って難しいな」って思いました。だから、いつものまま歌ったら絶対にダメだ、みたいな感じが自分の中にあったんですよ。わたしはたぶん自然にきゃぴきゃぴしてしまうので(笑)。きゃぴきゃぴじゃない方向で明るくするってめっちゃ難しい!って思って、そこはkzさんに細かーくボーカルディレクションしてもらいました。今までは、気持ちとして「わたしが楽しい。だからあなたも楽しい」みたいなところがあったんですけど、今回は「あなたが楽しい。だからわたしも楽しい」で、あなたが先に来る感じです。リアルなわたしはそこまで大人じゃないけど、アニメのために、なんとかそこを出したくて。

──その包容力は、知らないうちに持っていたものなんですかね。

中島:でも、意識しないと発動しないんですよね。わたし、無意識に発動してるものってないものと同じだと思っていて(笑)。だから、「包容力を認識したい! あるとしたら出てきてくれ、今すぐわたしの目の前に!」みたいな感じで、引っ張り出していった感じです。あと、《少し疲れちゃったら甘えたっていいんだよ 少し眠くなったらいつだって帰ってきてね》っていう歌詞が、すごく好きで。「わたしの好きな歌手の人がこんな歌詞歌ってくれて、仕事のあとに聴いたらたまらないな」と思ったんですね。基本的に自分にあまり自信がないので、「わたしの歌聴いたら元気になるでしょ」と思ったことはあまりないんですけど、それこそライブに来てくれたお客さんの顔を思い浮かべて、中島 愛が「甘えたっていいんだよ」って歌ったことで、一日の仕事の疲れが一瞬吹っ飛ぶとか、そう思ってくれる人も何人かいるかもしれないから(笑)。その人のために歌おう、って思って。

──なったなった。聴いたときたまたますごく疲れてたから、癒されました(笑)。

中島:よかった! 疲れてたり、「もうダメだ、明日頑張れない」っていう人が曲を聴いただけで元気になったり、自分も音楽でそういう体験をしたことがあるので、このフレーズ聴いただけで元気になった、みたいな体験をしていただけたら、この曲は大成功ですね。

──でも、《少し疲れちゃったら~》の歌詞、ここは特に強く印象に残りますよね。

中島:うん、ここはやっぱり、アニメと繋がってるのはもちろん、純粋に歌詞としてすごく飛び込んでくるんですよ。今までは甘える側として歌うことが多かったけど、「甘えられる側かぁ……悪くないな」みたいな(笑)。だけど今、個人的にはかなり余裕がないんですけど。「この先、何ができるかなあ」って考える時期でもありますし。でも、自分にとって、余裕がないと感じるときほど得るものが多いことを体感でわかっているから、わざと余裕がない感じに思考を持っていってる可能性もありますけどね。

──できることや、やりたいことが増えて、やるべきことも増えたということですかね。

中島:そうかも。選べる、行けるところが多くなった分、時間が足りないと思ったり。自分が3人くらいいたらいいのになって思うのは、選べる範囲が広くなったからかもしれないですね。自分に対しての期待値が上がっちゃったのかもしれないです。「おまえはもっと行けるだろう」みたいな。そういう意味では、余裕がないのは自分としてはとてもいい傾向だと思うし、日々面白いですね。

「10周年、やりたいことある?」ってスタッフさんに訊かれたときに、わたしあまり「やりたいこと」っていう気持ちで仕事に取り組んだことがなくて。やるべきこと、やれそうなことがわりと第一だったんですけど、「10年やってきたんだから、やりたいことをやりたいって言っていいんだよ」って言われて、目からウロコだったんですよ。「はっ! やりたいこと? やりたいことをやりたいと言っていいんだ?」って。

──ほんとに?(笑)。

中島:いやもう、びっくりしました! ほんとに初めてで。「やりたいことって、言ったり考えたりしていいんだなあ」って。別に窮屈だったわけじゃなく、自分の中にそういう意識がなかったんです。もちろん意見はたくさん聞いてもらってるし、衣装にしろ、歌う曲にしろ、いろいろ叶えてもらってるんですけど、やりたいことという考えよりは、その時点の中島 愛がやるべきことを選んでいて。それを言われたのは、このシングルのレコーディングより前だったと思うんですけど、そこで意識が変わった部分が大きくて。だからレコーディングに関しても、「いい感じですよ」って言われても、「いや、やっぱりわたしはこうやりたいから、アドバイスしてほしい」って言えるようになりました。

──今回のシングルは、「やりたいこと」が人を楽しませるものであることを証明してると思いますよ。

中島:もう、人が楽しんでくれてなかったらそれはただの壁打ちだと思うし、ステージでやらなくていいことだと思うので、そういう意味では、「わたしがやりたいことをどう思われても関係ないわ」みたいなことは、ない気がします。ちょっとずつでもいいから、誰かの心が何かしら動けば大成功かなって思います。

『Curiosity』の楽曲の強さが絆を結んでくれたし、自分も強くしてくれた

──『Curiosity』のとき、「このアルバムの曲を歌うわたしを見てほしい」という、なんとも頼もしい言葉を放ってたじゃないですか。

中島:ははは。放ちましたね。

──実際観させてもらって、とても充実したツアーだったと思うんですけど、自身のパフォーマンスについてはどう評価しているんですか?

中島:もう、毎回ほんとに緊張して――「逃げ出したいっ!」みたいなシンプルな緊張をしてたんですけど、1曲目の“サブマリーン”で出て行くときにライトを浴びると、ころっと緊張を忘れて(笑)。「みんなありがとうー!」みたいなテンションに本気でなるから、我ながら思い出して笑えるくらい(笑)。

──(笑)。

中島:だけど、アルバムのリード曲の“サブマリーン”が流れ出したときに、全然違うマインドの自分になれたことで、アルバムの曲たちのパワーが凄まじかったことが改めてよくわかったし、そこに一生懸命対峙しようとしてた自分の向き合い方も、すごくよかったんじゃないかなって思います。自分の中で最善を尽くせた感覚もあったし、今まで以上にバンドの皆さんやスタッフの皆さんの結束力がすごくて。お客さんはもちろん、身近な人が「このツアー楽しい、なんで3公演しかないの?」って口を揃えて言ってくれたことが、わたしの中で大きな自信になりました。『Curiosity』の楽曲の強さが絆を結んでくれたし、自分も強くしてくれたし、すごくいいツアーだったって、今は言い切れる感じです。

──ところで、まめぐさんのインタビューでは毎回「頑固さ」というキーワードがあって、それをモノにたとえると、それは漬け物石であるという(笑)。

中島:そう、わたしはずっと持っている(笑)。

──それって、あまりコントロールできないものだった感じがするんですよね。だけど今は、だいぶ制御できるようになってきたんじゃないですか。

中島:今は、漬け物石で筋トレしてますね(笑)。だから余裕がないんだと思うんですけど。たぶん自分にとって頑固さは、活動していく上でのモチベーションにもなってるから、なくならないと思います。

──自分を支えてくれるものでもある。

中島:うん。そこに支えられてないと倒れちゃう、みたいなところもあると思うので、頼ってる感じ。それを無意味だと思える日も来るかもしれないけど、今は持ってるから、持ち続けるぐらいだったら筋トレしてみっか、それで遊べればいいかな、みたいな。遊んで、筋力がついたり、思わぬいい結果が出せたりしたら、それはラッキーだなと思うので。ずっと「お、重いんだけど……重いけど置けない! 誰か助けて!」みたいな感じだったんですけど。それに、置くにはまだ早いんじゃないかなあ。今置いたら、つまらないと思う。つまらないのが一番つらいですね。負荷がかかっていても、面白い毎日のほうがいい。面白い毎日は人には作ってもらえないし、自分で作るしかないから。

──序盤に話した通り、今は活動がすごく充実してると思うんですけど、これから自分に期待したいことってなんですか?

中島:自分に言いたいことはあるのかなあ、っていうところに期待してます。というのも、Negiccoさんのニューアルバムで作詞をさせてもらって、それはNegiccoさんのことを思っているので言葉が出てきたんですけど、果たして、歌詞でも表現でも、これをリリースしたいっていうアイディアでも、「わたしに何か、発信したいメッセージはありますか?」っていうところで、未来の自分に期待したいです。

──今は?

中島:今は……どうかなあ。歌詞も、自分のことだと生々しすぎて投影できなかったり、自分で歌うには照れ臭いなあ、みたいなところもあるので、自分の曲の作詞って気が進まない部分もあるんです。でも、やってみると、すごく苦しいし、言葉を紡ぐのは大変だなと思いつつ、やっぱり楽しいんですよね。今はまだ自信が持てないし、自分のことを面白がりきれてないけど、もうちょっと煮詰めることができたら何か出てくるんじゃないかなって期待してます。なので、漬け物石で筋トレ中です(笑)。底力をつけて、30代だったり、この先のキャリアに向かっていきたいので。独りよがりなものではダメだし、人に伝える価値のあるもの、伝えるべきものじゃないと意味がないと思うので。そこまでのものを自分が出せるのかは半信半疑ですけど、これからの自分に期待したいですね。

取材・文=清水大輔 撮影=GENKI(IIZUMI OFFICE)
ヘアメイク=松井祥子(addmix B.G)