「人生に分かれ道があったら、ワクワクするほうを選ぼう」――■対談 里村明衣子×光浦靖子【プロレス×女性の生き方】

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公開日:2019/8/12

対談 里村明衣子×光浦靖子

圧倒的な強さと人間性から「女子プロレス界の横綱」と呼ばれる、センダイガールズプロレスリング代表・里村明衣子選手。1995年のデビュー当時から里村選手に注目していたという芸人の光浦靖子さんは、80年代からの女子プロレスファン。39歳の里村選手と、48歳の光浦さんが、大人の女性の生き方について、語り合った。

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(左)みつうら・やすこ●1971年、愛知県生まれ。92年、大久保佳代子とお笑いコンビ「オアシズ」(当時・オアCズ)を結成。レギュラー出演していた『めちゃ×2イケてるッ!』ではチャイナナイト光浦として「めちゃ日本女子プロレス」を率いて闘っていた。エッセイのほか、ブローチ作品集『靖子の夢』(ほか2作)も好評。

(右)さとむら・めいこ●1979年、新潟県生まれ。中学卒業と同時に、長与千種率いるGAEA JAPANに入門。95年、15歳でデビュー。2005年、仙台市を拠点とするセンダイガールズプロレスリングの旗揚げに参加、11年8月には代表取締役となる。得意技は、スコーピオ・ライジング、デスバレーボムなど。157cm 68kg  @satomurameiko

 

光浦さんは嘘がない人、里村さんは近道をしない人

──お会いになるのは、5年前に里村さんが光浦さんのラジオ(『大竹まこと ゴールデンラジオ!』)に出演されたとき以来ですか?

光浦 そうですね。

里村 リングの上からは、何度かお見掛けしています。

光浦 ええっ! 見えるものですか?

里村 結構見えます(笑)。

──里村さんのことはデビュー前からご存知だったそうですね。

光浦 すごい新人が入ってきたと誰かから聞いて。実際試合を拝見したら、体がまず強いし、技もできるし……あとやっぱりね、真面目な人だなと感じました。里村さんがデビューした頃って、キャラづけをしている人が多かったんですけど、里村さんは何のキャラもつけずにストロングスタイルで出てきた。

里村 (笑)

光浦 ご著書(『「かっこいい」の鍛え方』)を読んで納得しました。この人は本当に近道をしない人なんだと。

──光浦さんは「里村さんがもう少し要領よかったら…こずるかったら……いや、真面目を貫いたこの人が勝つのを私は見たい!」という推薦文を本書に寄せていらっしゃいます。

里村 すごく嬉しかったです。「貫きたい!」と思いました。光浦さんは、いつも嘘がなくて、本音をまっすぐ言われる方だなと思って見ていました。そこにすごく共感しますね。

光浦 でも人を傷つけない嘘ならついたほうがいい時もあるのかも。私は嘘をつくのが気持ち悪いから、本当のことを言ってしまうだけなので。自分が気持ちいいことをしているだけなんですよ。

里村 私は今までは言いたいことが口に出せなかったんです。相手が気持ちよくなるような嘘を言ってしまうことも多くて。でもこの歳になって、本音で話したほうがお互いにいい気持ちになるなと思ったんですよね。

光浦 そういう時期を経て本音を言うようになったんですね。だから里村さんには人がついてくるんだなあ。

 

出産と仕事のタイミング

──里村さんは団体のトップ(代表取締役)でもありますが、どんなことを心がけていますか?

里村 後輩たちのことはかわいいんですけど、「一選手」「一社員」だと思っていて。「ずっとここにいるわけじゃない。彼女たちには彼女たちの人生がある」ということを第一に考えています。あんまり選手の中に入り込まないように、と。

光浦 素晴らしい……!

里村 結婚や出産でやめていくこともあっていいと思っています。ただレスラーとして旬な年齢と女性として出産に向いている年齢が重なるのはつらいですね。

光浦 50歳くらいが出産に一番適した年齢とかだといいですね。仕事では地位が築けていて、産後もそこに戻れるという。

──里村さんはご著書で結婚や出産をしていないことへの“引け目”があると書かれていましたね。

里村 すごくあります。子供がいる選手も、女子プロレス界には結構いますが、同じ立場で気持ちをわかってあげることができない。でもなるべく考えたいなとは思っていて……彼氏がいる選手には、一緒にいるであろう時間だけは連絡しないようにするとかですけど。

光浦 すごい気遣い! 私も、やっぱり生物として子孫は残さなきゃいけないのかなとか、悪いことしてるのかなとか、いい精神状態じゃない時には思ってしまうこともあるんですよ。でも正常な精神状態に戻ったら、そうは思わない。努力を怠ったわけじゃなくて、結果的にできなかったっていうだけだから。“独身の象徴”みたいなポジションにあるもんで、笑って生きることも私の仕事かなと思っています。同じように思っている人たちと一緒に、楽しく生きていかにゃいかんなと。

里村 すごく素敵ですね。私も、今やっていることがすごく楽しくて、でも満足はまだしていなくて。もっと何かできるなっていう根拠のない自信がすごくあるんです。

光浦 上に立つ人がそう言ってくれるとすごく頼もしいですね。里村さんが先輩だったら、子分みたいになつくと思います。

里村 嬉しいです(笑)。

 

話すより闘ったほうがわかりあえる

──光浦さんは『めちゃ×2イケてるッ!』の中で何度もプロレスをされていますよね。

光浦 いや、あれはプロレスじゃなくてお笑いですけどね……ただ、夢は叶いました! 素人同士だと呼吸を合わせないと一つの技も成り立たないし、ケガをしてしまうんですよね。終わった後は、頭のてっぺんからつま先まで筋肉痛です(笑)。変な言い方ですけど、試合をすると、仲良くなっちゃうんですよ。

里村 わかります。1時間話すより、10分闘ったほうがわかりあえますね(笑)。私が見ていて思うのは、芸能人の方は、マイクアピールがパーフェクトだなと。言い回しも言い方も。これは敵わないと思いました。

──光浦さんは子供のころ「強くなりたい」と思っていたそうですね。

光浦 なぜかはわからないんですけど……男子に負けたくない!といつも思っていて。喧嘩になった時に、最終的にフィジカル的なもので脅してくる男子が許せなかった。対等な状態で、口喧嘩をもう一回やり直そうよ!って思っていました。

──里村さんは男子選手ともよく試合をされますね。男子に勝ってチャンピオンになった時はマイクアピールで「世の中の女性たち、もう我慢する時代は終わったんだよ。男と対等に勝負できないなんて思ってんじゃねえぞ!」とおっしゃいました。

里村 私自身は男性に劣りたくないと思ったことはないんです。男性も女性もお互いの良さを理解しながらやっていくことが必要で、対等にやれると思ってもいます。でも働いている女性たちと話をすると、男性よりも低い立場を強いられて悔しい思いをしている人がとても多くて……。

光浦 会社組織の中にいると、なかなか難しいですよね。

里村 そうですね。だから彼女たちの気持ちを代弁していきたいという思いはあります。

 

2019年6月24日 東京・新木場1 stRING 竹下幸之介vs里村明衣子 DDTのユニットALL OUTとセンダイガールズプロレスリングの男女対抗戦のセミファイナル。かなりの体格差がある両選手だったが、互角の闘い、勝敗は時間切れ引き分け。写真提供:センダイガールズプロレスリング

団体対抗戦、やりますか!

光浦 今、50代でも現役のレスラーの方がいらっしゃいますよね。里村さんも、やっちゃいます?

里村 やらない……ですね。

光浦 もう体がボロボロですか?

里村 いえ、今一番調子がいいです。

光浦 やったね(笑)!

里村 でも選手をずっと続けるような生き方は、私はしたくないかなと。これからの人生のほうが長いと思うので。

光浦 そうすると何年後にはリングを降りると?

里村 もう意識しています。その後は何かビジネスをやりたいですね。

光浦 おお! 女子プロで?

里村 はい。プロレスに関わるビジネスを。生きている間に、もう一度80~90年代のような女子プロレスのものすごい時期を見てみたいなとは思っています。

光浦 見たいです。レスラーの人たちにはうまくいってほしいと本当に思う。90年代、みなさんが命を削って試合をしているところを会場で見て、いつも泣いていたので……。里村さんがこんなにずーっとがんばってきたのに、まだ女子プロがブームにならないんだもん! なかなかうまくいかなかった自分の夢を乗っけてしまうところもあるのかも。

里村 今、男子はかなり大きい会場も満員になるくらいブームですけど、女子はまだ数百人規模の会場でものすごくたくさん試合をする、という感じなんです。

光浦 小さな団体がたくさんありますからね。

里村 女子プロレスラーは我が強いので一つの団体にはならないと思います(笑)。女子プロ界にはまだ課題が山積みですね……この3年くらいでなんとかしたいです!

光浦 年に1回くらい、団体対抗戦をやってほしいなあ。観客はごひいきの団体を応援する席に座ってさ。4団体にして、各団体が客席の一辺を埋めればいいわけでしょう。

里村 ……やろうかなという気になってきました!

光浦 やってやって! 女子プロファンの芸能人もいっぱいいるから、オープニングセレモニーで歌ってもらったり……私が口説きます。

里村 ありがとうございます!

光浦 各団体のトップがどの選手を選ぶか、それを考えるのもおもしろいですよね。私、選手に花束を渡す役やりたい。渡した途端にその花束でボコボコにされるやつ(笑)。

里村 (笑)


活動の舞台は日本だけじゃない。

里村 最近、仕事の幅が広がってきていて。アメリカとかイギリスからも試合に呼んでいただくことが増えたんです。小さいころから海外志向が強かったんですが、それがプロレスで実現したのがすごく嬉しくて。去年、WWE(アメリカにある世界最大の団体)に出させていただいたら、さらに広がりました。

光浦 すごいすごい! 里村さんを見ていると、ワクワクするなあ。日本の女子プロレスの技術は世界ではどうなんですか?

里村 世界一だと思います。女子プロレスの団体があるのは日本だけですし、女子を育てるシステムみたいなものが海外にはないので。ただマーケットは海外のほうが断然大きくて……アメリカで何万人規模の会場を見ると、いろいろと考えますね。コツコツやるのが大事だという気持ちと、それを続けて、いつになったらこの規模にいけるんだろうという気持ちとが葛藤しています。

光浦 里村さんが、先に海外で有名になっちゃったほうがいいんじゃない? 帰ってきたら、日本で革命が起きるかもしれない! あっ……海外で選手をやった後、そのまま海外の選手を育てる人になるとか……?

里村 実は今、海外からコーチのお話もいただいていて。

光浦 やっぱり!

里村 日本にもっと道場を新設して、海外の女子選手を招いて育成するシステムを作ることができたらと。もちろん日本の選手も向こうに行けるように交流していきたいです。

光浦 3年後は本当に違う世界になっているかもしれない。やっぱりね、真面目にやっているとこういう日が来るんですよ!

里村 ありがとうございます。

光浦 そういえば私も今、英会話を一生懸命勉強していて。

里村 わー! そうなんですか!

光浦 世界は日本だけじゃねーぞっていうね(笑)。毎日1時間とかちゃんと勉強して、1年後にはある程度しゃべれるようになれればと。強みを持ちたいとずっと思っていたんですよ。外国で何ができるかはわからないですけど……夢物語でもワクワクするじゃないですか。

里村 しますねえ。

──ダ・ヴィンチ読者には、お二人と同年代の女性も多いので、何かメッセージをいただけますか。

里村 そのままなんですが……分かれ道があったら、ワクワクするほうを選んだほうがいいと思います。ただ20代だと違うワクワクというか、変な誘惑のほうに行っちゃうかもしれないので(笑)、30代以上の女性に向けて、ですかね。

光浦 私は……ここ(胸)に1個、爆弾を持っているとちょっとラクになれるのかなって思っていて。無責任な発言ですけど。

──“爆弾”ですか。

光浦 「いつでもやめたるわ!」っていう気持ちみたいなものかなあ。逃げなのかもしれんけど……でもみんないつも「がんばらなきゃ」とか「自分は本気じゃないのかな」とか考えていますよね。だからそっちはもう考えずに、逆の気持ちを持っていたらいいんじゃないかなと。あ、あとね、突然嫌なことを思い出してつらくなった時は、(目をつぶって舌を出して)「ベーッ!!」って叫ぶんですよ。

里村 (爆笑)

光浦 台所とかで。バカみたいなんだけど、それが意外とよくて。舌は長く出せば出すほどスッキリします。

里村 新しい(笑)! 最高です。私は旅行が好きなので、忙しくて大変な時には、航空券予約のサイトを見て、買って、スッキリしています。

光浦 見るだけじゃなくて買うんだ! 自分の心に、何かそういうものがあるっていいですよね(笑)。

 
 


 
 

『「かっこいい」の鍛え方 女子プロレスラー里村の報われない22年の日々』
里村明衣子 インプレス 1500円(税別)
所属団体の解散により、25歳で、縁のない仙台の地へ。新団体旗揚げに参加するも、東日本大震災で練習する場所さえ失ってしまう。そんな中、団体代表を引き受けるが、やがて所属選手は2人だけに――。女子プロレス界の横綱・里村明衣子が、「報われない」中でも、自身の信じる「強さ」「かっこよさ」を追求してきた日々をつづった初エッセイ。

 
 


 
 
 

『ハタからみると、凪日記』
光浦靖子 毎日新聞出版 1400円(税別)
〈二十年やってきて思ったのは、面白い、面白くない、は人間性なんじゃないかな? ということだ〉(本文より)。愛しい甥っ子・姪っ子、結婚、仕事、年齢、旅……「大事じゃないことを考えるのが、すごく好き」という光浦さんらしく、何気ない日常の細部から、思考が広がっていく。2012年~17年に書かれたエッセイを収録。

 
 

取材・文:門倉紫麻 写真:下林彩子 イラスト:広く。