夫に家事や育児の大変さを分かってもらうには? 『妻は他人 ふたりの距離とバランス』の著者が夫婦の悩みに回答

マンガ

更新日:2018/11/26

 夫婦円満や人付き合いの秘訣を独自の視点で説くコミックエッセイ『妻は他人 だから夫婦は面白い』(KADOKAWA)、『人は他人 異なる思考を楽しむ工夫』(KADOKAWA)が話題の漫画家・さわぐち けいすけさん。Twitterフォロワー数20万を超え、「ダ・ヴィンチニュース」で連載中の4ページコミック『人は他人 異なるからこそ面白い』も共感できる、対人関係の参考になると反響が大きい。そこで、最新刊『妻は他人 ふたりの距離とバランス』(KADOKAWA)の話を聞きつつ、編集部に届くアラサー男女のお悩みをぶつけてみた。

『妻は他人 ふたりの距離とバランス』

■じっくり話を聞いて、悩みの「前提条件」を整理してみる

──30万人以上が共感(いいね)した「好き、より嫌いな部分を共有する話」を収録。90ページ以上の描き下ろし漫画と合わせて書籍化した、『妻は他人』シリーズ最新刊『妻は他人 ふたりの距離とバランス』が発売となりましたが、今回の作品に込められたテーマがあれば教えてください。

さわぐち けいすけ氏(以下、さわぐち):エッセイ全体を通して「人はそれぞれ異なるもの」という前提のもとに日常の出来事を描いてきましたが、あくまでも「私個人の話」なので、そこに明確なテーマやメッセージはあえて盛り込まないようにしています。単なる事実を描くだけでも、「こういう人もいるんだ」と参考にしてくれる人がいます。

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 賛否は別としても、私の漫画にコメントをつけてリツイートしたりシェアしたりすることで、ご自身の考えを表現するツールとして活用してくださる方がいるだけでも、苦労して描いた甲斐があったなと思います。

──日常に埋もれがちなものや目を背けてしまいがちなお悩みと、さわぐちさんならではの対処法が4ページ1話で展開されていますが、こうした「かゆいところに手が届く」アイディアはどこから思いつくのでしょうか。

さわぐち:私のエッセイは主に「日常の導入」と「ちょっと気になるトラブルやアクシデント」「共感や気づき、読後感の良い締め方」の3つの流れでまとめているのですが、じつは描くことをひねり出すのにものすごく苦戦しているんですよ。

 日々の生活の中では、そう頻繁にトラブルも起きませんから。どうあがいてもしぼり出せそうにないときは、推理小説や自然科学の本など、エッセイ以外の本を読むようにしています。たとえば、怖い話や残酷な史実を読むことで日常の小さな幸せを感じたり、脳科学の本を読んで思考の違いをすんなり受け入れられたりすることもあるので、読書はいい刺激になりますね。

──独特な視点で綴られるアドバイスも、本シリーズの大きな魅力です。

さわぐち:漫画だとアドバイスをしているように見えるかもしれませんが、実際は「アドバイスをしない」ようにしています。私が思うに、お悩みのほとんどは前提条件が間違っているだけなんですよ。だからなんらかの相談を受けたときも、じっくり話を聞いて、言われたことを整理するだけで意外となんとかなると思います。

──理路整然と説かれると反発したくなるかもしれませんが、前提条件を見直すだけならすんなり受け入れられそうですね。この機会に、読者のお悩みについてもアドバイスをお願いします。

■家事・育児の大変さを夫にわかってもらうには?

家事や子育てを、自分ではやらないくせにダメ出しをしてくる夫にイライラ。家事労働の価値や子育ての大変さをわかってもらうにはどうしたら良いですか?
相談者Aさん(33歳・女性)

さわぐち:Aさんのお悩みは、エッセイストの黒川伊保子さんが書いた男性脳と女性脳にまつわる本を読むと参考になるかもしれません。簡単にいうと、男性と女性のすれ違いは脳の仕組みの違いから生じるものなので、相手に理解させようとか、相手をコントロールしようと考えても、なかなかうまくいかないでしょう。

 たとえば、冷蔵庫を開けたとき、その中身を男性は3次元として、女性は2次元的に見る傾向にあるといいます。目的のものを探し出す能力に長けているのは、画像として捉えられる女性です。一方男性は、肝心の食材を探し当てる前に、奥の方から賞味期限切れのものを見つけてきたりすることがありませんか。これはただの一例で、男女の脳はあらゆるシーンで違う働きをするんだそうです。

 Aさんご夫婦の場合、旦那さんはダメ出しをしたい。奥様は大変さを理解・共感してもらいたい。その2つの単なるぶつかりあいになってしまっているように思えます。

 計画性を好む男性なら、「10分でいいから反論なしで話を聞いてほしい」と切り出すことで、理解が得られる可能性があります。それが通用しなかったとしても、相手をじっくり観察することで、適切な伝え方やタイミングが見えてくることがありますよね。できれば、感情的に相手に理解を促すのではなく、一歩踏み込んで行動してみてください。

■自分の「努力の方向性」を確認してみよう

──お次は義理の両親との関係にまつわるお悩みです。

どれだけ努力しても認めてくれない義理の両親。今年も帰省するのが不安です。何かアドバイスを。
相談者Bさん(29歳・女性)

さわぐち:「どれだけ努力しても」の努力の部分が、義理の両親のためになっていれば、ちょっとの努力でも認められると思います。とはいえ、蛇口を逆にひねっても水が出ないように、努力が空回りしていたら、どんなにがんばっても報われない可能性があります。まずは、その努力が何のための努力なのか、方向性は間違っていないかを確認する必要があるのかもしれません。

「どんなお土産を持っていっても喜んでもらえない」「手伝いをしても認めてもらえない」という場合は、相手の好みや希望をやんわり引き出すのも手。努力と評価の帳尻を合わせるのは難しいことです。闇雲にがんばり続けるよりは、早い段階で考え直した方があとあと楽だと思いますよ。

『妻は他人 ふたりの距離とバランス』

■結婚や子どもについて聞いてくる親戚には…

──親戚の何気ない言葉に傷ついている人もいます。

「結婚しないの?」「子どもは?」「子どもができたらわかるわよ」といった、親戚や義理の両親の何気ない言葉に傷ついてしまいます。何か対策はないでしょうか?
相談者Cさん(34歳・女性)

さわぐち:子供がいる人にとって子育ては苦労や喜びの詰まった重大な経験であることがほとんどだと思います。これまでの人生の中で気軽に語れる話題であり大きな意味を持つ話題とも言えます。逆に言えば「ほかに語れる話題が少ない」とも考えられます。Cさん自身が語ることのできる話題が「今までで一番苦労したこと・うれしかったこと」などであれば想像しやすいかもしれません。

 どうしても傷つく場合は無理してでも避けるのが手っ取り早いですが、避けられない場合は相手の意図を冷静に想像してみると違った形で受け取れる、あるいは受け流せるかもしれません。

『妻は他人 だから夫婦は面白い』

■妻が怒り出すのは「突然」のこと?

──いつも奥さんを怒らせてしまうという男性のお悩みも。

妻の突然の怒り…どこで怒らせているのかわからない。一度機嫌を損ねてしまうと、こちらが何を言っても火に油を注ぐだけ。せめて週末や大型連休中くらいは穏やかに過ごしたいのに…。どうしたら良いですか?
相談者Dさん(30歳・男性)

さわぐち:人が怒るのには必ず理由があります。「靴下が脱ぎっぱなし」といった男性から見たら取るに足りないような問題も、再三指摘しても改善されず、同じようなイライラが複数積み重なれば大きなストレスになり得るのです。あるとき突然過去のことを思い出して怒り出す女性もいるかもしれませんが、元を正せばご主人に非がある可能性も。まずは「突然怒り出す」という前提を見直す必要がありそうです。

 穏やかな休日を過ごしたいのであれば、怒らせる前に奥さんの話に耳を傾けてみてください。合点がいかない場合もあるかもしれませんが、どこがどうわからないのか、相手が何を望んでいるのか、しっかり話し合うことが大切だと思います。

 車でもパソコンでも電化製品でも、故障を防ぐためのメンテナンスが必要ですよね。夫婦間も同じ。できればふたりの雰囲気がいいときに、会話の機会を設けて、こまめにメンテナンスをするといいんじゃないでしょうか。口に出して言わなければわからないこともたくさんありますから、ときには言い方に気を配って、思いを伝えてみてください。体調面や気持ちの面で気分があがらないときは、「今日は放っておいてほしい」と素直に伝えるのも手だと思います。

 夫婦などの共同生活は、場合によっては互いが相手を拘束しているような状況にもなり得ます。奥さんといる時間が一番長いからこそ相手の時間を縛っているという自覚を持つことも大切なのだと思います。

『妻は他人 だから夫婦は面白い』

■出不精の夫に対して、妻ができることは?

──最後はご主人を心配する奥さんからの相談です。

年々出不精になる夫。仕事が忙しいのか、これといった趣味もなく、休日に外出することを極端に嫌います。太って服が合わなくなるのも気になりますが、生活習慣病のリスクも心配。外へ連れ出すにはどうしたら良いですか?
相談者Eさん(36歳・女性)

さわぐち:Eさんの場合も、お悩みの前提を見直す必要がありますね。体調管理はご主人が自分でやるべきことです。心配したところで、奥さんに管理できる問題ではないと思います。

 ご主人は今、出不精で運動不足になっているのかもしれませんが、逆に筋トレにハマりすぎてムキムキになったり、登山などの趣味を見つけて毎週末雪山にこもるようになったりしたら、Eさんはまた違った心配に明け暮れることになると思うんですよ。

 そもそもEさんは休みの日に何をしているのでしょうか。家に引きこもるご主人の心配をしたり、世話を焼くことが趣味みたいになってはいませんか? TVを見ながら「勉強しなさい」と言っても子どものやる気を引き出せないように、家にいながら外出を促す奥さんの言葉はご主人には響かないでしょう。

 心配しているだけでは、状況は変わりません。まずは奥さんが外へ出て、趣味を見つけてはいかがですか? 奥さんが率先して家から出れば、ご主人も「最近奥さんが楽しそうに出かけていくから、自分も一緒に外出してみようかな」という気持ちになるかもしれませんよ。

取材・文=村岡真理子