ブクガ、覚醒。3rdアルバムリリース直前、それぞれの想い――Maison book girl個別インタビュー①(井上唯編)

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2019/12/14

 12月18日、Maison book girl(以下ブクガ)のメジャー3rdアルバム、『海と宇宙の子供たち』がリリースされる。「夢」をコンセプトにした2018年11月リリースの前作『yume』は、ブクガのすべての楽曲を担う音楽家・サクライケンタの才気が全編を包む素晴らしいアルバムだったが、新作『海と宇宙の子供たち』には、今年の春から夏にかけて発表された2枚のシングル『SOUP』『umbla』でも方向性が示されていたように、「歌」を前面に打ち出した楽曲が揃った。メンバー4人のパフォーマンス面の成長に伴い、楽曲の中で表現できる幅を飛躍的に広げてきたブクガは今、「覚醒」の時を迎えている。『海と宇宙の子供たち』は、今後ブクガの音楽が広く届き、多くの聴き手を巻き込んでいくことを予感させてくれる1枚である。

 今回は、メジャー3rdアルバムのリリースに向けて、メンバー4人とサクライケンタ、それぞれ個別に話を聞くことで、『海と宇宙の子供たち』が完成するまでの背景に迫っていきたい。第1弾は、井上唯のインタビューをお届けする。「何も考えてない」と言いつつ、ブクガへの熱い気持ちを抱える井上は今、どのような変化を遂げようとしているのだろうか。

(『海と宇宙の子供たち』は)ブクガが広まる未来を願い、それを証明したいアルバム

──前作の『yume』はコンセプトがはっきりしたアルバムであり、音楽的な野心が詰まった作品だったけど、今回の『海と宇宙の子供たち』は比較的シンプルな構成で、ものすごくポップな内容になっていて。音楽的な満足度が高い作品だと思うんですけど、メンバーとしてはこのアルバムについてどう感じているんでしょうか。

井上:ひとつひとつの曲の完成度が高いと思います。全部がシングル曲でもおかしくないなって、レコーディングをしながら思ってました。今までだったら、「この曲、アルバム曲っぽいな」って思ったりすることもあったし、ブクガが好きな人に向けた、アルバムだからこそ入れられるコアな部分を詰め込んだ曲があったけど、今回のアルバムはどの曲を聴いても、ブクガっぽさもありつつ、耳に残るというか、引っかかりやすいアルバムだと思います。

──今、話に出た「ブクガっぽさ」というのは重要なワードではないかな、と。これまで築いてきたブクガっぽさ、あるいは現在のブクガらしさを言葉にすると、どんな言葉になるのだろうか。

井上:今までだったら、たとえば変拍子がどうのこうのとか、楽器がどうのこうのって言われてた部分ですかね(笑)。最近は、4人の歌声の個性がそれぞれ立ってきたから、その4人が歌ってることでブクガっぽさが出せてるのかなって、最近思います。

──なるほど。で、そのブクガっぽさとは?

井上:うーん……。

──開始早々、唸り始めてしまった(笑)。

井上:あははは。ブクガの曲に対して、自分の理解が深まった結果、歌い方も、曲の雰囲気に合わせることができるようになっていって、それがいいところというか――「ブクガっぽさ」ってなんでしょうね? 前は、こうやって訊かれることがあるから、頑張ってそれを考えてたんですよ。「闇っぽいですよね」とか言ったりしてたんですけど、実際にはわたし、何も考えてないんです(笑)。ボイトレの先生にそれを言ったら、「何も考えてないのもいいんじゃない?」って言われて。「歌詞を深読みしたり、曲のことをすごく理解しようと頑張ったりする人もいいけど、何も考えないでやってる人がひとりくらいいても面白いんじゃない?」って。そこで、「ああ!」ってなって、考えることをやめました。

──「何も考えてない人」がひとりなのかどうかはわからないけど(笑)。

井上:ははは。でも、こういうときに、和田は的確なことを言ったりするじゃないですか。でもわたしは、「まあ、いっか」と思って、最近考えなくなりました。より、自然体になりましたね。

──ブクガっぽさを感覚的にとらえている、と。「ブクガっぽさが何なのかは、音楽を聴いた皆さんが決めてください」みたいな。

井上:はい!

──「はい!」って(笑)。

井上:(笑)だって、わかんないんだもん。でも、考えるのをやめたことで、めっちゃ楽になりました。超楽ですね。夏前くらいにボイトレの先生が替わって、すごく近い距離感というか、個々の性格に合わせて、カウンセリングのようなボイストレーニングをしてもらっていて。先生もバンドをやっていて、そのときのメンバーのひとりが何も考えてない感じの人だったらしいんですけど、先生自身は歌詞を深読みして、「こう思うんです」って言っちゃうタイプだから、「そういう人がいたから楽だったんだよね」って言ってて。それを聞いて、「じゃあ、それになります!」って(笑)。

──(笑)ブクガは今年ツアーが2本あって、今回のアルバムでリリースも3作品目になるので、第三者的に見ると2019年はかなり精力的な活動をしてきた印象があって。アルバム自体も、前作からほぼちょうど1年のタイミングで出るわけですけど、最新作の『海と宇宙の子供たち』で、ブクガは何を成すべきか、何を見せるべきだと思っていたんでしょう。

井上:今回のアルバムって、サクライさんが聞いたらあまりよく思わないかもしれないけど、1曲1曲を聴いていて、「今、よくテレビで見る人が歌ってそうだな」って思ったんですよ。誰々っぽい、何のグループっぽい、とか。そういう、メジャーな市場にありそうな曲たちだな、とわたしは感じたので、ブクガが広まる未来を願い、それを証明したいアルバムです。これまでは、ブクガが好きな人が聴いいてくれる、好きな人が好いてくれればいいかなあ、みたいな曲があったかもしれないけど、今回はほんとに幅広く聴いてもらえるんじゃないかなって思います。

──曲の間口が広がるのと同時に、それを歌うメンバーのマインド、気持ちの部分にも制作の段階で何か変化はあった?

井上:気持ちは…………曲が素敵だから、素敵に歌おうと思ってました。またボイトレの話になっちゃうんですけど、それぞれの個性を生かしたトレーニングの仕方をしてくれていて。今までのわたしがやってた声の出し方が、実は本来あまり得意じゃない声の出し方なんだよって教えてもらったんですね。「それよりも、こっちのほうが得意なはずだから」って教えてもらった方法で今はやってるんですけど、その声の出し方って、他の3人とは違うんですよ。3人に引っ張られずに、わたしの道を行かなきゃいけない出し方で、個性を出せるように、全曲歌いました。さっき、何も考えてないっていう話をしましたけど、ずっと歌い方を合わせようと頑張って考えて、無理してたのかもしれないなって思って。だから、今は何も考えないし、歌い方も合わせなくなったら、めっちゃ楽になりました。性格的に、順応性、協調性はあるほうだと思うし、なんでも馴染んでいく性格なので、歌い方も自然にそうなっていたけど、実は今の声の出し方のほうが合ってた、みたいな感じです。

──『海と宇宙の子供たち』を聴いていて、「井上唯、歌声かわいくなっていってる説」が浮上してきたんですけども。

井上:そうなんだ? 丸くなったのかな。なんでだろう……? でもお客さんにも、「声の出し方変わった?」って聞かれたりしますね。だから、変わった結果、そうなったのかもしれない。

──ライブのパフォーマンスについては?

井上:パフォーマンスも、今のほうが自然です。自然体だと思います。

──以前はどちらかというと、「必死」という言葉がしっくりくるパフォーマンスをしていたなあ、という印象があるけど。

井上:必死でしたね。頑張ってた。もう、めっちゃきつかったもん(笑)。たぶん、技術的な余裕が出てきたこともあるんでしょうけど、考え方も関係しているのかな。ボイトレと同じくらいの時期に、ダンスの先生もついたんです。ずっと、自分たちで考えて、がむしゃらにやるしかなかったし、結局正解もわからないままやってたところがあったけど、先生がつくことによって解決されました。わたしは、誰かに「いい」って言ってももらえないと不安な人なので、今のやり方が合ってますね。

──制作にしても、パフォーマンスにしても、目指すべき方向がわかりやすくなった?

井上:そうですね。歌い方にしても、たとえば何かワンフレーズがあるじゃないですか。すごいアーティストの方って、そのワンフレーズの中にも自分で作戦を立てて歌ってるんだと思うんですけど、わたしはその立て方がわからなかったんですよ。答えもひとつじゃないし。「これは、こっちがいいの? あっちがいいの?」みたいな感じだとわからなかったけど、先生と一緒に綿密に作戦を立てていったことで、「そっちのほうが歌えてるね」って言われたから、今は作戦を立ててます。それで、すごく楽になりました。

──ある意味、「必死さ」がパフォーマンスの強みになっていた頃があったことを考えると、だいぶ大きな変化でしょうね、それは。

井上:若い子たちだったらそれでいいと思うんですよ。でも、余裕のある大人のほうがカッコいいじゃないすか。ちびっ子だったら、頑張ってる姿を見るのはわたしもすごく好きだし、ずっと見てられるけど、余裕を持った大人になりました。それは、写真にも表れてると思います。

好いてくれる人がいる限り、その人たちのために続けていきたいですけど、現実はそうはいかない。だから、大きくなりたい

──最近のインタビューや、9月のAmazonのライブのMCでも話が出ていたように、「ライブの動員」という課題がブクガにはある、という話は再三出ているけど、そもそもブクガって、最初から今まで、順風満帆だったことは一度もないんじゃないかな、と思っていて。

井上:そうですね。満足はしてないです。

──満足もしてないし、常に新しい課題を見つけて、それを一生懸命クリアしてきたのがこれまでなのかな、と。そう考えると、ブクガはいつもうまくいかない状況と戦ってきたと思うんだけどメジャーデビュー以前も含めて3、4年くらい続いてる戦いの歴史の中で、得られたものって何なんでしょう。

井上:今も戦ってはいるけど、戦ってる敵が変わってると思います。2年半くらい前は、「もっとパフォーマンスを上げよう」っていうことが大前提としてあって、むしろそれしかないくらいで。ずっと満足いかないなって思ってたけど、今は先生たちの力を借りながら、パフォーマンスは……まあ、満足はいってないけど、当時と比べたらゲージがすごく上がってると思います。その分、集客だったり、ライブの構成だったりを考えるようになりました。敵が変わって、相手が順々にクッパに近づいてる(笑)。

──(笑)クッパ=ラスボスだとして、今のブクガが戦い続けられるのは、何をラスボスとして見据えているからなんだろう。

井上:簡単に言うと、大きな会場でライブをやりたいとか、フェスに出たい、とかがわかりやすいと思うんですけど、わたしはそういうことはあまり考えてなくて。でも、ブクガのライブはいろんな人に観てもらいたいし、Maison book girlをもっと多くの人に知ってもらいたいし、好きになってもらいたい。結果、どんどん認知度を上げていきたい。そうしたら、自分たちがやりたい演出も、もっと大きい会場でできるかもしれない。その結果、何になりたいんですかね?…………大きくなりたい!

──結果、大きくなりたい。

井上:最初、ブクガを始めたときに、今回のようなアルバムができることは想像してなかったので、これをもっと続けていったらどうなるんだろうって思いますね。渋谷の109の看板も夢じゃないかもしれない。理想を言うと、ブクガを好いてくれる人がいる限り、その人たちのために続けていきたいですけど、現実はそうはいかない。だから、大きくなりたいです。

──では、ブクガをずっとやっていきたいのはなぜ?

井上:楽しいから! だって、カッコいいじゃん、これ。第三者として、リスナーとして、この先が楽しみだから。この先を、見たいですよね。インディーズからここまでの進化の過程を見て、これからどうなっていくのか、わたしもいちファンとして楽しみにしているし、見てみたいです。

──では、今回は個別インタビューなので、次に話をするメンバーにメッセージを。今、背中を向けて座っている矢川葵さんに、一言どうぞ(笑)。

井上:(笑)葵ちゃんは、同じタイミングで地方から一緒に出てきたので、いわば同期みたいなものなんですよ。

矢川:うん。

井上:だから、頑張ろうねって。最初の頃は、「早く帰りたいねえ~」とか言ってたから。これからも、東京という大都会で、頑張っていこうなっ!

矢川:頑張っていこうなっ!

井上:おうっ! てっぺん獲ったるで!

矢川:おうっ!

取材・文=清水大輔

次回(矢川葵編)は12月15日配信予定です。
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