高校演劇なのに体育会系!? 原作・生田善子が語る、まったく新しい部活漫画『暗転エピローグ』

マンガ

更新日:2018/11/27

生田善子

 

存在さえ知らなかったような部活が漫画やアニメになる中で、誰もが知っているのになかなか描かれていない部活がある。それが演劇部! そこには演劇部員にしか知り得ない、汗と涙のにじむ日々があって——。

演劇の強豪校が競う“高校演劇”をテーマにした漫画『暗転エピローグ』(漫画/パイン、キャラクターデザイン/Tiv)がこのほど刊行された。原作を務めたのは声優の生田善子さん。実際の体験をもとにしたという原作の誕生秘話などを語ってもらった。

 

演劇部時代はわかりやすく怖い先輩でした

――『暗転エピローグ』の舞台となるのは所沢にある百澤高等学校。コミックの発売にあわせて“百澤高校演劇部ジャージ”が作られていたとは…。

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生田 そうなんです。ゆくゆくは、漫画を買ってくださったみなさんがジャージを着て、イベントなどに参加していただけたら楽しいだろうなと思いまして。

――コミック、ついに刊行されましたね。電撃マオウでは連載されていましたが。

生田 コミックになってる!って素直に感動しました(笑)。原作を書いた実感がなかなか湧いていなかったので。どこまでリアリティを追求して、どこまで漫画としての面白さを打ち出すのか悩んでいましたけど、それがいいバランスの漫画に仕上がっていてうれしかったです。

――やはり、原作を書く時に、絵になることを意識したということですか?

生田 そうですね。特に、主人公のいちかが持つ演技の才能をどう表現するかっていうのが難しいところで。漫画としての面白さを考えた結果、最初の登場で少女漫画を音読しながら涙を流すシーンを入れました。本当は、役者だったらすぐに涙を流せる人はたくさんいるんです。でも、他の方から見たら「漫画の音読で涙が出るなんて、この子はすこし違うぞ」っていうことになるんじゃないかと。結果、惹きのあるシーンになったと思います。

 

暗転エピローグ

暗転エピローグ

暗転エピローグ

暗転エピローグ

 

――キャラクターはどのようにして生まれたのですか? いちかを始め、百澤高等学校演劇部には個性あふれる面々が揃っていますね。

生田 完全オリジナルキャラは、いちかだけで、他のキャラにはみんなモデルがいるんです。いちかは、やっぱり読者のみなさんが一番共感するキャラクターだと思うので、誰もが「頑張れ」って応援したい気持ちになって、同じ目線で成長していくことを意識しました。もともと才能を持ってる特別な子なんだけど、それが嫌味にならないように。

――細かいですけど、メガネは生田さんがリクエストを?

生田 そうです。いちかが持つ幼少期のトラウマみたいなものに関係してます。単に視力が悪いということではなく(笑)。

――そのほかのキャラクターも個性的だけに、モデルがいることに驚きを覚えます。

生田 になは、小動物のように可愛らしいのに毒舌な先輩がいましたし。大道具のさんちゃんも強烈ですけど、同級生にこういうタイプがいたんですよ。普段はふわふわっとしてお嬢さんっぽいのに、道具を持つと「オラーッ!」ってなる。セットの寸が違っていて組めないってなった時に「バカ、バカ!」ってセットに頭を打ち付けて、タンコブを作っていました(笑)。それくらい、実際の高校演劇にもキャラクターの濃い人が集まっているんです。

――そのまんま漫画のような方ですね(笑)。生田さん自身はどのキャラに近いですか?

生田 私は……誰にも重ねられないかもしれないですね。オリジナルキャラがいちかだけって考えた時に、自分とはかけ離れているので。いちかの最大の魅力であるピュアさとひたむきさを、私は高校生の時でさえ持ちあわせていなかった(笑)。ネガティブな要素は似ているかもしれませんけど。立場的には、部長で、脚本・演出・主演を担当していたので、にな先輩のようなポジションでした。

 

暗転エピローグ

暗転エピローグ

 

――にな先輩のように、アメとムチのようなギャップは…。

生田 ギャップはなかったかもしれませんけど。わかりやすく怖い先輩だったと思います。高校演劇の大会で他校の生徒が書く「感想ボード」みたいなのがあったんですけど、「作者についてどう思いますか?」っていう質問で、「生田さんですか?怖いです」と書かれていて、脚本とは関係ないじゃん、って(笑)。

――なんだかイメージと違いますね(笑)。やはり演劇となると熱が入る?

生田 入りますね。気を抜くと怪我をしやすいんですよ。そういうイメージがないかもしれませんけど。特に1年生とか、本番前にテンションが上がってフワフワしているから。セットが倒れると骨折することもあるので、落ち着かせるためにピシッとした人が必要、っていうのはありましたね。

――文化系なのに意外に体育会系っていうのも漫画で描かれています。

生田 体力をつけるために基礎練と走り込みをやってました。全国大会って一日に何校も上演するから特殊なルールが多くて、セットの建て崩しと仕込みを30分くらいでしないといけないんです。プロだったら一日かけるようなことですけど。一人で木材を持つから筋肉が必要で、筋トレも大事になってきますね。

――生田さんも校庭を走っていたんですか?

生田 毎日10周、4キロくらい走ってたと思います。それに腹筋と背筋も。

――ハードですね。思っているようなキラキラした世界じゃない、というのは漫画も出てくるエピソードで。演劇部のネタは、実体験からどんどん湧いてきましたか。

生田 ネタに困ることはなかったですね。逆に、自分の中では当たり前だと思っていたようなことを編集さんとかに「そうなの?それ、面白いね」って言われて、盛り込んだこともあります。

 

演劇は自分のルーツ。いろんな方向から盛り上げていけるとうれしい

生田善子

いくた・よしこ●岡山県津山市出身。女優、声優、漫画原作者。現在、TVアニメ『逆転裁判 ~その「真実」、異議あり!~Season 2』に須々木マコ役で出演中。12月5日(水)から『志士たち~明治維新に主役なし・・・あるのは魂のリレーのみ~』、12月18日(火)から『ライナスの毛布』と舞台出演も続く。Twitter:@lunchpackgirl
 

――そもそも、高校演劇をテーマにした理由は?

生田 同じ文化部でも、吹奏楽部ってドキュメンタリーで全国大会の強豪校が追いかけられて、思ったよりも体育会系で大変、とかって共感されたりするじゃないですか。でも、同じようなことをやっている演劇部は全然ピックアップされない。大会っていっても、何やるの?って。それが悔しかったので、知ってもらうためにも読みやすい漫画にできたらいいな、というのがずっとありました。高校演劇の全国大会って各ブロックから選抜されるから、全国12校くらいしか出られない。2000校くらいから勝ち抜かないといけないので、甲子園よりも狭き門なんです。

――それが「電撃マオウ」に連載されることになって。

生田 高校演劇の実情をお話ししていたら、面白そうだね、全然知らなかったって編集の方が興味を持ってくださって。それからあれよあれよと話が進んで、話がまとまっていきました。ただ、漫画の原作というのが初めての経験だったので、企画が漫画になるまでは意外と時間がかかるんだな、という実感はありました。今では、自分が3年間頑張ってきたことを認めてもらえたようでうれしいです。

――『暗転エピローグ』の影響で演劇部員が増えたらいいな、とも。

生田 バスケ漫画が流行るとバスケ部員が増えるのと同じように、『暗転エピローグ』のコミックが発売されることで演劇部員の入部数が増えたらいいなと。演劇って何?ちょっと難しそうっていう人にも、演劇のことを知ってほしいです。映画に比べてチケット代が高いし、劇場に行くまでのハードルがちょっと高いけど、そこには関わる人たちの努力がいっぱい詰まっているんです。

 

暗転エピローグ

暗転エピローグ

 

――生田さんが思う演劇の楽しさとは?

生田 やっぱりライブ感ですね。舞台って二度と同じものはできない、瞬間のきらめきみたいなもの。まず稽古期間が長いんですよ、高校演劇だと秋の大会のために夏休みをすべてかけて練習するんです。なのに、地区大会で県大会に推薦されなかったら一回で終わり。だけど、そのきらめきみたいなものが魅力かなって思います。

――ご自身はこの作品で、漫画の原作者という肩書きが増えましたね。

生田 私のルーツは演劇から始まっていて、それがお芝居や声優といった表現につながっているので、自分のルーツである演劇をいろんな方向から盛り上げられるのはうれしいことです。

――大変ではない?

生田 大変ではない、気がします。私は、わりと何でもこなせるけど突出したことがないっていう悩みを抱えたまま大人になってしまったんです。でも、『暗転エピローグ』ではいろんなことを少しずつやりながら作品を盛り上げていける。むしろコンプレックスがいい方向に向かっていて満足しています。

――『暗転エピローグ』でこれから挑戦したいことは?

生田 演劇モノなので、舞台化はマストでやってみたいです。その後にアニメやイベントなどの展開があったらいいなと。ジャージ姿の黒い集団から舞台衣装の華やかなところまで、見た目の変化も描けるので、きっと舞台としても楽しんでいただけると思います。

 

取材・文:吉田有希 写真:岡村大輔