「三沢光晴さんには“正義の味方”のイメージがずっとあります」 マンガ家・神尾葉子【プロレス特集番外編】

エンタメ

2018/8/10

『花より男子』の新章『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』を大ヒット連載中のマンガ家・神尾葉子さん。プロレスを題材にした作品『まつりスペシャル』も手掛けるなど、実は大のプロレスファン。大好きだという三沢光晴選手について、プロレスとマンガの共通点についても語っていただいた。

――神尾さんは三沢光晴選手の大ファンだそうですね。

神尾 はい! 三沢さんには華があるんですよね。リングに立つと、会場がパアッと明るくなる。タイガーマスクをやっていらしたからというのもあるのかもしれないんですけど、私には「正義の味方」みたいなイメージがずっとあります。

――三沢選手には、神尾さんのプロレスを題材にしたマンガ『まつりスペシャル』の帯を書いていただいたり、お会いになったこともあったそうですね。2009年に三沢選手が亡くなられた後に出た『まつりスペシャル』の巻末で、「三沢さんは私にとって永遠のヒーローです」とひとことだけ書いていらしたのが印象に残っています。その後、あまりプロレスを観ない時期があったそうですが……。

神尾 そうなんです。かなり……ショックだったので。プロレスに興味がなくなったというわけではなくて、あまりにも衝撃が大きすぎて。でも昨日、久しぶりに三沢さんの秘蔵VTRを観返したら、やっぱり本当にすごくて。一時代を築いた、素晴らしいプロレスラーだったなと、あらためて思いました。

――三沢選手が最初に所属していた全日本プロレスを中心に観ていたそうですね。全日本の魅力はどういったところでしょう。

神尾 私が観ていた頃の全日本プロレスって、外の団体とほとんど試合をしなかったんですよ。

――新日本プロレスvs UWFだとか、他団体との抗争が激しいところもありますが、全日本は団体内の選手同士で戦うことが多かった。

神尾 そうなんです。なので、同じ選手同士が戦う試合も出てくるんですが、何度見ても、飽きることがなかったです。

――三沢選手がNOAHを旗揚げされて以降も御覧になっていましたか。

神尾 はい! NOAHもすごく楽しい団体ですよね。全日のスピリットを引き継いでるような感じがして……やっぱりこう、仲間同士で全力を出して戦う!というようなところがあるのかなと。たぶん、普段はみなさん仲がいいのに、試合になったら思い切りビンタもする、みたいなところが好きです。その後の人間関係に尾を引かないのかな……と思ったりもするんですけど(笑)。団体同士が戦うのも、もちろんドキドキしておもしろいのですが、仲間内で戦っている団体を観に行くと「またこの空間に戻ってきたなあ」っていう気持ちになれるんですよね。「さあ、応援しよう!」と。

――選手と観客の一体感があるんですね。

神尾 私は3階席の上の方とかで観ることが多かったんですけど、会場全体が見渡せて。本当にお客さんの熱気がすごいなといつも思っていました。三沢選手がいい技をかけたりすると、みんなバーッと立ち上がるんですよ。こういう人たちがプロレスを支えているんだ、って思いました。

プロレスは「ホーム」。安心して観られます

――子供のころからお父様の影響でプロレスを観ていらしたそうですが、会場でご覧になったのはいつ頃でしたか?

神尾 多分、二十歳ぐらいだったと思います。姉と父と、三人で武道館へ行きました。確か、それも三沢さんの試合だったかなと思うんですけど。UWFとかいろんな団体が出てきたころで……もう少しするとK1とかPRIDEみたいな総合格闘技も人気になっていきましたよね。

――総合格闘技も観ていらしたのでしょうか。

神尾 観ていました。ただ「ああ痛そう! 折れちゃう!」って目をそらしちゃうんですよ。すごく屈強な男の人が、腕ひしぎ逆十字をかけられたら一瞬でタップしたりするじゃないですか。それが怖くて……。それでも、流行っていたこともあってヒョードルとかノゲイラが出てきた頃は、よく観ていました。ただ、私はプロレスの方が安心するな、とは思っていましたけど(笑)。

――「安心」ですか。

神尾 「ホーム」みたいな感じで試合を観られる。総合格闘技は「最強を決める喧嘩」という感じで、本当にギリギリまでやるじゃないですか。そこを好きな方の気持ちもわかるんですけど、プロレスはルールにのっとって強さを決めているので、私は見ていて安心できるんです。

――なるほど! プロレスにはいろいろな「強さ」もありますよね。もちろん勝ち負けの世界なのですが、何度も倒れても立ち上がる選手の「強さ」もありますし……。

神尾 わかります。元全日本の菊池毅選手とか。すごく小柄なんですよ。ジャンボ鶴田選手みたいな大きい選手と当たると、もう紙みたいにぺーん!って飛ばされてしまう。だけど起き上がるんですよ、何度も。気迫が本当にすごくて、見ていて応援したくなる選手でした。

『まつりスペシャル』にプロレスへの情熱をありったけ詰め込んだ

――『まつりスペシャル』は小さなプロレス団体「まごころプロレス」を舞台にしたお話ですね。プロレスを題材に描こうと思われたのはなぜですか?

神尾 初めて少年誌(ジャンプSQ.)で描かせていただいたマンガなのですが、私が興味のあることで男性読者にも受け入れられるもの、と考えたらプロレスしかなかったんです。

――社長の娘である覆面女子レスラーのまつりに、同級生でプロレスオタクの重松くんが「本気で戦ってるところが見たいんだ」と言ったり、ライバル女子レスラーの美々丸がまつりの代役でリングに立つ時「あたしはプロレスが好きだからお客さんをがっかりさせたくないの」と言ったり、神尾さんのプロレスへの想いが随所から感じられました。

神尾 本当ですか! よかったです。プロレスへの情熱をありったけ詰め込んだつもりです。

――特に大変だったことはありますか?

神尾 動きのある絵を描くのが大変でした。少女マンガは基本的に静止画なので。プロレスのビデオを一時停止してスケッチしたりしましたね。「あっ、この技ってこの腕がこうかかっていているんだ……」と初めてわかったりして。大変ではあったんですが、描いていて本当に楽しかったです! プロレスのことを描けたのももちろんうれしかったんですけど、少年マンガと少女マンガの融合ができたというか……少年マンガだけれど、女の子の気持ちの動きも入れられたかなと。

――本当にそうですね。まつりのレスラーとしての目覚めも描きつつ、恋する気持ちもたっぷり描かれていました。

神尾 そのバランスが、結構考えるところではありました。私のマンガは女性読者の方も多いので、プロレスばかり出しても「またプロレスの回?」と思われてしまう(笑)。まつりの女の子らしいところとか、(片思いの相手)諸角くんが好きなところとか、そういうのもちゃんと描かないといけないなと。

――連載中は会場にもいらしていたんですか?

神尾 はい。すごく印象に残っているのが「阿佐ヶ谷ロフトA」という、小さい会場でやっていた女子プロレスです。

――ふだんはライブなどをやるような場所ですよね。天井もそんなに高くないのでは。

神尾 だからほぼ寝技なんですけど(笑)。

――リングはなくて、マットだけ引いてやるような。

神尾 そうです。とてもおもしろかったですし、お客さんがすごく熱いんですよ。みなさん、そのプロレスが大好きで観に来ているので。そうか、プロレスって、こういうところからの始まりなんだよなあ、と思いながら観ていました。

――地方の公民館のようなところや商店街など、どこででも開催できて、誰にでも楽しんでもらえるのがプロレスの良さですもんね。

神尾 そうですよね。お年寄りがすごく喜んでいらしたのも印象的でした。実はお年寄り世代って、プロレスが好きな方が多いですよね。私の祖母もプロレスが大好きでした。

プロレスこそ、お話の組み立て方の参考になるんです

――現在連載中の『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』は、『花より男子』の新章ですね。『花男』の時も少女マンガ的なときめきと、エンタメとしてのおもしろさとが両方ありましたが、今作ではときめきはもちろんありつつ、よりエンタメ感が増しているというか……お話の乱高下が激しくて、よりわくわく感やハラハラ感が強くなっているように思うのですが。

神尾 ありがとうございます。『少年ジャンプ+』という媒体で連載させていただいているので、『まつりスペシャル』の時と同じく、女の子はもちろん、男性が感情移入しやすいマンガというのを目指して描いています。

――なるほど、そういうことなのですね。少年マンガとプロレスは近い、という方もいらっしゃいますが、どう思われますか?。

神尾 かなり近いと思います! なのでジャンプ編集部の方たちは、プロレスがお好きかなと思っていたんですが、みなさん全然観ないんですよ。私と同年代の方は今でもご覧になったりするみたいでプロレスの話もチラチラするんですけど、若い編集さんは「プロレス? えーそんな残酷な……」なんて言うんです! (隣に座る『花晴れ』担当編集者を指し)担当さんも全然観てくれないですし。

担当編集 すみません(笑)。

――ぜひ観ていただきたいです!

神尾 はい! プロレスこそ、お話の組み立て方の参考になるんですよ。タッグで出てきて、一人がやられている時に、こう(ジェスチャーをする)コーナーのロープをぎりぎりまで伸ばして片手で持ちながら、もう一方の手を伸ばしてタッチに行く……みたいな! 毎回カタルシスもありますし!

――おお! 熱いです! 本当にそう思います!

担当編集者 べ……勉強します!

神尾 (担当に向かって)ぜひ一緒に観に行きましょう(笑)。

取材・文:門倉紫麻