TVアニメ『アルテ』放送直前! 声優・小松未可子&現代アーティスト・小松美羽が語る「私たちはいかにして仕事の壁を乗り越えたか」(前編)

マンガ・アニメ

2020/4/2

 4月4日より、TVアニメ『アルテ』がスタート! 大久保圭さんのマンガを原作とした本作は、16世紀初頭イタリア・フィレンツェに生まれた貴族の娘アルテが、画家として成長していく姿を描いた作品。女性が、ましてや貴族が画家になるなど言語道断の時代に、強い意志と持ち前の明るさで壁を乗り越えるアルテの姿が、ポジティブに描かれている。

 放送開始を記念して、主役アルテを演じる声優・小松未可子さん、現代アートの世界で活躍する気鋭のアーティスト・小松美羽さんの対談が実現! アニメとアートでジャンルは異なるものの、各フィールドで確固たる地位を築いているふたりは、いかにして夢をつかんだのか。おふたりの仕事に対する情熱、『アルテ』の見どころについて、前後編にわたってお届けしよう。前編では、おふたりが逆境を乗り越えたエピソード、“作品づくり”への思いについて熱くトーク。美羽さんの意外なアニオタぶりも明らかに!?

TVアニメ『アルテ』 4月4日(土)より、TOKYO MX、BSフジ、読売テレビ、J:テレにて放送開始。
©大久保圭/コアミックス,アルテ製作委員会

「オーディションに受からないと仕事が得られなくて。常に就活してるみたい」(小松未可子)

──おふたりは初対面ですよね?

小松未可子:そうなんです。はじめまして!

小松美羽:そもそも声優さんとお会いするのが、初めてなんです。私、あまり公言していないんですけどアニメが大好きで……。

未可子:意外です!

美羽:親がアニメ好きで、レンタルショップではアニメばっかり借りていたんです。それを一緒に見るうちに、アニメ好きになったのかも。今も新しく始まるアニメは、ほぼすべて録画しています。もちろん、小松未可子さんのこともエンドロールでお名前を拝見していました。

未可子:うれしいです!

美羽:アルテみたいな女性キャラだけでなく、男勝りなキャラも『俺ガイル』(『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の略称)みたいなかわいい男子もイケちゃう。あこがれの声優さんに会えて光栄です。

未可子:筋金入りのオタクじゃないですか……。ストイックにアートの道を突き進んでいる方かと思っていました。

美羽:もちろん作品に対しては真剣に向き合いますけど、アニメも好きなんです。実写よりも、アニメのほうが気軽に見られるのでよく見てます。

──おふたりは、『アルテ』という作品に対してどんな印象をお持ちですか?

未可子:ひとりの女の子が、自分のやりたいこと、自分の気持ちを大切にして生きていく。時代背景を考えてもいろいろな困難がありますが、それでもポジティブに生きるアルテのエネルギーに勇気をもらいました。私が今向き合っていることも肯定してくれるような、響く言葉が多いんですよね。目指すフィールドは違えど、どの職業の人にも通じる、前向きになれる何かが詰まっていると感じました。

美羽:私はヴェネツィア国際映画祭に招待された時(台湾の企業HTCとのコラボによるVR作品「祈祷=INORI」が、第76回ヴェネツィア国際映画祭のVR部門コンペティション作品としノミネートされた)、フィレンツェにも足を伸ばしたんです。今回の対談のお話をいただいたあと、すぐに原作を全巻読んだのですが、16世紀のフィレンツェの街並みが丁寧に描かれていてうれしくなりました。フィレンツェではウフィツィ美術館などにも行ったのですが、初めて見る作家もたくさんいて。ルネサンス期は競争率の高い芸術黄金時代なので、素晴らしい技術を持っていても埋もれてしまうのでしょうね。でも、アルテはきっと将来ウフィツィ美術館やアカデミー美術館に展示されるような作家になるんじゃないかと思いました。

──アーティストとして活躍されている美羽さんの目に、アルテはどう映りましたか?

美羽:男性しか画家の修行ができないこの時代に、女性でここまで頑張るなんてすごいことですよね。ヴェネツィア国際映画祭で映像作家でありイタリアの国民的歌手の女性からインタビューを受けたのですが、今も女性差別と戦っているとお話しされていました。この時代でさえ、まだ女性差別が問題視されているんですから、16世紀はさらに大きな壁に阻まれたはず。そう考えると、アルテの強さがわかりますよね。

──違うフィールドで活躍するおふたりですが、お仕事で最初に壁を感じたのは?

未可子:声優って、仕事をしたくてもオーディションに受からないと仕事を得られないんです。

美羽:あ、やっぱりそうなんですね! 未可子さんほど有名な方でも?

未可子:常に就活してるみたい(笑)。たまに「この役はこの人で」と指名されるケースもありますが、基本的にはどんなベテランの方でも等しくオーディションを受けます。特に新人時代は、まだ名前も全然出ていないし、どうやったらオーディションに受かるのかわからなくて。見えない壁にぶつかって、神社をめぐって神頼みをしたり、部屋をきれいにしてみたり。そんなことより技術を磨けって感じですけど(笑)。

美羽:神頼みも大事ですよ!

未可子:答えがないので、自分なりの何かを見つけようと頑張りましたね。アニメを見るのはもちろんですし、日常的に芝居に触れるようにして。映画やドラマを見たり、生のお芝居を見たり。そうやって紛らわせていました。

──自分が選ばれない時も、理由は教えてもらえないんですよね?

未可子:そうなんです。ジャッジするスタッフさんに聞いても、「あなたが悪いわけじゃない。合格した人に選ばれる理由があっただけ。縁やめぐり合わせだから、たとえ落ちても自分を卑下しないでいいよ」って。「ただ、うまくめぐり合わせにフィットするように、自分の武器を持っていたほうがいいかもね」ってアドバイスをいただいたこともありました。

美羽:えー、こんなすごい方なのに!

未可子:初めてオーディションを受けた時は合格したのですが、声優のお仕事を始めたばかりの頃は「この人誰?」って感じでしたし、そもそもオーディションの話自体が来ないんですよ。ちょっとずつ「この作品に出ているんだ、じゃオーディションを受けてもらおうか」と窓口が広がっていきました。それでも年に100本受けても、合格するのは数割。打率が低いのが当たり前なんです。

美羽:大変だ……。

未可子:でも、アニメ以外にもお仕事はあるので。可能性を広げる時間だと思って、別のフィールドにもチャレンジしたり。

美羽:声優さんは、多方面で活躍されていますもんね。

未可子:舞台をやったり、歌を歌ったり。ひとつのジャンルに縛られず、いろいろ挑戦しやすい職業ではあるかもしれませんね。

美羽:声優志望の若い子も多いじゃないですか。すごい激戦ですよね。

未可子:そうですね。養成所や学校で声優を目指す方も大勢いますし、声優人口も数千人と言われていますからね。恐ろしいです(笑)。

美羽:そこで主演されるんですからすごいんですよ、やっぱり。

未可子:ご縁をいただいて……という感じです。

美羽:アルテ役もぴったりだと思いました。マンガを読みながら、未可子さんの声で脳内再生していました(笑)。

──美羽さんが最初に壁を感じたのは?

美羽:大学時代は版画専攻で、白黒の銅版画を作っていました。でも、アートの世界は一点ものを大切にする傾向があって、海外では絵画に比べて版画を軽んじる方も。もちろん素晴らしい版画家さんもたくさんいらっしゃいますが、壁を感じることもありました。そこから色を使った一点ものの作品を生み出すために、まずはニューヨークで自分の意識改革をして。

 その後、式年遷宮のあとの“おかげ年”に出雲大社に参拝に行ったら、人々の祈りのような虹色のものが天を突き破っていく瞬間が見えたんです。それがきっかけで、白と黒という表現の固執から抜け出すことができました。

未可子:すごい体験……!

美羽:それ以降は壁を感じることもなく、楽しくやらせてもらってます(笑)。芸術の世界も、美術系大学はもちろん、一般大学の美術専攻や美術系専門学校から毎年3万人近い卒業生が送り出されてくるそうです。もう飽和状態を通り越して、爆発しちゃってるんですね(笑)。そういう意味では大変ですが、私は自分の描きたい世界をやらせてもらってなんとか成立しているのでありがたいですね。

未可子:アートの世界は、己との戦いですよね。尊敬しちゃいます。

「生きるうえでは衣食住のほかに“薬”が必要。芸術は魂の薬なんです」(小松美羽)

──アニメとアートは別のフィールドですが、“作品を作る”という点では共通していますよね。お互いのフィールドについて、どんな印象をお持ちですか?

未可子:アニメに限って言えば、声優は絵があり、キャラクターがいるところに声をあてていきます。ゼロから何かを生み出すわけではなく、形あるものに色をつけていく作業なんです。私の勝手なイメージですが、絵を描く方は何もない真っ白なキャンバスに自分のすべてを注ぎ込んでいきますよね。すべてを創り出す創造主、ある意味で「神」みたいな。私の芝居も第六感みたいなものですが、アーティストは“第七感”みたいなものが爆発してるんじゃないかなって。ただただすごく尊敬します。

美羽:私の場合は、ただただ心からアニメを楽しんでます(笑)。

未可子:それが一番うれしいです。アニメの存在意義は、みなさんに「楽しい!」って言っていただくことですから。

美羽:私、本当に純粋にアニメを楽しんでいるんです。ネットに感想を書き込むこともないし、周りと熱く語り合うこともなくただひとりで楽しんでいて。「面白い……。このキャラソン買うか……」みたいな。

未可子:キャラソンにまで手を出しているとは!

──未可子さんは「真っ白なキャンバスに自分のすべてを注ぎ込む」のがアーティストではないかとお話されていますが、美羽さんは自分のお仕事をどんなものだと思っていますか?

美羽:私は人間が生きていくうえで、衣食住のほかに「薬」(やく)が必要だと思っているんです。芸術は魂の薬。あまり気張らず、純粋に自分がやりたいことを突き詰めています。絵を描く時は瞑想をし、そういったところからスピリットや神獣や、土地土地のエネルギーを描いているんです。だから、無から有を生んでいるわけではなくて。

──瞑想する、とは?

美羽:第三の目を開くマントラ(真言)があるんです。それを開いて、おでこのあたりにミニシアターのようなものを作って。蝋燭のようなものを、その空間の中でぐるぐる回したり大きくしたり象の形にしたりしていきます。自由自在に変化していくと、そこから自分の意図しない変化が始まるんですね。それが始まってくると、世界が宇宙になったり、突然火山の中にいたり、砂漠の上にいたり、滝を上から見下ろしている自分がいたり、そこに龍がいたり……と変わってくるんですね。

未可子:やっぱり“第七感”なんですよ! 第六感を超える、私たちにはないチャンネルですよね。

美羽:瞑想をやっていればできますよ(あっさり)。

未可子:いやいやいや! その扉は開かないと思います!

──未可子さんは、芝居をする時どのように“第六感”を働かせているのでしょうか。アルテを演じる時はいかがでしたか?

未可子:オーディションでは、自分の中のアルテ像を提示するんです。オーディションは「このキャラクター、私はこうだと思います」という答えをひとつひとつ発表していく場。それが制作側の思い浮かんでいる像と一致すれば握手、みたいな感じなんです。でも、事前に「こうやろう」とガチガチに決めていくというより、オーディションに行って、原稿を持ってマイク前に立って、その場で頭の中に描いたものが出てくる感じ。そこで初めて、私のアルテが生まれるんです。それが第六感的な部分かもしれません。

美羽:その現場に行ってみたい……!!

未可子:自分のアルテを提示して、スタッフさんから「制作側はこう思っているので、こういう風に演じることはできますか?」と言われて調整することもあります。でも、まず第一声は「これが自分の持ってきたアルテです」って。それが自分とアルテの初めての出会いなんです。

美羽:その瞬間を見てみたいです!!

未可子:人によってやり方は全然違うので、私も他の声優さんのケースを見てみたいです(笑)。

美羽:ひとりずつオーディションを受けるんですか?

未可子:そうです。たまに相手役の方と掛け合いをしながらオーディションを受けることもありますけど、基本はひとり。私の前の方がどうだったかもわからない状況です。

美羽:こわー! ブースを出たところで、同じオーディションを受ける声優さんと会うことはないんですか?

未可子:あります。「あ、この方か」って。でも、緊張感のある雰囲気なので、そこで会話をすることはなくて。

美羽:行ってみたい……!

──美羽さんは、自分も声優をやってみたいとは思いますか?

美羽:全然思わないです。私は一視聴者として、楽しくアニメを見せていただいているので。でも、未可子さんほど有名な方なら、オーディションを受けずにどんどんオファーが来るだろうと思っていました。オーディションに呼ばれる方は、ある程度選抜されているんですよね?

未可子:オーディションも2段階あって、まずは演技を録音したテープを送るんです。その後スタジオに呼ばれて二次選考。そこで、実際に芝居を聞いていただくんです。

美羽:うわーー!! お願いします、次にオーディションがある時は見学させてください!!!

後編は4月4日配信予定です

取材・文=野本由起 写真=竹花聖美
ヘアメイク=佐々木美香

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