「嵐の松潤が好き」と「サッカー部の先輩が好き」は同じ。“推し”の熱愛報道に自己嫌悪⁉ オタクと非オタの垣根を取っ払う恋愛本

恋愛・結婚

2019/12/24

 2019年12月1日、HIBIYA COTTAGEで、『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』刊行記念トークイベント「オタクと書店員」が開催された。劇団雌猫のユッケさん、もぐもぐさん、HIBIYA COTTAGEカリスマ書店員の花田菜々子さん、新井見枝香さんが登壇。恋愛にまつわる様々な問題に悩む15人のオタク女性たちの匿名エッセイを掲載した『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)の魅力についてはもちろんのこと、一般の人には知ることができないオタクの「推し」に対する特別な思いについても垣間見ることができる笑いの絶えない会となった。

『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(劇団雌猫/双葉社)

■オタクを特別視する必要はない!一般人とオタクの垣根を取っ払ってくれる恋愛本

書店員・花田菜々子さん(以下、花田):この本は、同人誌がもととなっているんですね。

劇団雌猫・ユッケさん(以下、ユッケ):そうなんです。元々劇団雌猫っていうのは、平成元年生まれのアラサー女性4人組のサークルなんですけど、2016年の冬に同人誌の『悪友』というシリーズを作り始めました。Vol.1は「浪費」、その翌年の2017年の夏のVol.2は「恋愛」っていうテーマで作って。Vol.2が今回発売された本のもとになっています。

花田:私ちょっとこの本について熱く語ってもいいですか。この本は、オタクの女子たちが恋愛っていうものをどう捉えているかを書いた本ですけれども、それまではオタクって、恋愛に関しては「わたしオタクなんで恋愛なんて…」っていう自虐に走るパターンしかなかった気がするんですよ。「オタクでいたいけど、モテたいし、実人生でも恋愛をエンジョイしたい」っていう発言ってあんまり一般の私たちは聞くことができなかった。

 でも、この本の中には、すごく強い意志があるのを感じて。本当にタイトル通りで「これが私の恋愛です」って言っていいんだなっていうのがわかったし、オタクの人と一般の人ってすごく垣根があるように感じられていたんですけど、これを読んで、そんな垣根はないんだなって思いました。ここには、オタクに限らず、今の女性みんなが抱えている問題が書かれている。「必ず一対一で男の人と好き同士になって結婚を目指さなきゃいけない」っていう呪縛を解いてくれる本だなって思いましたし、なんだか勇気付けられた気がしました。

「初彼が『犬夜叉』だった女」とか「性欲を『シン・ゴジラ』で断ち切っていた女」とか「A太郎と別居婚する女」とか「結婚するつもりじゃなかった女」とか。本当に色んな人がいますよね。見枝香さんはどんな風に読みました?

書店員・新井見枝香(以下、新井):花田さんは多分オタクじゃないんですよね。私は割とオタクなので、花田さんみたいな風に読む人がいてくれて嬉しいです。

花田:オタクの見枝香さん的には「ああ、そうそう、わかるわかる」って感じなの?

新井:「そうそう」って人もいるし「これはすげーな…」って人もいる。オタクだからなんとかっていう感じがしなかったですね。みんな違う人でみんな何か抱えている。だから逆にいうと、同じような人ばかりだと「オタクってやっぱりこういう感じだよね」ってオタクと一般の人との間に垣根が出来ちゃう感じになったと思うんだけど、でも、オタクでもびっくりみたいなエッセイもあるから、それがこの本の良さなんだと思いますね。

ユッケ:これまでは世の中的に「オタクの恋愛ってこうだよね」っていうのが、言い方は悪いけど、印象操作されてきた気がしているんです。でも、オタクでもオタクじゃなくても、多様性はあるはずじゃないですか。普段生活していて、相手と自分の考えていることが全然違うことってある、同じアイドルを推していてもやっている仕事とか性格とかも全然違う。「あんまり一つに決められたくないな」っていうのは思います。特に恋愛というテーマではそれが色濃く出ていると思います。

劇団雌猫・もぐもぐさん(以下、もぐもぐ):劇団雌猫4人の中でも、オタクに対する見え方、考え方、恋愛に対してどういうスタイルをとっているかは全然違ったので、それを反映できたのが良かったなと思っています。多様性という意味では、寄稿者もそうですね。私、「コイツのこの考えはわからねぇ!」みたいに感じるものもあるもん(笑)。

ユッケ:私自身も「この人何を言っているかわからない」って共感できないまま校了したエッセイもあって(笑)。それはそれで色んな視点が入れられて良かったかなって思っています。

■話したこともない先輩への恋と、アイドルへの恋はどこが違うのか

恋愛【れん-あい】
[名]特定の異性…に限らず、同性や次元・世界の異なる人に特別の愛情を感じて恋い慕うこと。

もぐもぐ:私、カバーのそでのこの言葉がすごく気に入っていて。同人誌版の時にも入れた言葉なんですけど、この本を貫くステートメントっぽくて良いなって思っています。例えば、アイドルが好きだと、「恋愛もしないでアイドルにうつつを抜かしている」って言われてしまいがちだけど、「誰かを好きになるのもアイドルを好きになるのも一緒では?」「そもそも、それって分けられるの? そこを分ける必要ってあるの?」って考え方もできるじゃないですか。

花田:確かに小・中学生の時とかも、同級生が好きだって子もいれば、全然話したことのない先輩が好きとか、アイドルやアニメの主人公が好きって子もいて。同級生が好きって子はバカにされないけど、「芸能人のことが本気で好き」っていうと、「いや、それは恋愛に憧れているだけ」って言われちゃうんですよね。だけど、話したこともない先輩になると、「うんうん、手の届かない人だけど好きなんだね」みたいに共感されたりして、その違いって何なんですかね。同級生相手だって、勝手な自分の思いを投影しているだけかもしれないじゃないですか。独りよがりな恋愛かもしれないのにそれはなぜか問われずにリアルな恋愛として、お墨付きが与えられているのは、不思議だなって思います。

ユッケ: わかります。サッカー部の先輩が好きなのと、嵐の松潤が好きなの、何が違うの? って思ってしまう。

花田:もしかしたら松潤の方が情報量があるかもしれない(笑)。

ユッケ:毎月雑誌読んだり、テレビとか見てたら、パーソナリティわかりますしね(笑)。

花田:そこに線引きはできなくて、本物・偽物で語れることではないし、優劣でもないんですよね。

■「推し」の熱愛報道には「なんで私が相手じゃないの?」と自分を責める気持ちに

もぐもぐ:この本には劇団雌猫4人がTwitter上でとったアンケート結果を振り返りながら恋バナ座談会をやった様子も掲載しているんですけど、私とユッケさんは熱愛報道へのスタンスがまったく違って面白かったですね。私は好きなアイドルに熱愛報道があっても1ミリも傷つかないんですけど…。

ユッケ:私は完全に落ち込んで寝込むタイプです(笑)。他のメンバーに「それって自分が好きなアイドルが誰か別の人のものになったのがショックなの?」って聞かれたんですけど、違うんです。そうじゃなくて、私の場合は、「なぜ私がその人と写真撮られなかったんだ!」っていう怒りなんです。ガチ恋気質なので…。

もぐもぐ:「自分がフライデーされたかった」っていう怒りなんだよね。

花田:「ガチ恋に対する努力が足りてなかった」っていう怒り?

ユッケ:そう。自分に対する怒りです。

もぐもぐ:それが私はすごく衝撃だったの!そういう捉え方があるんだなって。

ユッケ:私は男性アイドルのオタクなんですけど、3次元同士、同じ次元に生きていて、向こうも3次元の女性と恋愛しているわけじゃないですか。3次元の女性というところまでは同じ土俵に立ってるんです。アイドルがモテるのは当然なんですよ、かっこいいし、だから私も好きになっているし、彼を好きになった彼女の気持ちはわかる。でも、その彼女が努力したことを私はできていないから、今私と彼女の立ち位置がこんなに違うんだって思ったら…「まだ修行が足りん!」っていう気持ちになる(笑)。

もぐもぐ:ストイックすぎる(笑)。熱愛報道へのショックがそういう方向があるんだっていうのが、私はすごく学びになったし、面白かった〜。ユッケさんの考え方はもちろん多数派ではないと思うけど!(笑)「熱愛にガチで傷ついちゃう人たち」ってひとまとめに見られがち、その上嘲笑されがちだけど、その中にもいろんなグラデーションがあるんですよね。

花田:私みたいな非オタクからすると、劇団雌猫の本は、異界との唯一のツールというか、普段知ることができないことを教えてくれますね。今話してくださったみたいな、オタクの「推し」への気持ちとか。Twitterだけを見ていると、オタクのみなさんの想いをきちんと理解できないこともあって。

もぐもぐ:過激な意見ばかりが目立ちますもんね。

花田:ひたすら呪詛の言葉を吐く人がいたりだとか。でも、こうやって劇団雌猫さんの話をちゃんと聞けると、そういう感覚なんだってわかって良いなって思います。もちろん驚きもあるし、「そうだったんだ!」って思わされもするけど、何も「オタク」って特別なものじゃないってわかる気がします。

取材・文=アサトーミナミ 撮影=内海裕之