意識的に「攻めた」最新シングルと、ベストアルバム以降に見えた景色を語る――LiSAインタビュー(前編)

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更新日:2020/10/13

 TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のオープニング映像は、実際かなり衝撃的だった。こんなに熱くなれるオープニングが、かつてあっただろうか。この《アリシゼーション》編より、スタッフも新たな陣容でスタートした『SAO』だが、OP映像を観るだけで、作品に注がれた熱量が十二分に伝わってくる。そして、躍動する映像をさらに加速させているのが、LiSAの両A面シングル『赤い罠(who loves it?) / ADAMAS』(12月12日リリース)の“ADAMAS”だ。“crossing field”“シルシ”“Catch the Moment”を経て、LiSAは『SAO』を「仲間」だと形容していた。“ADAMAS”は、その「仲間」を力強く牽引していく「誓いの歌」である。作品に対する自身の立ち位置を自覚し、さらに踏み込んだ“ADAMAS”によって、我々聴き手とLiSAの絆はより強固なものになる。

 今回は、『赤い罠(who loves it?) / ADAMAS』のリリースを機に、4つのテーマを設定してインタビューを行った。前編は、『SAO』と“ADAMAS”のこと、そして10月にスタートしたホールツアーを振り返る。会場にいた方はご存じの通り、ホールツアーの後半、LiSAのコンディションは万全ではなかった。そのときLiSAは何を思っていたのか、彼女を奮い立たせたものとは何だったのか――。“ADAMAS”の「誓い」にも通じる、LiSAの覚悟を感じてほしい。

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完璧なライブができたら超最高だったけど、そうじゃなくてもみんなと超えられる今日があるって思った

――この取材は11月中旬に行なっているので、まずはこれを訊かないといけないかな、と思います。今。調子はどうですか?

LiSA:だいぶよくなりました。ホールツアーの『[core](LiVE is Smile Always~ASiA TOUR 2018~[core])』は東京公演まで超無敵モードで、まったく体調も崩してこなくて。逆に、少し体調が悪くても、その中でパフォーマンスはできていたし、自分の身体との付き合い方がすごくよくなってきたなあ、と思っていたんです。自分のギアの入れ方というか、コントロールがうまくできるようになってきたと思った矢先で、「まだ大丈夫、まだいける」って思いながらやった、東京の2日間でした。

――今の話に出た「無敵モード」について詳しく聞きたいです。

LiSA:やっぱり、ベストアルバムを発売したことが、LiSA史の中にすごく大切なことで。プロフィールとして、大事な歴史を刻んだ感じがありました。「ベストアルバムが出せるまでちゃんと活動してこられたんだ」っていうことと、「みんなのパワーが集まった曲たちがいっぱいあったんだなあ」っていう実感を持って、ベストアルバムのツアーに臨みました。ツアーも、『[eN](LiVE is Smile Always~ASiA TOUR 2018~[eN])』でみんなと一緒にすごい景色を作って、「もう最高!」ってなって(笑)。その後で海外に行ったら、海外でもすごくライブに来てくれる人が増えて、全部大きな会場でやらせてもらって。みんなが“Catch the Moment”を歌う景色を見て、前回のアジアツアーでは「アニメの力ってすごいなあ」って実感させられることがあったんですけど、今回は自分のことを待っていてくれる人たちがたくさんいることを感じました。

 ホールツアーは、初日から「これがファイナル」って思うくらい、すごくいいツアーで、それはベストアルバムの曲たちであるということと、近い距離感で自分の言葉と歌で伝えて、ホールでやってきたことのベストなライブができてる感覚がありました。選曲も、今まではアルバムを発売した後に「アルバムの曲を遊ぶぞ」っていうツアーをしてたんですけど、今回はみんなと重ねてきた歴史だったり、曲自体にも思い出がいっぱいあったので――わたしの中ではエモいツアーです(笑)。

――(笑)ホールツアーが無敵な状態で始まって、だけど東京公演の2日間は体調のこともあって、かなり苦しいパフォーマンスになってしまった。それは悔しさもあっただろうし、同時に、ツアーの前半が無敵だっただけに、万全の状態でライブができることの幸せを感じたんじゃないですか。

LiSA:ほんとにそのとおりですね。ホールツアーの前半は「音楽、楽しい!」みたいな感じで、自分が今までやってきたことだけじゃなく、みんなとの信頼関係も含めてスタートラインが高い状態から始まったライブが続いていて。わたしはずっと、ライブ当日まで自分に対しての不安があったから、加速が始まる最初の地点は、もう少しだけ低かった気がします。で、実は東京公演の2日前まで、まったく声が出なかったんですけど、そのときに「わたし、また人に迷惑かけちゃう」って思って。でも今までとちょっとだけ違ったのは――最初はやっぱり、自分のことがすごく嫌いになったんです。「他の人はたくさんライブをして、ツアーも最後までできるのに、なんでわたしはそれが満足にできないんだ」って落ち込んで、一回自分を責めたんですけど、それでも「当日まで、まず自分を信じることから始めなきゃ」って頭を切り替えて。「今できることを精一杯やろう」「なんとか2日間やり切りたい」って思ってました。正直、東京は1日目のほうが怖くて。東京の2日前にしゃべれるくらいになったんですけど、1日目の反省点を挙げるとしたら、しゃべりすぎました。今まで、自分の思いをしゃべりすぎたから、神様に「お前、最近ちょっとしゃべりすぎだぞ」「思いはそうやって届けるんじゃないぞ」って言われたというか(笑)。

――(笑)想いを伝えるなら歌でやれ、と。

LiSA:そうそう。「大事なことだけをちゃんと伝えなさい」って言われたのかなって思いました。東京の1日目は、一回声が出なくなったことも言えなくて。もちろん、わかる人にはわかるし、いろんな人が力を貸してくれるかもしれないけど、自分で「ダメだった」とは言えなかったし、その日を最後まで駆け抜けられることへの感謝しかなかったです。で、やっぱり自分が歌う意味として、みんなが楽しんでくれたり喜んでくれたり、自分のことを好きになったり明日を信じられたりする、そういう音楽をやりたいなって思いました。だから2日目も、精一杯やることがLiSAとして大事なことだなって思って。もちろんそれが完璧だったら超最高だけど、自分にできる精一杯をやるのがLiSAの姿なのかなって思いました。

――東京の2日目は、会場の全員が「今日、調子が悪いんだな」ってわかっている空気だったけど、むしろそれでガッカリするよりも、客席が「自分たちが盛り上げてやろう」っていうモードになっていく感じもあって。それはとても心強かったですよね。

LiSA:はい。その信頼関係に甘えてしまったというか、信じていたというか。いろんなことを思う人がいるだろうし、完璧なライブができたら超最高だったけど、そうじゃなくてもみんなと超えられる今日があるなあって思ったので、ライブを最後までやり切らせてもらいました。

“ADAMAS”は、みんなの期待をいい意味で壊したかった

――最新シングルの両A面、“赤い罠(who loves it?)”“ADAMAS”は、どちらもだいぶ攻めてる曲、チャレンジを感じさせる曲になりましたね。

LiSA:はい。まず“ADAMAS”は、『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のオープニングをやらせてもらえることになったときに、もちろん誠実に向き合うことと、LiSAがまた『SAO』のオープニングをやるという責任感もありつつ、みんなの期待をいい意味で壊したかったんです。なんだろう、「LiSAといえばこれだよね」ではなく、もっとこう、新しいアニメにワクワクする感じをやりたくて――だから、攻めモードというか(笑)。アニソンではあるんだけど、アニソンと自分が積み重ねてきたロックの進化形を、ちゃんとやらないといけないなって思いました。

――実際、LiSA×『SAO』の組み合わせでは、ある意味“Catch the Moment”で完成形を見た気がしてたんですよね。だけど、“ADAMAS”は全然違う新しい価値観を提示して、さらに楽しめる曲を提示できている。新しいことができた手応えもあるだろうし、『SAO』にもたらせたものも大きいんじゃないかな、と。

LiSA:新しいスタッフの人たちが『SAO』を作るってなったときに、みんなの期待を背負って新しいことを新しい人が始める、そこでワクワクを届けるって、すごく大変なことだなって思ったんです。そう考えたときに、わたし自身も責任や覚悟を背負ってこの曲を作りたいと思ったし、逆に「この楽曲に『SAO』の絵をつけて!」って思った(笑)。たぶん“ADAMAS”って、アニメからするとちょっと重たいと思うんですよ。《アリシゼーション》編でわたしがオープニングを担当する1クール目って、劇的に重い話ではなくて、それが解き放たれていくのは後半戦なんですけど、最初の主題歌をやるということは、お話全部の印象を全部背負うということだなって思ったから、全体の責任を背負ってテーマ曲を歌わなくちゃいけないなって思ってました。

――“Catch the Moment”のときに「『SAO』は仲間である」という話があったけど、“ADAMAS”に込められた仲間という言葉の意味合いは、“Catch”とはちょっと違う印象がありますね。

LiSA:そうですね。それこそ“crossing field”や“シルシ”の頃は、わたしよりも『SAO』のことを熟知してる人、愛してる人たちがいっぱいいて、そこに自分も関わらせてもらう感覚のほうが強くて。“Catch the Moment”で、やっと同じ立ち位置で皆さんと一緒に作らせてもらう感覚があったんですけど、《アリシゼーション》もみんなと同じ目線で、さらに引っ張っていく感覚でやらせてもらいました。連れていく感覚というか。

――実際、“ADAMAS”には仲間を引っ張っていく感じがあって、《革命》という歌詞もある通り、引き連れて前に進んでいく意志の力強さが宿った曲だと思います。だけど、東京公演でもうひとつの意味が生まれたんじゃないかな、とステージを観ていて思ったんですよね。引っ張っていくんだけど、後ろから押してもらうことで、“ADAMAS”はさらに力を増すんじゃないかな、と。ステージ上でも、そういう感覚はあったんじゃないですか。

LiSA:はい。歌詞では《孤独はつきものさ》って言ってるけど、“ADAMAS”を書いてるときにイメージしていた景色って、ジャンヌ・ダルクが戦っていく姿で、それって自分が戦って強くなるためじゃなくて、みんなと幸せになるために戦うんですよね。だからわたしが思い描いていた“ADAMAS”は、ジャンヌ・ダルクがひとりで旗を掲げている絵ではなく、後ろにはみんながいて。自分だけの勝利や自分だけの幸せのための歌ではなくて、みんなとの誓いの歌です。みんなが幸せになる国作りというか(笑)。よりよい世界にするために、みんなを巻き込みにいくような感覚でした。

――そういう意図を感じるだけに、歌詞もすごくいいなあ、と思って。

LiSA:ありがとうございます。いやあ、でも「ADAMAS」っていう言葉を最初に思いついたときに、「これはもうダイヤモンドだなあ」って思いました。ダイヤモンドを調べれば調べるほど、ぴったりなんです。

――結晶体だから?

LiSA:そうそう。ダイヤモンドって、炭素の塊じゃないですか。マグマの中で奇跡的にくっついて、やっとダイヤモンドになる。だけどそれが発見されるまでにめちゃくちゃ時間がかかるし、削っていくのもすごく大変だし。ダイヤモンドを傷つけられるのはダイヤモンドだけで、本物にしか傷つけられない。偽物なんかには傷つけられないほどの強さがあって。大変なことを超えてきたからダイヤモンドは輝けるんだなあって考えたときに、素晴らしいなあって思いました。

――歌詞の中でも《DiAMOND》は象徴的に使われているけれども、《僕ら使命を誓う それぞれの光を目指していく》の一節もすごく響きますね。これはやっぱりライブの風景そのものじゃないですか。

LiSA:そうですね。

――LiSAのライブ空間はやっぱりそういう場所なんですよね。《それぞれの光を目指していく》のは、ライブの場で一緒に目指してるときもあるし、ライブから日常に帰っていって、ひとりひとりが日々の中で楽しいと思うことや頑張りたいことを見つけて進んでいくことを示してるというか。

LiSA:そうそう。ほんとに、そのとおりです。ライブの場でみんなが過ごして幸せになったら終わり、じゃなくて、そこでみんながハッピーになった気持ちを外に持っていく。これは昨日思ったことで――秋山木工っていう木の家具屋さんがあって、みんな職人になるためにそこに入るんですけど、めちゃくちゃ厳しい学校みたいな場所で。毎朝掃除をして、外への連絡も禁止。職人になるために集中する、だけど親を大事にする、みたいな心得がいっぱいあって。そこの本を読んでいて、人を育てていく、人を愛することって、人を理解することなんだなって思ったんです。

 せっかくひとりひとりが違うドラマを歩いてきたんだったら、その人にしかできないことが絶対にあるんですよね。その人が得意なことと不得意なことがあって、だけどその人にしか起こせない革命もある。ライブに集まってくれた人たちは自分の使命を背負って、自分なりの楽しいことを見つけたり、今できることを精一杯やることができたら、とっても素晴らしいなあって思いました。“ADAMAS”は、そういう歌にしたかったんです。ジャンヌ・ダルクも「わたしのために戦って」ではなくて、「みんながそれぞれ幸せに生きていくために戦いましょう」だと思うんですよね。ジャンヌ・ダルクがいたら、それを支える人たちがいっぱいいて、その人たちにはそれぞれの役割があって、よりよい日を作るために戦ってる。誰かを喜ばせたり、よりよいものを作りたいって思いながら、みんなが自分の使命を誰にも折られずに信じて貫くことができたら、もっとすごい世界になるなって思って、“ADAMAS”を作りました。

――後押しする力が加わると、より硬質なもの、バラけないものになる。“ADAMAS”がそういう曲だということを、ライブの光景が証明してくれた感じもあるというか。引っ張っていくだけではなく、実はしなやかな力強さもあるし、一言で言うなら「ひとつになれる曲」なんですよね。

LiSA:そうそう。

――“ADAMAS”は、配信でリリースした時点からすでにたくさんの人に聴かれてるじゃないですか。ここまで話してくれたような気持ちを持って作った曲が、わりと早い段階で浸透した、広く届いたことにも勇気をもらえただろうし、想像していた以上にちゃんと伝わることも実感したんじゃないですか。

LiSA:そうですね。そういう意味で、結果が残ったことは大前提として、みんなのことをすごく信用しています。みんなと一緒にこれを歌って、世の中に戦いに出ていけたら、無敵になれるなって思っていた曲が、たくさんの人に受け取ってもらえたという意味では、自分の仲間がすごく増えたんだなあっていうことを実感します。それはやっぱりひとつひとつの積み重ねで、一緒に戦ってよりよい世界を作るための仲間が増えたんだなあって、今はすごく感じてます。

インタビュー後編は12月12日配信予定

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取材・文=清水大輔  撮影=藤原江理奈
スタイリング=久芳俊夫 ヘアメイク=田端千夏

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