圧倒的な熱量を放つ新曲と、ミュージカルへの初挑戦。表現者・May’nは、さらに前へと突き進む――May’nインタビュー

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公開日:2018/8/8

 6月17日、日曜日の夕方、日比谷野外大音楽堂。May’nが15枚目のシングル『You』を引っ提げて開催したホールツアー、『and You』の追加公演が行われた。梅雨の時期のど真ん中だったが、その日だけは雲間から青空も覗いていて、野外公演の開放感もあり、May’nは冒頭からラストまで最高のパフォーマンスを届けてくれた。ステージと客席が文字通りひとつになって親密な空気を作り上げたライブであり、『and You』ツアーの充実ぶりが示されていたように思う。そんな日比谷野音公演で、次なるシングルの楽曲として披露された『天使よ故郷を聞け』(8月8日リリース)は、会場を埋めたオーディエンスにとって、インパクト十分な新曲だった。May’n自身が「自分の身体全体に無理矢理熱を入れられてる感じのグチャグチャさ」と形容するように、“天使よ故郷を聞け”は混沌としていて、前のめりで、過剰なほどに熱量を放つ1曲になっている。この新曲が生まれた背景と『and You』ツアーの総括、そして表現者・May’nとして新たな挑戦となる今秋のミュージカル出演について、幅広く話を聞いてみた。

「もう、May’nバカだなあ」って言われたい(笑)

――まずは、ホールツアー『and You』の振り返りをしたいと思います。追加公演の日比谷野外大音楽堂のステージを観させてもらって、ツアーがすごくいいものだったんだろうな、と想像したんですけど、今回のホールツアーをどのように総括してるんでしょうか。

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May’n:やっぱりすごく楽しかったですし、とにかくシンプルに自分の声や想いまっすぐに届けられるツアーにしたいなあ、と思っていて。なので、セットリストも今まではアレンジや楽曲の雰囲気を重点的に考えて作ることのほうが多かったんですけど。もちろんそれは考えつつ、一番の軸としては歌詞をすごく重視しました。「この曲を歌ったあとはきっとこんな気持ちになってるから、その気持ちで歌える」とか、「みんなにありがとうって伝える曲をここで歌いたい」とか、「今、すごく楽しいね」って笑い合える曲があったり。とにかく歌詞を伝えたかったし、自分の想いとちゃんとリンクするライブに強くこだわりました。だからこそ、より自分自身を出せたし、みんなの熱も今まで以上に感じたし、「楽しかったね」って言い合えたライブだったと思います。とにかく、自分の気持ちに素直になれたツアーでした。

――野音では、冒頭の何曲か歌ったあとの最初のMCで、「カッコよくキメようと思ってたけど、つい笑っちゃった」と言ってたのが印象的で。目の前にいる人たちと、ものすごく濃いコミュニケーションができてるんだろうなあって、観ていて思いました。

May’n:そうですね。ここ最近、ずっと自分の中で感じてることんですけど、全部みんなに届けたいし、みんなのことを見たいし、全部を見てほしい。ほんとに素の自分が、そこにいました。

――それこそ、ツアータイトルにもなった“You”は本当に想いが伝わってくる歌になっていて、とても心を動かされたんですけど、ツアーを通して歌ってきて、“You”はどんな存在になりましたか?

May’n:とにかく、この曲を伝えるためにわたしはツアーをしたいと思っていて――今まで、ツアータイトルをシングルやアルバムと同じタイトルにしたことがないんですよ。それだけ、“You”は自分の中でとても大切な曲だし、心から「この曲を伝えたい」と思う自分がいるのは、今まで続けてきたライブがあるからで、改めてみんなにありがとうっていう気持ちも込めたいし、この曲の歌詞にわたしが救われたように、わたしの歌で背中を押すことができたら、と思っていて。音楽のパワーのようなものを信じたい、絶対に伝えたいって強く思いながら歌ってました。わたしの身体の中にあるものは全部ぶつけたいっていうくらい、この曲では出したくて。

――ラストの曲ではなかったけど(笑)。

May’n:そうなんですよ(笑)。イベントで歌っていても「わたしはこの曲を伝えるたえに今日ここに来た」って思うくらい入れ込むことができてるんですけど、最後にアウトロを噛み締めてるときには「はあ~っ」みたいな感じになって(笑)。でも、そこでゼロになるからこそ、未来を感じるというか。「わたしは伝えることは伝えたよ、この先も一緒に行こうね」っていう、次へのメッセージに変わるというか。ただ、ステージではとにかくこう……浸ってます(笑)。

――「アウトロを噛み締める」っていう言葉、いいですね(笑)。

May’n:(笑)そう、噛み締めてるんです。この曲に出会えてよかった、この曲を心から歌える自分でよかった、って。『魔法使いの嫁』のオープニング曲なので、『まほよめ』が教えてくれたことと、わたしが日頃から感じていたメッセージがガッチリ合わさって、本当に奇跡的な出会いだったと思うんですけど、逆に言うと、仮に『まほよめ』や“You”ともっと以前に出会っていたとして、「たぶん今のような気持ちでは歌えてなかっただろうなあ」って思います。心の底からこの曲を歌える今が、ほんとにすごいことだなって思うし、それが嬉しいし、幸せですね。まだまだみんなをいろんなところに連れて行きたいし、やっぱり裏切れないと思うから、拳を強く握る感じで浸るというか、噛み締めてます。

――歌のあとに、気持ちのやり取りが続いてる感じがありましたね。

May’n:そうかもしれないです。それ、いいですね。歌い終わったけど、まだ続いてる。

――それと強烈だったのが、昨年のアルバムに収録されていた “Shine A Light”でした。タイトル通りオーディエンスを照らして。アーティスト・May’nのことを照らす、ステージと客席全体を祝福するアンセムになったなあ、と思いました。

May’n:わたしも、この曲のパワーはすごく感じます。ほんとにすべての感情を伝えられるし、最終的には多幸感に包まれるというか(笑)。自分がライブを通して何を伝えたいんだろうって思ったときに、この曲に込めてることすべてを伝えたいんだなって、歌いながら感じますね。最近、BPMが速い楽曲や、アグレッシブな楽曲が多かった中で、新たなMay’nの扉が開いた曲でもあって。もともとすごく好きなジャンルの曲だし、ライブで歌うときも、隙間隙間に自分の喜びだったり、みんなとのコミュニケーションを入れ込める感覚があります。ライブの終わりってちょっと寂しい気持ちもあったりするけど、「また会おうねえ」って、笑顔でバイバイできる感じがすごく幸せです。

――野音も含め、今回のツアーを経て、これからやってきたいことや、もっと楽しんでもらうためのアイディアがさらに湧いてくる感覚もあったんじゃないですか?

May’n:楽しいことをしたいですね。単純なことに思えるんですけど。やっぱりみんなで「楽しいね」って共有したり、“Shine A Light”のように幸せを感じたり、そういうポジティブな気持ちってすごく素敵なことだなあ、と改めて感じて。もともと、どちらかというとポップなものよりもダーク寄りな曲のほうが歌い甲斐もあるし、そういう楽曲がMay’nの軸になってるんですけど、ちょっとお祭り感があるような曲も、もっともっと欲しいなあって今回の野音のライブを経て思いました。もっとポップな曲を増やしたいって思ったのは、もしかしたら初めてかもしれないです。

――たとえば、“バースデイ!~PEACE of SMILE”みたいな曲とか。

May’n:そうですね。“バースデイ!”とか、今回のライブで言うと“ギラサマ(ギラギラサマー(^ω^)ノ)”はシェリル・ノームの曲で、当時は「すごいポップ! どうやって歌おう?」みたいな感じだったけど。今は「もう、May’nバカだなあ」って言われたいというか(笑)。

――そのモード、いいですね(笑)。

May’n:最近は、「どれだけアホになれるか」みたいなことを考えてます(笑)。ライブだからこそ許されることでもあるし、やっぱりそれもみんなで一緒にやりたいです。

――ステージ上で先にやってくれると、お客さんはより盛り上がれますからね。だから、どんどんアホになっていただいて(笑)。

May’n:(笑)そうですね。そういう曲を増やしたいです、今。

今は自分のことをもっと知りたいって思うし、知った上で全部ちゃんと認めてあげたい

――ニューシングルの“天使よ故郷を聞け”を聴いて、以前May’nさんが自身の楽曲について。「荒野に立っているような感じの曲が多い」って言ってたのを思い出したんですけど、野音で初披露したときのMCでも紹介していたように、「ぐっちゃんぐっちゃんな曲」ですよね。混沌としているというか。

May’n:もともとこのお話をいただいたときに、作品(TVアニメ『ロード オブ ヴァーミリオン 紅蓮の王』)の設定を見て、自分のルーツや運命を各キャラクターが考えて探っていくお話だったので、ダークさや這いずる感じ、そういうカッコよさがある楽曲にしたいなって思っていて。自分の中で、ロートーンな楽曲を作ってみたいっていう気持ちもあって、最近アルバムでもご一緒しているSALTY DOGさんに今回は書いていただきました。SALTYさんがデモを上げてくださって聴いたときに、自分の身体全体に無理矢理熱を入れられてる感じのグチャグチャさというか、血管が勝手に疼くような感じがありました。もう、これだけぐちゃぐちゃだと、表に出す上で成立させるのが絶対に難しいことだと思っていて。自分自身のテンションをどういうバランスで持っていこうかなっていう部分で、BPMが速い曲は身体でぶつかっていけば盛り上がれるんですけど、こういうダークな曲にどうやって熱を入れ込もうか、という部分は試行錯誤しました。

――もともと自分でコントロールできる範囲で込められる情熱みたいなのがあるとして、そうではないものも曲に入れてくっていうことですか?

May’n:はい。SALTY DOGさんのメロやCHOKKAKUさんのアレンジと、楽曲の世界観にまず身を委ねて――なんかもう、蜘蛛の巣に引っ掛かった虫みたいな状態です。そこでどう生きるか、「わたしはここでは死ねない」みたいな。「うわ~~~!」っていう感じです(笑)。

――言語化できない(笑)。

May’n:(笑)今回は自分から生まれる、想定できる熱を込めたかったわけじゃなくて、まわりの熱にいかに溶け込み、抗い、それを取り込みながら奪い取って熱を発信していく感じ、ですかね。今までは「自分、これです!」ってまわりを巻き込んで、わたしが先頭になって思いをぶつけていく楽曲が多かったんですけど、今回はこのデジタルなサウンドが持つ熱をアニメとともに表現できたらいいなっていうところが、最初にありました。

――作品の設定から受け取ったものを、もう少し詳しく聞いてもいいですか。

May’n:各キャラクターが自分の意思とは別に生きてしまうというか、自分の血に刻まれた運命に抗ったり逆らったり、葛藤していくドラマなので、そんな彼らを別の視点から見た群像劇のような感じで歌うと合うんじゃないかなっていう話を、作詞の岩里祐穂さんとさせていただいて。岩里さんは、自分自身を見つめたり、自分の奥深くにあるルーツやほんとの自分を探すことが、大きな一歩を踏み出す上で大切なことだと思うっておっしゃっていて、わたしの中でもそれがこの曲の一番芯になるメッセージでした。わたしも自分の感情にふたをして生きてた時期があるし、ほんとの自分を出すことって簡単じゃないと思うんですよね。だけど今は自分のことをもっと知りたいって思うし、知った上でそれを全部ちゃんと認めてあげたい。それを伝えたいんですって言えるのも、May’nになる前も含めた13年のキャリアを経てこそだなと思います。

――かなり曲への解釈が深まってる感じですね。

May’n:そうですね。岩里さんはライブにも来ていただいたり、前回の制作の空き時間とかに「わたし、最近こんなこと考えてるんですよ」とか、「自分をもっと好きになれた」っていう話をさせてもらった後にこの楽曲だったので。わたしの気持ちも汲み取った上で書いていただいたのかなって思います。

――カップリングに収録される“HOME”(TVアニメ『Phantom in the Twilight』エンディングテーマ)は優しいバラードですけど、表題曲の混沌ぶりからの飛距離がすごいですよね(笑)。

May’n:(笑)これは、“HOME”っていうタイトルにも込められたように、自分の大切な場所のことを歌ってます。わたしにとっては、とにかくライブが自分の一番の居場所だなって思うので、ライブの場で「ありがとう」って言える曲が増えたことが幸せですね。最近は、こういうシンプルな曲もすごく楽しくて。隙間がたくさんあるからこそできることがたくさんあって、いっぱい試行錯誤しながら、ひとつの言葉を伝える上で、どうやったら気持ちを伝えられるだろうっていうことを、たくさん考えました。ダークな世界観やデジタルなロックサウンドの曲もわたしだし、だけどバラードも歌っていきたいっていう思いもあるし、「みんなのメインテーマになる歌を歌っていきたい」って言い続けてる中で、大切な人に「ありがとう」の気持ちを届ける歌を歌いたいっていう気持ちもわたしの軸になってきたので、どちらも「これが今のわたしです」って胸を張って言える楽曲になりました。

ミュージカルの経験が、欲張りな自分をより磨いてくれると思う

――初挑戦となるミュージカルの話も聞きたいと思います。黒澤明監督の『生きる』といえば、日本映画史上に残る名作ですけど、まずはミュージカルに出演することになった経緯を教えてください。

May’n:人前でみんなと一緒に楽しいことをするのが、小さいときからすごく好きだし、ミュージカルを観ることも、もともと好きでした。なので、「いつかミュージカルやりたいなあ」っていうことは漠然と思っていたんですけど、たまたまわたしのライブをプロデューサーさんが観てくださっていて、今回この作品でヒロインの小田切とよの役を探してるときに、ステージ上でとにかく楽しいっていうパワーを無邪気に放出している姿を見て、心から「とよだって思った」って言ってくださったんですね。わたしのライブも、「みんなで楽しいことしたいね」みたいなモードに突入していたので、もしかしたら今の形のライブがなかったら、このミュージカルにもつながってなかったかもしれない。だから、ほんとに新たな挑戦ですけど、今までのライブがつないでくれた次のステージだと思います。すごく嬉しいなあという気持ちでいっぱいだし、やりたくてもできないって思う人がたくさんいるくらいの大役をいただいたので、「初めてだからこのくらいでした」っていう言い訳は絶対できないし、できる限りのことをやってちゃんとした完成度に持っていかないと、って思います。

――初めて挑戦してみて、思った以上に大変な部分ってどういうところですか?

May’n:もう、全部が大変です。知れば知るほど大変だな、と思いました。歌はずっと歌ってきたけど、やっぱり今までとは違うし、改めて見直さなきゃいけないんですね。自分の身体を楽器としてコントロールしないといけないので、とにかくテクニックが求められますし、毎日連続での公演なので、ハードな期間をやり抜く強さやのどのコントロールも難しいなって思います。でも、歌のテクニック的にも、自分の中でポップスを歌う中でも課題としていた部分を見つめ直すことができていて。このミュージカルを終えたときに、自分がポップスの曲を歌う上でも活きてくるんじゃないかなって思います。

――今回のミュージカルへの挑戦によって、表現の幅はさらに広がると思うんですけど、今May’nさんが考える表現者としての未来像は、どういうものなんでしょうか。

May’n:まず、欲張りに音楽を楽しみたいです。とにかく音楽が好き、歌うことが好きで、ロックもR&Bもダンスミュージックも好き、特にジャンルにこだわりがないところからスタートして、そんな自分に葛藤して「わたしのジャンルってなんだろう?」って悩んだりもしたけど、ライブで楽しいことがしたいって思ったときに、「いろんな曲が歌えるって最高だね!」って思って、いろんな曲をみんなに楽しんでほしいし、どの曲でも100パーセントのパフォーマンスで表現できるスキルやテクニック、人間としても想いを100パーセント表現できる自分でいたいと思うんですけど、別の世界で生きてる俳優さんたちとご一緒することによって、マインドとしても新たな発見があると思います。そういった刺激をもらえることがすごく楽しみだし、その経験が、欲張りな自分をより磨いてくれるんじゃないかなって思います。

取材・文=清水大輔 撮影=森山将人
スタイリング=伊藤 彩 ヘアメイク=大塚由紀