ベトナムと日本、2つの価値観が混ざり合い生まれた人間ドラマ『リトル・ロータス』西浦キオ インタビュー

アニメ・マンガ

2018/10/14

 2017年12月より、「LINEマンガ」オリジナル作品として連載がスタートした『リトル・ロータス』。ベトナムを舞台に、日本人の青年とベトナム人の少女が織りなすこの物語はどのように生まれたのか。ベトナム人の両親をもつ新人マンガ家・西浦キオさんの素顔に迫る。

『リトルロータス』カラーイラスト
(C)Kio Nishiura / LINE

西浦キオ
にしうら・きお●19歳。ベトナム人の両親を持ち、日本で生まれ育つ。2017年12月、「LINEマンガ」オリジナル作品『リトル・ロータス』で連載デビュー。

 

 複眼的な視点や価値観を持ち、それらを自身のなかでミックスさせているハイブリッドな作家が生み出す作品は、爆発的な求心力を持つ。それはきっと、読者に新しい風景を見せてくれるからだろう。

『リトル・ロータス』で連載デビューしたばかりの新人マンガ家・西浦キオさんも、そんな作家のひとり。彼女はベトナム人の両親をもち、日本の地で生まれ育った。ベトナムと日本、双方のカルチャーをバックグラウンドに持っている。だからだろう、彼女は、「日本人」の主人公が「ベトナム」で奮闘する物語をデビュー作として生み出した。

「当初は日本を舞台にした作品にするつもりだったんです。でも、日本で育ったベトナム人の私にしか描けないものはなんだろう……と考えた結果、ベトナムを舞台にすることにしました。作品を通じて、ベトナムの魅力をもっと大勢の人たちに知ってもらえたらな、と」

『リトル・ロータス』コマ
就職内定先に断りを入れてまで、異国の地でセンと生きていくことを宣言する俊介

 本作は、大学生である主人公の桜井俊介が、入院中の祖父から「ある秘密」を打ち明けられ、ベトナムに住むいとこ・センに会いに行くシーンで幕を開ける。しかし、俊介に対しそっけない態度をとるセン。やがて俊介は、彼女が抱える孤独を理解し、ベトナムの地でともに暮らすことを提案する。

 血縁関係にありながらも初めて会ったふたりは、少しずつゆっくりと心を通わせていく。そのストーリー展開は、読者の目に温かい涙を誘う。

「たとえ人種が異なっていても、国境を越えて通じ合うことができるのは確か。決して押し付けがましいメッセージ性を込めるつもりはありませんが、私なりに作品を通して何か伝えることができれば、と思ったんです」

 

ベトナムのリアルを丁寧に描いていきたい

 西浦さんが作中に仕込んだスパイス、そのひとつが料理の描写だろう。フォーや鶏粥、ベトナム風チャーハンなど、登場する料理がどれも実に美味しそうなのだ。俊介やセンが笑顔を浮かべながらそれらを平らげる様子を見ているだけで、思わず喉が鳴ってしまう。

『リトル・ロータス』コマ
俊介が初めてセンに手作りのご飯を食べさせるシーン。料理を通じてふたりは心を通わせていく

「ベトナムの魅力を知ってもらううえで、まず描きたかったのが料理なんです。ベトナム料理は本当に美味しくて。母が食卓に並べていた料理を思い浮かべながら、その味や匂いが伝わるように描きました」

 さらには、日本では見られない、ベトナムならではの常識やマナーも描かれる。

「ベトナムのレストランではおしぼりが有料であることや、食器はまずキレイに拭いてから使うことなど、日本には存在しない常識を自然と理解できるように入れ込んでいるんです。私にとっては普通のことなんですけど、ベトナムのことを知らない日本人にとってはきっとビックリすることばかりのはず。でも、ベトナムを紹介するうえでは、細部を正確に伝えなければいけないと思ったんです」

 その細部を突き詰める姿勢は、取材姿勢にも現れている。

「実は連載にあたって担当さんとホーチミンに取材に行ったんです。目的は二つあって、一つは資料写真を撮りに行くこと。もう一つは、担当さんに日本とベトナムのギャップを感じてもらうことでした。日本もベトナムも知ってる私では先ほどお話しした日本人にとってビックリすることがなんなのか、今ひとつ分からない部分があったんです。でもベトナムを知らない担当さんがどういうところに驚くのかが分かれば、それを作品でも活かせるかなと思って。実際にこの取材で得られたことが、作中にかなり反映されています」

 自らが持っている知識と、取材で得られた経験の積み重ねにより、本作にはリアリティが生まれている。そしてそれが、読者の興味をそそるのだ。

 

新人離れした画力の高さ その原風景にあるもの

 西浦さんは、デビューしてまだ一年足らず。しかしながら、その画力の高さには舌を巻く。中でも西浦さん自身、キャラクター造形には特に力を込めたと話す。

「センは、ベトナムの伝統衣装でもあるアオザイが似合うような、黒髪ロングの子にしたかったんです。それでいて、芯のある素直でしっかりした子に見えるよう意識しました。俊介に関しては、とにかく平凡な青年にしたくて。一組の男女が主人公となると、男性側もどうしても華やかなキャラクターになりがちですよね。でもそうじゃなくて、ごく普通の青年にしたかった。普通の青年が、ひとりの少女のためにベトナムで暮らすことを決意する。そのギャップを見せたかったんです」

『リトル・ロータス』コマ
ベトナムに来た目的をセンに告げる俊介。アオザイを着たセンと、普通の日本人青年である俊介。西浦さんのキャラクター造形へのこだわりが凝縮されたひとコマ

 西浦さんは、マンガ家を志す前、幼少期の頃からひたすら絵を描いていたという。

「保育園の頃からとにかく絵を描くことが大好きで、暇さえあればずっと描いていたんです。その頃はマンガというものの存在も知らなかったんですけど、ただ絵を描くことが楽しくて」

 やがてマンガという表現方法と出会った少女は、様々な要素を自分の絵に取り入れていく。

「最初にハマったのは少女マンガでした。小学生の頃は自分でも恋愛マンガを描いたりして。中学生になる頃には少年マンガを読むようになり、王道ファンタジーから始まってダークファンタジーも好きになりました。他にもアメリカのカートゥーンや海外アニメ、洋画など、興味のある分野が年々増えています。もっと様々なジャンルの作品を知って、学んでいけたら良いなと思っています」

 西浦さんはベトナムと日本のカルチャーを併せ持つだけでなく、幅広いマンガのエッセンスをもミックスさせているのかもしれない。
 そして最後に、本作のタイトル『リトル・ロータス』について。これは直訳すると、「小さな蓮」。西浦さんはここに大きな意味を込めたという。

『リトル・ロータス』コマ
『リトル・ロータス』コマ
リトル・ロータスという店名と、センの名前の由来。国境を超え、蓮という言葉に込められた思いがセンと俊介を結びつける。祖父の想いに触れたセンの目からは、とめどなく涙があふれる

「蓮はベトナムの国花なんです。飛行機の機体やレストランなんかにもデザインされていることが多くて、ベトナムを歩けばいたるところで目にします。そして、蓮はベトナム語で“セン”と言うんです。この作品は、少女であるセンの物語。だから、タイトルを『リトル(小さな)・ロータス(蓮)』としたんです。ちなみに、俊介の名字を桜井にしたのは、桜が日本の国花だから。それぞれの国花をキャラクターの名前に冠することによって、日本人とベトナム人の物語であることが強調できればと思ったんです」

 タイトルやキャラクター名に込められた思い。その手腕は、もはや新人離れしている。

「いろいろ工夫しながら描いてはいますけど、まだいっぱいいっぱいで。でも、まずはひとりでも多くの方に読んでいただきたい、それだけしか考えられていません。誰かに影響を与えられるだなんて思ってもいなくて。ただ、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです」

取材・文=五十嵐 大